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※映画の内容に(かなり)触れています。
大好きな小松菜奈が出演しているということで、見に行った作品。
小松菜奈は、
昨年(2018年)は、
『坂道のアポロン』(2018年3月10日公開)
『恋は雨上がりのように』(2018年5月25日公開)
『来る』(2018年12月7日公開)
の3本の映画に出演し、私を大いに楽しませてくれた。
今年(2019年)も3本の映画に出演予定で、
すでに、
『サムライマラソン』(2019年2月22日)
『さよならくちびる』(2019年5月31日)
は公開され、レビューも書いている。
今年最後となる出演作が11月1日に公開された。
それが、本日紹介する『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』なのである。
原作は、山本周五郎賞を受賞した帚木蓬生のベストセラー小説『閉鎖病棟』。
監督は、平山秀幸。
『愛を乞うひと』(1998年)
『信さん・炭坑町のセレナーデ』(2010年)
『必死剣 鳥刺し』(2010年)
など、好きな作品も多いが、
『エヴェレスト 神々の山嶺』(2016年)
だけは、良くなかった。(監督というより、担当した脚本家の問題であったのだが……)
最新作『閉鎖病棟 ―それぞれの朝―』は、
はたしてどんな作品になっているのか?
ドキドキしながら映画館に駆けつけたのだった。
長野県のとある精神科病院。
それぞれの過去を背負った患者たちがいる。
母親や嫁を殺めた罪で死刑となりながら、
死刑執行が失敗し、生きながらえた梶木秀丸(笑福亭鶴瓶)。
サラリーマンだったが、幻聴が聴こえ暴れ出すようになり、妹夫婦から疎んじられ、
自ら入院(任意入院)したチュウさん(綾野剛)。
不登校が原因で、母親に連れられてきて入院した女子高生、由紀(小松菜奈)。
彼らは家族や世間から遠ざけられても、明るく生きようとしていた。
そんな日常を一変させる殺人事件が院内で起こった。
加害者は秀丸。
彼を犯行に駆り立てた理由とは……
のっけから、梶木秀丸(笑福亭鶴瓶)の死刑執行のシーンがあり、
驚かされるし、厳粛な気持ちにさせられる。
だが、死んだ筈の秀丸が蘇生する……
……年月が経ち、場面は閉鎖病棟に移る。
一見、穏やかに過ごす患者たち。
だが、ある事件をきっかけに、
それぞれが重い過去を背負っていることが見る者にも知らされ、
感動のラストへと誘われる。
そもそも、閉鎖病棟とは何なのか?
看護師が病棟への出入りの度に解錠したり施錠したりしているシーンはあるが、
言葉としての説明もなかった(と思う)し、
本作の公式サイトにも記載されていなかった(と思う)ので、
(ある意味、最も重要なことなので)
ここで説明しておきたいと思う。
閉鎖病棟とは、
精神科病院で、病棟の出入り口が常時施錠され、病院職員に解錠を依頼しない限り、入院患者や面会者が自由に出入りできないという構造を有する病棟である。
また、対象とされる患者は、
原則として精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づく措置入院や医療保護入院などにより、強制的な入院形態で入院するものとされている。このため、任意入院の患者は、原則として開放病棟に入室するものとされている。ただ、訪問者に対して不安が強い場合などで特に希望の書面を差し入れた場合は任意入院でも閉鎖病棟への入院が可能である。また、病床数が少ない総合病院の精神科の場合は閉鎖病棟しかないこともあり、その場合は予め患者の同意を得た上で入室することとなる。
これは、映画鑑賞後に調べて解ったことで、
映画を見るまでは知らなかった。
なので、閉鎖病棟と言いながら、
自由に出入りできる者と、そうでない者がいることに疑問をもった。
途中、任意入院について看護師長(小林聡美)が説明するシーンはあるが、
閉鎖病棟そのものについての説明があったならば、
もっと理解しやすかったと思われる。
それから、
死刑執行が失敗し、生きながらえた者がいるのか?
ということ。
これも映画鑑賞後に調べてみると、
石鐵県死刑囚蘇生事件というのがあって、
明治時代初期の石鐵県(現在の愛媛県)で、
絞柱による死刑執行から死刑囚(田中藤作)が蘇生している。
絞柱とは、
懸垂式の処刑器具で、死刑囚のうなじに縄をかけ、その縄の先に20貫(約75Kg)の重石を吊り下げて絞首する仕組みであったらしい。
この処刑器具には欠陥があり、わずか2年しか使われず、その後、絞罪器械図式に変更されている。
絞柱で処刑された死刑囚のうち、
3人が蘇生したことが記録されているが、
処刑の経緯やその後の経緯について記録が現在に伝わるのは、田中藤作に関するものが唯一である。
それまで、生き返るという前例がなかったため、
県では処刑を担当した役人3人の進退伺いとともに中央に対処方法の指示を仰いだという。
中央政府から指示は、
「スデニ絞罪処刑後蘇生ス、マタ論ズベキナシ。直チニ本本籍ニ編入スベシ」
というもので、
生き返ったとしても既に法に従い刑罰としての執行は終わっているのだから、
再び執行する理由はない、よって戸籍を回復させよというものであった。
これは革命前のフランスでは絞首刑で稀に蘇生した死刑囚がいたが、この場合国王が赦免した事例があったことが参考とされた。
なお県の役人については検死に問題なかったとして処罰なしとなった。
その後、死刑執行が失敗し、生きながらえた例はもう一件あるらしいが、
(『キネマ旬報』での平山秀幸監督がインタビュー記事で語っていたが)
死刑執行に立ち会ったことのある元検察官によれば、
「それはありえない」
とのこと。
死刑執行された死刑囚の身体は30分間ぶら下げるのが慣例となっており、
30分もぶら下げることで「確実に」死亡しているため、
現在では蘇生する可能性は皆無であるそうだ。
閉鎖病棟とは何なのか?
