


昨日の午後、みなとみらいホールでモーツアルトの「ホルン協奏曲全4曲」とディベルティメントK.136ならびに初めて耳にする「音楽の冗談K.522」の全6曲を聞いた。演奏は松崎裕のホルンと、昨日の演奏会のために編成されたアマデウス・カメラータという名を冠した弦楽とホルンの合奏団。
松崎裕は、元NHK交響楽団のホルンの首席を1980年から2010年までの30年もの間つとめていた。1950年生まれだから私のひとつ上で、30歳から首席をつとめたことになる。
今回のモーツアルトのホルン協奏曲全曲は私の古くから好きな曲である。多分これまで、ベートーベンのバイオリン協奏曲の次に聞いた回数は多いのではないかと思う。
私の今持っているCDはペーター・ダムのホルン、ネヴィル・マリナー指揮のアカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズの演奏で1988年版。昔LP版を持っていたが、誰の演奏だったか覚えていないのが情けない。もうすでに廃棄してしまった。
この4曲は私は第1番から第4番まで番号順に作曲されていたのだと思っていたら、昨日のプログラムの説明では、2-4-1-3の順番に作曲されたとのことであった。そして演奏順は「1番、ディベルティメント、4番、2番、音楽の冗談、3番」となっていた。
最初からホルンらしい響きが会場に鳴り響いてとても楽しい演奏であったが、最初の1番は何かしら硬い演奏で細かいパッセージがもたついていたと思う。次第にのびのびとした響きになって行って、最後の3番はとてもすばらしかった。そう、3番の最後の楽章の出だしでホルンが出損なってのやり直しと最後のコーダのちょっとしたつまずきはご愛嬌の範囲であろう。それほどしり上がりに演奏がよくなっていって満足した。
舞台の下手の演奏者の出入り口のすぐ上の席という安い席であったが、聞きづらいことはまったくなかった。ホルンの響きが、会場の高い屋根までの広い空間を漂っているように感じた。その漂っている響きの尻尾を2階席から見上げるように眺めている、そんな感じで演奏を聴いていた。とても至福の2時間半であったと思う。
初めて聞いた「音楽の冗談」はモーツアルトが下手な作曲家・演奏家を揶揄して作曲したものという解説で、最後が不協和音で終わるなどモーツアルトらしからぬ曲だが、とても難曲と思った。ホルンの惚けたような調子っぱずれのメロディーが笑いを誘う。私が感心したのは、極めて技巧的な第1バイオリンのパートとそれを極めてダイナミックに音量豊かに弾きこなした崎谷直人というバイオリニストの力量。これはすばらしかったと思う。
松崎裕のソロをじっくりと聞いたことはなかったのだが、高音の艶が特徴なのかと思った。
会場は平日の午後にもかかわらず8割以上が埋まっていて、堤剛に続いて今回も演奏会としては大きな注目を集めていたことがわかる。
前回の堤剛のバッハ無伴奏チェロ組曲全6曲演奏会といい、演奏者の集大成ともいうべき演奏会を体験できてとてもよかったと感じた。