「キル・ビル」のルーツを探せ!(その28)★マカロニウエスタン
■「星空の用心棒/I Lunghi Giorni Della Vendetta (Long Days Of Vengeance)」(1967年・イタリア)
監督=スタン・バンス
主演=ジュリアーノ・ジェンマ フランシスコ・ラバル コンラッド・サンマルティン
「キル・ビル」、特に「vol.2」ではマカロニウエスタンの影響が色濃く感じられる。もちろん、復讐劇が多いのもその理由だろう。技法の面では、例えばブライドとエルがトレーラーの中でにらみ合う場面。ここでの”目のアップ”は、セルジオ・レオーネ監督作(「夕陽のガンマン」等々)にそのルーツがある。「vol.2」ではマカロニウエスタンの様々な楽曲があちこちに散りばめられている。「vol.2」のサントラに収録されているのは、「続・夕陽のガンマン 地獄の決闘」・「豹/ジャガー」・「さすらいのガンマン」の3作品、「vol.1」のサントラにも「怒りのガンマン 銀山の大虐殺」が収められている。
「vol.1」のアニメーション場面で、殺し屋プリティ・リキがオーレン・イシイの父親にとどめをさす場面に流れたのが、この「星空の用心棒」の楽曲だ。主演は「荒野の1ドル銀貨」などマカロニウエスタンが生んだスター、ジュリアーノ・ジェンマ。作曲は「黄金の七人」で有名なアルマンド・トロバヨーリ。スキャットを使った都会的な楽曲が持ち味なのだが、ウエスタン向け楽曲を研究したんだろう、トランペットやエレキギターをフィーチャーしてエンニオ・モリコーネ的なスコアに仕上げている。
”復讐への長き道”という原題を持つこの映画をお手軽な低予算マカロニウエスタンと言うなかれ。けっこう充実したメンバーなのだ。無実の罪を着せられた主人公が復讐するお話自体は、アレクサンドル・デュマの「モンテ・クリスト伯」(巌窟王)を翻案したもの。監督のスタン・バンスは1960年にヴェネチア映画祭で新人監督賞を受けたこともあるし、編集は「グレートハンティング」「ポールポジション」など記録映画の監督や「ニュー・シネマ・パラダイス」の編集も担当したマリオ・モッラ。
主人公は銃の名手って訳でもない。奇策と知恵で勇敢に宿敵に立ち向かう。そこが西部劇にありがちな圧倒的に強いヒーロー像とは異なる。父親を殺して鉄道会社を我がものにする悪役は、主人公の恋人だった女性を妻にしている。彼は彼女にも協力を願う。しかしハーバード大卒の医師と名乗るヤブ医者と娘や判事の力を借りて復讐を遂げるのだ。マカロニウエスタンは、単にドンパチで片をつけるハリウッド西部劇の明快さとは違った”間”という緊張感がある。そして妙なアイディアも魅力の一つ。この映画でも指先に糸をつけて引き金を引いたり、保安官バッヂを手裏剣のように投げたり・・・。だが登場人物とストーリーの面白さが、やはりこの映画の魅力かな。それにしてもこの邦題、筋とはなんの関係もない・・・。