ときどき通る国道の擁壁にイワタバコの花が咲いていた。ずいぶん前に数メートルの群落を発見したが、今では10m近くの群落に成長している。日陰の部分が長くはないので大群落にはならないだろうが、いつもどおり目立たないでいてほしいとせつに願う。山野草としての人気も強いが、山菜や薬草としても活用されているので盗掘が心配だ。
擁壁の網のなかで根をおろしているので盗掘は何とか避けられてはいる。それ以上に、車を運転していると気がつかないまま通過しているのが幸いしているのかもしれない。それにしても、つややかな花だ。
柿本人麻呂が「山ヂサの白露しげみうららぶる心も深くあが恋止まず」と人麻呂歌集に詠んでいる。「山ヂサ」とはイワタバコのことらしい。
人麻呂が烈しい恋歌を謳うほどにこの濡れて重くなったイワタバコの魅力は尽きないということでもあるだろう。下垂している花の重みは慎ましさを表現しているが、鑑賞する側からは垂れた花を下からのぞくしかない。また、紫色は万葉の時代を彷彿とさせるものがある。不比等に刑死させられたとする説もあるほどに人麻呂の死は非業の最後だったらしい。その彼が情熱込めてイワタバコを謳った在りし日が貴重だったということでもあるねー。