伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

医療情報を見る、医療情報から見る エビデンスと向き合うための10のスキル

2022-04-10 21:39:33 | 実用書・ビジネス書
 一般的に流布されているものや学術論文も含め、医療に関する情報を評価する際に頭に置いておいた方がよい、医学情報というものの性質、実験・研究が持つありがちな偏りや限界などについて解説した本。
 がん治療に関するインターネット情報の信憑性について検討された日本の研究によれば、検索上位に表示される情報は、信憑性の高い情報サイトよりも科学的根拠に乏しい有害なサイトの方が多いことが示されているそうです(2ページ)。いくつかのキーワードで検索上位20位までのサイトを評価したところ、有害な情報を提供していると考えられるサイトは3割を超え、信頼できる情報を提供しているサイトの割合(紹介されている研究結果では1割台)よりも、遙かに多いという結果だったんだそうです(3~4ページ)。
 え~っ。エビデンスと向き合う姿勢で検証してみようと思うのですが、ここで紹介されているとおりに「がん治療」でGoogle検索した上位20サイトの運営者を列挙すると
1位:国立がん研究センター
2位:ファイザー製薬
3位:日本癌治療学会
4位:小野薬品工業・ブリストルマイヤーズスクイブ
5位:北海道大野記念病院札幌高機能放射線治療センター
6位:兵庫県立粒子線医療センター
7位:日本癌治療学会
8位:がん研究会有明記念病院
9位:新緑脳神経外科横浜サイバーナイフセンター
10位:国立病院機構東京医療センター
11位:国立がん研究センター
12位:がんプラス(医療メディア)
13位:SBI損保
14位:免疫療法コンシェルジュ(医療法人珠光会の患者有志)
15位:日本がん治療医認定機構
16位:厚生労働省
17位:アフラック
18位:株式会社エース・フォース(がん治療費.com)
19位:静岡県立静岡がんセンター
20位:JA広島総合病院
でした(2022年4月10日実施)。これで3割が有害な情報を提供しているサイトだったら、心底怖い…
 すべての米国人に良質な医療が無償で提供されたとしても、早期死亡を減らすことができるのは10%にすぎないと言われている、医学的介入がもたらす健康への影響よりも、患者の健康関連行動や社会的環境が占める割合の方が大きいと紹介されています(95~96ページ)。また、薬が飲んだ人すべてに効くように思っているのはある種の錯覚、考えても見てください、副作用は薬を飲んだ人すべてに発生するわけではありません、有効性についても同じことなのです(130ページ)というのも、なるほどと思います。そこで説明されている平均的な心血管リスクを有する50歳の男性に対して心血管死亡が30%減るような医学的介入(例えばスタチン系の薬剤の投与など)を行うとその後の獲得余命は平均して7か月と見積もられた研究の実際の内容がその治療を受けた集団の7%が平均99か月の余命を獲得し残り93%の獲得余命は0ということ(129ページ:一定の効果があるといわれる治療法が実は大半の人にはまったく効果がない)はちょっと衝撃的ですが。
 統計的に有意差があると考える基準とされる5%は「経験的に」用いられている、言い換えれば何か決定的な根拠があって5%とされているわけではなくある意味で「恣意的」な基準(120~121ページ)という説明も、目からウロコの思いです。以前からなぜ5%(95%)なのかというのは疑問に思ってはいたのですが、はっきり恣意的なものといわれてみると、ストンと落ちます。
 製薬会社から医師に食事(お弁当)が提供されると医師の処方行動が変化する、たった1回の食事提供でも医師がその製薬会社の薬剤を処方する割合が有意に増えたとか(114ページ)。人間って哀しいですね。
 さまざまな点で気がつかされ刺激されることの多い本でした。


青島周一 金芳堂 2020年1月30日発行
 
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