山里に生きる道草日記

過密な「まち」から過疎の村に不時着し、そのまま住み込んでしまった、たそがれ武兵衛と好女・皇女!?和宮様とのあたふた日記

池波正太郎の人間洞察力

2016-07-09 19:31:04 | 読書
 引き続き、池波正太郎の代表作『剣客商売1』(新潮文庫、)を読む。
 老練で風雅な剣客秋山小兵衛とその息子の剛健な大治郎との親子を中心に江戸の悪を痛快に解決していくシリーズ。
 高齢だが小兵衛の飄逸な人柄が魅力的であり、肝心なところでは力を発揮するかっこよさが心地よい。
 時代は金権腐敗政治の田沼意次が老中だったときだが、意次の柔軟さを表出させながら一面的に描かないところがまた池波らしい。

                            
 さらに、『仕掛人・藤枝梅安/殺しの4人』(講談社文庫、2001.4.)も、人気あるシリーズものだ。
 表の顔は鍼の名医、裏の顔は仕掛け人=殺し屋の梅安。
 ゴルゴサーティンを想起させるニヒルと人情味とを併せ持つ展開が快適だ。

    
 梅安の冷酷な現実認識と人間味を共感する優しさとが同居しているのが、池波の心象風景そのものでもあるように思う。
 「生まれつきの悪人というのは、おのれの悪業を悪いと思わぬ。そういう悪人が、いちばん恐ろしい」と梅安に言わせている。
 同時に、池波の女性観は「女という生きものはみんな同じだよ」という彼の複雑な生い立ちから反映された蔑視も感じられないわけでもない。

                             
 池波の賭け事や放蕩の遊びから学んだ人間洞察力は小学校卒業してすぐ奉公に出た社会体験の豊富さとともにある。
 そこから輻射する「怒り」や「優しさ」とが「せつなさ」に昇華して、作品のメロディーとなり、登場人物の魅力になっている。
 また、どこのパートから読んでも背景や人物がわかる「わかりやすさ」も、相手の読者の立場に立ったサービス精神・優しさとみる。
 さらには、江戸の街並みに誘引させられ、グルメな店を味わいながら、かっこいいヒーローに出会うワールドが快楽でもある。
 
  
          
 
コメント
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