一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

天山冠雪 ……私はほんのいまさっきまであの雲の中にいたのだ……

2009年12月17日 | 天山・彦岳
昨日、天山が冠雪した。
昨日は仕事だったので山に登るわけにはいかなかった。
あたりまえのことだ。
だが、本当は仕事を放り出して登りたかった。(コラコラ)
こういうチャンスはめったにないのだ。
そして今日……
〈天山山頂にまだ雪は残っているだろうか?〉
昼までには佐世保に行かないといけないので、朝7時に車で家を出る。
外はまだ薄暗い。
雪ではなく、雨が降っている。
ちょっと不安になる。
天山は雲に隠れてまったく見えない。
〈もう雪は解けてしまっているかもしれない〉
焦りながら、天山の上宮駐車場を目指してぐんぐん高度を上げていく。
高度を上げるに従って、雨が雪に変わってきた。
〈おお~〉
良い兆候だ。
〈この分だと、ひょっとしたら雪山が楽しめるかもしれない〉
そんなことを暢気に考えながら運転していたら、晴田小川内分校を過ぎたあたりから、車道に積雪が見られるようになってきた。
タイヤもちょっとスリップ気味になってきた。
〈これはヤバイ!〉
雪はかなり激しく降っている。
このまま駐車場まで行けたとしても、帰れなくなる恐れがある。
晴田小川内分校まで引き返すことにする。
安全第一。


7:37
分校の脇に車を駐め、登山靴に履き替え、登山開始。
上宮駐車場から登る予定にしていたので、予定が狂った。
少し急ぎ足になる。

8:23
上宮駐車場に到着。
分校から1時間かからなかったことにホッとする。
〈このペースなら佐世保に間に合う〉
ここまでの車道にタイヤ跡はなかったので、当然のことながら、駐車場にも車はない。


雪が、より激しくなってきた。


なんだか美しい日本画を見ているようだ。


上宮の池は薄く凍っていた。


木々も雪をまとっている。


8:38
雨山分岐通過。
ここまでずっと足跡はなかった。
これからも先も多分ないだろう。


いま、天山を歩いているのは私ひとりかもしれない。


山頂が近くなると、雪の深さも増してきた。


8:51
天山山頂に到着。
誰もいない。
たったひとりの山。
私ひとりの山。
風が強く、寒い。
途中脱いでいたアウターシェルを再び着る。


雪が創り出す造形美。


おっ、霧氷だ!


天山の花ぼうろ


深い感動に包まれる。


おっ、こちらはエビの尻尾だ。


小さくて可愛い。


まさか、今日、標高1000mちょっとの天山で、霧氷やエビの尻尾を見ることができるとは思わなかった。
くじゅうなどで霧氷やエビの尻尾を見たときの、何倍、いや何十倍の感動であった。




9:10
下山開始。
深い満足感に包まれながら、下っていく。
行きもひとり、帰りもひとり。
雪はしんしんと降り続く。
心にも雪が積もっていくようだ。


こんな贅沢、私が独り占めして良かったのだろうか……


かなり下ってきたら、雪は止み、陽が差してきた。
沢の水がキラキラ光っていた。


雪の表面も、宝石をちりばめたように輝いている。


この世はなんと美しいんだろう!


10:10
晴田小川内分校まで戻ってきたら、積雪はほとんどなかった。
なんだか信じられなかった。
あの天山山頂で見たものすべてが、幻だったのではないか……と思った。

麓まで下りてきて天山を見上げると、山頂はまだ雲にすっぽり覆われていた。
私はほんのいまさっきまであの雲の中にいたのだ……
それを誰かに話したいような気分だった。


今日、天山で、私は誰にも会わなかった。
会ったのは、可愛いイノシシの坊やだけだった。

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