
2月15日に熊谷守一展の感想を記載してから、その2をすっかり忘れてしまっていた。有名な「猫」(1965年、愛知県美術館蔵)の猫を見たときの感想である。
実はこの猫、何となくふてぶてしい割に愛嬌もあり、私も含め好きな人は多い。しかし会場でこの作品を見て、私は何となく落ち着かなくなった。どうも座りが悪い、と感じた。文字通りの意味で座りが悪い。何が変なのか随分長い間見ていた。
いくつか気がついたのだが、まず、この猫の載っているような「木の板」のような薄い茶色は何なのだろうか。私は木の厚みのある板だと考えた。しかし部屋の中にこんなものは置いてはいない。縁側の桟だろうか。すると奥は畳で、手前は板の縁側になるが、奥と手前で色が同じなのでちがうようだ。舞台装置がどうもよくわからない。
次に、この猫はどの平面にいるのか、ということがわからなくなった。よく見ると尻尾は垂れ下がっている。すると猫の右側は宙に浮いていることになる。そのわりに右の前脚の肘はちゃんと体を支えている。もしもこの右側が廊下などのちゃんとした平面であるならば、尻尾は垂れ下がるのではなく、手前に折れ曲がらなくてはならない。この尻尾がどうしても腑に落ちなくなった。
そしてみっつめに右の前脚が宙に浮いているように見えることにも気がついた。
最期の四つ目として、猫にヒゲがない。この髭が無いのは何となく「愛嬌」で済ませられそうだが、最初の三つの疑問は最後まで氷解しない。
以上の点が気になって仕方がない。ここに描かれた空間はどこにでもありそうで、実は3次元空間としてはあり得ない空間構成であることに気がついた。
しかしそれにもかかわらず、猫の立体的な存在感がキッチリと決まっている。何とも不思議な空間を熊谷守一という画家が作り上げたものだ、と思う。