ルネ・マグリットの作品はどうにもわからないというのが私の思いだが、そうであっても何故が忘れられない。それは何か、といつもふと思い浮かべる。何の脈絡もなく、日常生活を送っているときに、意識の底から、というよりも無意識の領域からフツと湧いてくる。
澁澤龍彦の「幻想の彼方へ」(河出文庫)を読んでも、今ひとつ私には理解できない。私には澁澤龍彦も悪戦苦闘しているように思えた。
「(マグリットの)世界の本質的な性格として、冷たさ、反復、沈黙、無時間性、無意味といった点が数えられるだろう。総じて運動の感覚、ダイナミズムが欠如しており、どこからどこまで徹底的にスタティックな世界なのだ。」
「象徴や神話のような絶対的なものを、マグリットはその画面から注意深く排除する。朱里レアリストとしては例外的な存在で、彼はフロイトやユングの敵なのである。精神分析学者の分析を不可能にするようなイメージを、彼はわざわざ選んでいる」
「今日、マグリットの絵が一部にもてはやされているという事実の深い原因には、この彼の自然との親近ということもあるのではなかろうか、と私はひそかに想像する。」
「マグリットが六十五年の生涯において実現したのは、一種の文学的絵画、一種の哲学的絵画ではなかったろうか‥。今後ますます深まるであろう世紀末的な危機の時代における、新たな絵画のすすむべき方向を暗示している‥。」