一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『ナミビアの砂漠』……河合優実を137分間堪能できる山中瑶子監督の傑作……

2024年10月04日 | 映画


本作『ナミビアの砂漠』を見たいと思った理由は、二つ。

➀大好きな女優・河合優実の主演作だから。


河合優実の出演作は、映画だけでも、
『喜劇 愛妻物語』(2020年9月11日公開、監督:足立紳)
『サマーフィルムにのって』(2021年8月6日公開、監督:松本壮史)
『由宇子の天秤』(2021年9月17日公開、監督:春本雄二郎)
『ちょっと思い出しただけ』(2022年2月11日公開、監督:松居大悟)
『愛なのに』(2022年2月25日公開、監督:城定秀夫)
『女子高生に殺されたい』(2022年4月1日公開、監督:城定秀夫)
『冬薔薇』(ふゆそうび)(2022年6月3日公開、監督:阪本順治)
『PLAN75』(2022年6月17日公開、監督:早川千絵)
『百花』(2022年9月9日公開、監督:川村元気)
『線は、僕を描く』(2022年10月21日公開、監督:小泉徳宏)
『ある男』(2022年11月18日公開、監督:石川慶)
『少女は卒業しない』(2023年2月23日公開、監督:中川駿)主演
『ひとりぼっちじゃない』(2023年3月10日公開、監督:伊藤ちひろ)
『あんのこと』(2024年6月7日公開、監督:入江悠)主演

などを見続けてきて、大好きになったし、
かなり以前より「河合優実」推しを公言してきた。
一般(世間的)には、河合優実は、
TVドラマ「不適切にもほどがある!」(2024年1月26日~3月29日、TBS)
での小川純子役でブレイクしたような印象を持たれているが、
映画ファンの間では、かなり以前より評価され、注目されていたのだ。



➁大好きな女優。唐田えりかがキャスティングされていたから。


唐田えりかを、美しき映画女優としてはっきり認識したのは、
濱口竜介監督作品『寝ても覚めても』(2018年9月1日公開)においてだった。
そのレビューで、私は、唐田えりかの“美の衝撃”について次のように記している。


濱口竜介監督の商業映画デビュー作は、
突然行方をくらました恋人を忘れられずにいる女性が、
彼と“うり二つ”の男性と出会って揺れ動くさまを描いたラブストーリーであった。
映像が美しく、
静かに進行するストーリーの後に、驚きの展開が待っている傑作で、
商業映画としても成功している作品だと思った。

そして、ストーリーの展開以上に驚かされたのは、
ヒロイン・泉谷朝子を演じた唐田えりかの“美”であった。
〈こんなにも美しい女優がいたのか……〉
という驚き。



(中略)
本作『寝ても覚めても』での唐田えりかとの出逢いは、
古くは、
『ロミオとジュリエット』(1968年)でのオリヴィア・ハッセー、
『勇気ある追跡』(1969年)でのキム・ダービー、
『赤頭巾ちゃん気をつけて』(1970年)での森和代、
『おもいでの夏』(1971年)でのジェニファー・オニール
新しくは、
『阿弥陀堂だより』(2002年)での小西真奈美、
『ラブ・アクチュアリー』(2003年)でのキーラ・ナイトレイ、
『パッチギ! 』(2005年)での沢尻エリカ、
『天然コケッコー』(2007年)での夏帆、
『愛のむきだし』(2009年)での満島ひかり、安藤サクラ、
『最後の忠臣蔵』(2010年)での桜庭ななみ、
『SUPER8/スーパーエイト』(2011年)でのエル・ファニング、
『海街diary』(2015年)での広瀬すず、
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017年)での石橋静河、
『四月の永い夢』(2018年)での朝倉あき
との出逢いに匹敵する。
一目惚れしやすい(熱しやすく冷めにくい)私としては、(笑)
もうこれ以上、好きな女優を増やしたくないのだが、
またもや唐田えりかに一目惚れしてしまった。



手放しの絶賛である。(笑)
ところが、2020年1月、『寝ても覚めても』で共演した東出昌大との不倫が発覚。
世間のみならずいろんなメディアからも大バッシングを浴び、
レギュラーとして出演していたTVドラマを途中降板させられ、
専属モデルを務めていた雑誌からも降ろされるなど、
TV界からも映画界からも一時姿を消した。
2021年9月、短編映画『something in the air』に主演し、1年半ぶりに女優業再開。
その後、
『の方へ、流れる』(2022年11月26日公開)主演
『死体の人』(2023年3月17日公開)ヒロイン
『真夜中のキッス』(2023年6月23日公開)主演
『朝がくるとむなしくなる』(2023年12月1日公開)主演

などの映画に出演している。
最近では、Netflixの配信ドラマ
「極悪女王」(2024年9月19日~)で長与千種を演じ話題になっている。



河合優実と唐田えりかという、私の大好きな女優が出演している映画『ナミビアの砂漠』は、
絶対に見逃すことはできないと思った。




監督・脚本は、
わずか19歳という若さで撮影、初監督した『あみこ』(2017)が、
PFFアワードで観客賞を受賞し、
その後第68回ベルリン国際映画祭のフォーラム部門に史上最年少で招待されるなど、
各国の映画祭で評判となり、その名を世に知らしめた山中瑶子。


