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お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

新・仁義なき戦い。

2013-11-06 | キル・ビルのルーツを探せ!
「キル・ビル」のルールを探せ!(その17)★布袋寅泰作曲 ♪Battle Without Honor Or Humanity

■「新・仁義なき戦い。」(2000年・日本)

監督=阪本順治
主演=豊川悦司 布袋寅泰 佐藤浩市 哀川翔

 タランティーノは昔の東映ヤクザ映画が大好き。でも昔の役者をキャスティングするわけにいかないので現在ヤクザ映画を何本か参考に観た。日本人俳優のキャスティングに大きな影響を与えた「殺し屋1」、「PARTY7」。そしてもう1本が本作、「新・仁義なき戦い。」である。この映画がから「キル・ビル」に引用されたのはなんと音楽だった。もはや「vol.1」のメインテーマと呼んでも差し支えない、布袋寅泰作曲のテーマ曲 Battle Without Honor Or Humanity(新・仁義なき戦いのテーマ) 。タランティーノが審査員長を務めた2004年のカンヌ映画祭でも、彼が舞台に登場するBGMにこの曲は使われた。まるでレスラーの入場曲だな。布袋寅泰は、既にマイケル・ケイメンとのコラボレーションでオーケストラとの共演作品を海外でもリリースしていたし、ケイメンが音楽担当をしたアトランタ五輪閉会式での演奏は世界中に流れている。だが自作が世界的に注目されるのはもちろんこれが最初だろう。「vol.1」で使用されたこの曲に関してレコード会社に問い合わせが殺到したことから、イギリスでは布袋のギターインストアルバム「Electric Samurai」がリリースされるに至った。これにはタランティーノがライナーを寄稿している。

 オーレン・イシイが部下と共に青葉屋の玄関から奥座敷まで歩く印象的な場面。そのバックに流れるのがこの曲である。この場面のカメラワークは、「新・仁義なき戦い。」の最初の方、佐藤浩市が岸部一徳に近づく場面のカメラワークにどこか似ている。狭い半間廊下をカメラは行きつ戻りつ、佐藤浩市の姿を追う。「vol.1」での廊下は大勢を連れて歩く為にもっと広いけれどもいかにも日本家屋らしいセットの壁が動いていく背景は共通点を感じさせる。でもこの”一点消去の構図”をよく使う監督といえばスタンリー・キューブリック。もしかしたら「時計じかけのオレンジ」あたりへの敬意も込められているのかもなぁ。「新・仁義なき戦い。」でのこの曲の使い方も印象的だ。組長の遺骨と共に黒塗り車の葬列が続く、長い長いオープニングタイトル。葬儀の車が故障したトラクターに止められた後、一斉にヤクザたちが車から降りてくるスローモーションの場面に、ミュートしたギターの音がかぶさってくる。あの曲だ。そしてやっと出てくる監督のクレジット。映画のクライマックス、布袋の店で飲んでいる佐藤浩市をトヨエツが襲撃する場面にもこの曲は使われる。この曲は、これから何かが起こる・・・そんな予兆を感じさせる。

 映画本編は大阪で実際にあった抗争をモデルにし、組内部の対立を群像劇として描いていく。僕は阪本監督作を「どついたるねん」しか観ていないだが、女性をとことん脇に配した男臭い作風はやはり健在。在日コリアン役を見事にこなす布袋も素晴らしいのだが、哀川翔が特にうまい。でもさすがに深作欣二作の域までは達していない。悶々とした主人公たちの思いや悲壮感ばかりが印象に残って、男たちの鉄砲玉のような疾走感はここではみられない。それに跡目につこうとする者が支持を求めて右往左往する様は、もう政界ドラマなのね。上から「お前はオレをかつぐのか?かつがないのか?」って話。だから庶民としてはちょっとシラけてしまう。深作の頃は下っ端が強気に「かつがなくてもいいんか?」と迫り、挙げ句に上に殺されるお話。下っ端の生き様、悲しさ、切なさという他の世界でも共通の感情があったと思うのだ。だからこの「新」を観て最も心に残るのは、トヨエツと布袋の腐れ縁のような人間関係。「またハンパしやがって」「おかん呼んどんで」って台詞がグッとくる。





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