20分ほどの軽いウォーキングに出かけた。ときどき顔にポツンと雨粒が落ちてきたが、傘が必要な雨ではなかった。
気温はそれほど高くないものの、湿度が高く、気持ちのいい夜ではなかった。雲はところどころ切れていたが、星も月もまったく見ることができなかった。
★鳴きもせでぐさと刺す蚊や田原坂 夏目漱石
先ほど夏目漱石の句「叩かれて昼の蚊を吐く木魚かな」を取り上げた。取り上げたといっても解説したわけではなく、分かりやすい句なので特に何も書かなかった。
同じく「蚊」を季語にしたこんな句もあった。
田原坂は1877(M10)年の西南戦争の大激戦地のあった田原坂。その1897(M30)に漱石は熊本の旧制五高の英語教師として赴任している。このころ多くの俳句を作っている。
まだ西南戦争の名残りもあったかもしれない。鉄砲の打ち合いだけでなく、白兵戦の刀による死闘もあったようで、それを踏まえて、蚊が音もなく不意に切りつけるように刺してくるのを読みこんだものであろう。
蚊も必死に人を刺す。やぶ蚊であれば一層そこは痛痒い。小さな蚊の必殺の一撃にたじろぐ人間である。
今とは違い、激闘の記憶がある中での句とみると、軽妙な笑いだけではなく、凄みを感じる句である。
明治という時代の殺伐とした側面をうかがい知ることのできる句である。