バラエティ番組担当に飛ばされながらバーミヤンの大仏爆破の真相に迫るスクープ番組制作のために奔走する早川俊平と聴覚障害者の響子との恋愛小説。
取材に追われ恋人との関係も雑になって別れを繰り返していた俊平が、聴覚障害者の響子との間では、いきなりまくし立てることができず、一旦頭の中で最小限の言葉にしてからコミュニケーションをとるために、苛立ちやとげとげしさが消え平穏な気持ちになれることに気づいて行くという流れが前半の読みどころです。聴覚障害者であることへのこだわりととまどいと新鮮さと愛着が微妙に交差して深みを持たせています。
後半は、仕事に追われて響子との約束を守れない俊平の焦りと失念、響子との仲の危機が描かれます。元々俊平の語りですが、後半の響子の思考がほとんど明らかにされず、危機をめぐる響子側の真相も最後まで明らかにされません。俊平側の心の動きはそれなりに読ませますし、特にラストの俊平の心の描写は見事だと思います。しかし、響子側の内心が見えないことで、どこか響子をよくわからない存在にしたままになっているのが、男の側だけからの恋愛小説という印象を残し、ちょっと残念です。
雑誌の掲載は2006年度上半期ですが、今頃になって単行本化されたのはどういう事情なんでしょうか。
吉田修一 中央公論新社 2008年2月25日発行
「中央公論」2006年4月号~2006年9月号
取材に追われ恋人との関係も雑になって別れを繰り返していた俊平が、聴覚障害者の響子との間では、いきなりまくし立てることができず、一旦頭の中で最小限の言葉にしてからコミュニケーションをとるために、苛立ちやとげとげしさが消え平穏な気持ちになれることに気づいて行くという流れが前半の読みどころです。聴覚障害者であることへのこだわりととまどいと新鮮さと愛着が微妙に交差して深みを持たせています。
後半は、仕事に追われて響子との約束を守れない俊平の焦りと失念、響子との仲の危機が描かれます。元々俊平の語りですが、後半の響子の思考がほとんど明らかにされず、危機をめぐる響子側の真相も最後まで明らかにされません。俊平側の心の動きはそれなりに読ませますし、特にラストの俊平の心の描写は見事だと思います。しかし、響子側の内心が見えないことで、どこか響子をよくわからない存在にしたままになっているのが、男の側だけからの恋愛小説という印象を残し、ちょっと残念です。
雑誌の掲載は2006年度上半期ですが、今頃になって単行本化されたのはどういう事情なんでしょうか。
吉田修一 中央公論新社 2008年2月25日発行
「中央公論」2006年4月号~2006年9月号