新作『ナミビアの砂漠』は、
カンヌ国際映画祭で「若き才能が爆発した傑作」と絶賛され、
女性監督として史上最年少となる国際映画批評家連盟賞を受賞している。



2024年9月6日公開の作品であるが、
佐賀では少し遅れて9月27日よりシアターシエマで公開された。
で、先日、ようやく見ることができたのだった。



21歳のカナ(河合優実)にとって将来について考えるのはあまりにも退屈で、
自分が人生に何を求めているのかさえわからない。


何に対しても情熱を持てず、恋愛ですらただの暇つぶしに過ぎなかった。
同棲している恋人ホンダ(寛一郎)は、


家賃を払ったり料理を作ったりして彼女を喜ばせようとするが、
カナは自信家のクリエイター、ハヤシ(金子大地)との関係を深めていくうちに、


ホンダの存在を重荷に感じるようになる。




才能ある若い女性監督の映画には、
あまりに芸術に走り過ぎて、
難解で面白味のない映画になることもあり、(そんな映画に遭遇すると地獄の2時間になる)
137分という上映時間の長さもあって、かなり警戒していたのだが、
まったくの杞憂であった。
冒頭から、斬新で魅力的な映像に惹きつけられ、
あっという間の137分であった。
何よりも嬉しかったのは、河合優実がスクリーンにずっと出ずっぱりであったこと。


私の(極私的な)感覚では、
上映時間の95%、いや98%、河合優実がスクリーンに映っていたような気がする。


カメラがカナ(河合優実)をずっと追い続け、
「密着ドキュメンタリー」並み、いや、それ以上の密着度であったし、
そのライブ感が半端なかった。


ドラマ性がないわけではないが、判りやすい起承転結があるドラマでもないし、
ドキドキさせはするものの、胸ときめかせる感動シーンがあるわけでもなく、
ただカメラがカナをずっと追い続けるだけなのだが、


場所、場所で、カナは相手や物や音や空気と反応し、
変化し、化合し、合成し、腐食し、分解し、感光し、核融合し、核分裂し、核爆発する。
その化学反応、連鎖反応がすこぶる面白い。
河合優実の様々な顔の表情が見られるし、


河合優実の様々な(裸体を含めた)躰の表情も見ることができる。


「河合優実について知ることのすべて」と題したいほどに、
河合優実の宇宙がスクリーンに広がっていた。


河合優実ファンの私としては、実に楽しい、
幸福感に満ちた、至福の137分であった。



カナ(河合優実)が彼氏と同棲している部屋の隣人・遠山ひかりを演じた唐田えりかは、
出演シーンは短いものの、鮮烈な印象を残す。
夜中、カナが部屋のベランダに出ると、たまたま居合わせた遠山が微笑むシーンは、
ミステリアスで惹き込まれるし、


カナと遠山が劇中で焚き火をしながら話すシーンも素晴らしい。
自分の存在価値を見失っているカナに、遠山は、
周囲の評価なんてどうでもいいと言わんばかりに、
「大丈夫だよ。100年後には全員死んでるでしょ」
と言うのだが、
(ネットで未だに叩かれ続けている)唐田えりかが言うから説得力があるし、
納得させられる。


昔読んだ江國香織詩集『すみれの花の砂糖づけ』(理論社/1999年11月刊)の中の、
「無題」と題する詩に、こういうのがあった。


どっちみち
百年たてば
誰もいない
あたしもあなたも
あのひとも


恨んでいるあなたも、恨まれているあのひとも、
嫉妬しているあなたも、嫉妬されているあのひとも、
愛しているあなたも、愛されているあのひとも、
嫌われているあなたも、嫌っているあのひとも、
悩んでいるあなたも、悩ませているあのひとも、
100年後には誰もいないのだ。
人生も、人間の運命も、高い所から俯瞰して見ると、
(ちっぽけな)人の悩みなど、本当にちっぽけなものに思えてしまう。
〈それほど悩まなくても……〉
と思ってしまう。

太陽の寿命はおよそ100億年と言われていて、
太陽は、1億年に1パーセントずつ明るくなってきている。
5億年くらい経つと、地球は太陽の熱のために海水が蒸発してしまい、
生き物が棲めなくなってしまう。
そしてあと50億年後くらいには、太陽が大きく膨らんで、
地球を飲み込んでしまうといわれている。
地球さえ、やがて無くなってしまうのだ。

ホーキング博士は、かつて、こう発言したことがある。

「人類は今後1000年以内に災害か地球温暖化のために滅亡する」
「他の惑星に移住することしか人類が生存する方法はないだろう」

(毎日新聞 2000年10月29日)

「宇宙に進出しなければ、人類はウィルスにより今千年紀末までに滅亡する可能性がある」
(ロイター通信 2001年11月16日)

地球が滅亡する日を待たずとも、人類は1000年後には滅亡しているかもしれない。

そういう意味で言うと、
本作『ナミビアの砂漠』の冒頭のシーンは印象深い。
駅前のペデストリアンデッキを俯瞰するように固定カメラが撮っていて、
ググッとズームすると、ひとりの若い女性の姿を捉えられる。
それがカナだ。
5億年経つと生き物が棲めなくなる地球、
1000年経つと、人類が滅亡しているかもしれない地球、
100年経つと、今生きている人がほとんどいなくなる地球、
そんな地球の、とある都会の駅前のペデストリアンデッキ、
そこを歩く、ちっぽけなひとりの人間(カナ)をカメラが捉える。
悩み渦巻く猥雑な世界に入っていくのを知らせるかのようなファーストシーンだ。
カナの住む都会はノイズに満ちている。
人の声、機械の音、工事の音、車の音、音楽……等々。
カナを様々なノイズが襲うが、
意識散漫なカナは、聞こえてくる音を無意識のうちに選択し、
かき分けるように泳ぎ、もがいていく。
そうして生まれる137分の映像と音の世界は、
どこか切なく、どこか儚く、どこか寂しい。
それは根源的な地球の哀しみであり、人間という生き物の哀しみであるのだろう。
見る者にとっても厳かで尊い137分であった。


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