今の日本で観察されるのは、少子高齢化/経済状況の悪化/円安/人権意識の向上などが同時多発的に起こるという現象(病気で言えば合併症)である。
日本はバブル崩壊前から、アメリカではなくむしろ発展途上国と競争する方向を選んだが、その結果今やプラットフォーマーとしての地位を失い(GAFAやBATHと比較してみればよい)、さらに競争相手=途上国の人件費の低さもあって労働者の賃金は停滞し、にもかかわらず成熟社会の一角として、労働者の権利についても以前より保護を強めざるをえない状況になっている、ということだ。そしてここに少子高齢化による生産年齢人口の減少が拍車をかけている。
そういった環境であるため、人手不足と賃金上昇の停滞で労働条件が悪化する業界が増えているのは必然的なことだろう。「欲しいのは人手じゃなくて奴隷だろ?」と言われる所以である。
こうした中、情報もシェアしやすくなっているのでブラック環境には人が寄り付かなくなり、とはいえその仕事が不要なわけではないから、インフラの崩壊といった副作用がこれからどんどん増えていくと予測される(他にもアニメーター、運送業界、小売業、飲食店など、厳しい労働環境と人手不足に現在進行形で苦しみ、さらにそれが加速していくであろう業界はいくらでも存在する)。
例えばバスについて言えば、タクシーに転換すればいいのでは?といった意見が出るかもしれない。しかしそもそも、タクシー料金の高さが利用者のネックになる上、タクシー運転手も上限を80歳にするという驚愕の話も出ているくらいだから、地域による偏りがあるとはいえ、こちらの人手確保もかなり厳しいんのではないか。この場合には、「コンパクトシティ化とライドシェアの組み合わせ」といった対策=トータルな社会設計による手当ては可能だろう。
しかし、業界の抵抗などもあるから、そうすぐには変わらないと予測される。例えば、あまりにも不便さが深刻化すれば、「移動の足を失った老人たちが既存の仕組みを維持しようとする政治家には票を入れない」といった行動に出たりする中で、ゆるやかに意見が反映されていき、地域に深刻な実害を出しながら、相当な時間をかけて変化をしていくことになるのではないか(だからと言って、今は何をしても無駄とか、今は何もしない方がいい、という話ではない。また、変化させれば全ての問題が解決するといった単純な問題でもない)。
さて、そんなことを考えていた折に今中国との兼ね合いで深刻な人手不足に陥っているホタテの殻剥きについて、これを刑務作業としてやることに関しての動画があったので見てみた。
なるほど、これなら安い労働力を確保できるので確かに有効な選択肢だと思う。一般の国内労働者は始めからこのような仕事を選択肢に入れず、賃金が低迷する日本で働きたい外国人労働者が減っていく以上、どこかで賄うしかないわけだが、その担い手は急増し、かつ生活不安を抱える老人たちに加え、囚人もその候補に挙がるというわけだ。
これからの日本は困窮による犯罪増加が予測されるが、それによって収監された囚人たちの手による廉価な作業で人手不足を補い経済を回す、という構造だが、さすがにこの地獄のマッチポンプには思わず肩をすくめてしまった次第である(なぜマッチポンプなのかと言えば、刑務作業があくまで安価な労働を押し付けるというコンセプトで設定されるなら、それは社会に出て役立つわけでもないので、そこから生活苦による再犯&刑務所逆戻り、という負のスパイラルに繋がることが予測されるためだ)。
ともあれ、これまでは必死に糊塗していた日本社会のメッキがどんどん剝がれていく様が、より一層わかりやすく、かつ広範に観察されるのが今日の状況と言える(もちろんずっと前から3.11に絡む人災の話や、東京五輪の構造的問題など散々指摘されてきたけれども、ジャニーズ問題や芸能界全体の旧弊、あるいは大手マスメディアの隠蔽構造など、ここまで大きな組織の問題点が連続して報じられる機会はなかなかなかったのではないかと思う)。
もちろん絶望したところで何も変わらないのだが、さりとて少なくともこういう現状認識から始めない事には、もはや手の施しようがない状況とは言えるのではないだろうか。
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