死刑執行が失敗し生き永らえた者はどうなるのか?
この2点があらかじめ説明されていたならば、
もっと、すっきり本作へ入り込めたと思う。
難点といえばこの2点だけで、
概ね作品としては優れたものであったと思う。
2008年に原作と出逢った平山秀幸監督は、
原作に惚れ込み、初めて自ら脚本を執筆して、
11年越しで映画化を実現しただけあって、
作品に想いが込められており、
『エヴェレスト 神々の山嶺』のような破綻は見られず、
平山秀幸監督作品としては“秀作”の部類に入るものと思われる。
『閉鎖病棟』という題材には、
平山秀幸監督の正攻法の撮り方が合っていたと思うし、
それぞれを丁寧に描き、
感動へと導く手腕はさすがと言わざるを得ない。
梶木秀丸を演じた笑福亭鶴瓶。
『ディア・ドクター』以来10年振りの主演作となる本作では、
役作りの為、7キロもの減量をしたとのこと。
極私的な意見としては、もう少し痩せてもよかったように思うが、(コラコラ)
死刑執行に失敗し、脊髄を痛めたことで車椅子生活となった元死刑囚という難役を、
実に巧く演じていた。
幻聴が聴こえ暴れ出すようになり任意入院しているチュウさんを演じた綾野剛。
外へ自由に買い物へも行けるし、
その買った商品で院内で患者相手に商売をするような、
そんな彼がなぜ閉鎖病棟にいるのか、最初は不思議に思っていたが、
その後、彼の過去が語られ、
発作的に暴れ出すシーンも見られ、
彼への理解が深まった。
映画『楽園』(2019年10月18日公開)での綾野剛を見たばかりだが、
前作とはまた違った難しい役を、丁寧に演じていた。
女子高生、由紀を演じた小松菜奈。
ストーリー紹介で、
「不登校が原因で、母親に連れられてきて入院した女子高生」
と書いたが、
なぜ不登校になったかが重要で、
(ここから少しネタバレ)
それには義父(山中崇)からのDVが原因としてあった。
DV(ドメスティック・バイオレンス)とは、
同居関係にある配偶者や内縁関係の間で起こる家庭内暴力(身体的暴力だけでなく、心理的暴力、経済的暴力、性的暴力も含む)のことで、
由紀(小松菜奈)は義父から性的暴力を受けていたのだ。
由紀の母・佳代(片岡礼子)は、
再婚相手の島崎伸夫(中山崇)が由紀に手を出していることを知っており、
由紀がまるで好んで伸夫と関係をもっているかのように責め、
厄介払いをするように精神病院へ入院させたのだった。
その閉鎖病棟でも、由紀は、
凶暴性にある患者・重宗(渋川清彦)に暴行される。
『溺れるナイフ』(2016年)などにも同じようなシーンがあるにはあるが、
これほど過酷な運命を背負わなければならない役はこれまでなかったし、
小松菜奈にとっては大きな挑戦であったと思われる。
果敢に挑み、水準以上の演技をしており、
このことに関しては、大いに褒めたいと思う。
来年(2020年)の出演作としては、
『糸』(2020年4月24日公開予定)主演・園田葵 役
『さくら』(2020年初夏公開予定)長谷川ミキ 役
が既に発表されており、
これにまだ新作が加わるかもしれない。
来年の小松菜奈にも期待できるし、楽しみに待ちたいと思う。
主要キャスト3人(笑福亭鶴瓶、綾野剛、小松菜奈)の他では、
医師・大谷を演じた高橋和也、
患者・石田サナエを演じた木野花、
患者・重宗を演じた渋川清彦、
看護師長・井波を演じた小林聡美、
などが、さすがの演技で盛り立てていたし、
私の好きな
患者のキモ姉を演じた平岩紙(彼女の歌声も聴けるぞ!)、
由紀の母を演じた片岡礼子も、
魅力的な演技で、私を楽しませてくれた。
実は、この帚木蓬生の小説『閉鎖病棟』は、
本作『閉鎖病棟 ―それぞれの朝―』の前に、既に一度映画化されている。
『いのちの海 Closed Ward』(2001年4月7日公開)という作品で、
なんと佐賀県を舞台としている。
有明海に面した精神病院「かささぎ病院」で起きた殺人事件を通し、
人生に絶望した少女が再生していく姿を描いた内容で、
監督は福原進で、主演は上良早紀と頭師佳孝。
石堂淑朗と西村雄一郎(佐賀県在住の映画評論家)が共同で脚色している。
佐賀県以外ではほとんど知られていない作品なので、
知らない人がほとんどだと思われるが、
いつの日かDVD・BD化されて、日の目を見てほしいものである。
『いのちの海 Closed Ward』から18年、
再び映画化された『閉鎖病棟 ―それぞれの朝―』は、
笑福亭鶴瓶と綾野剛が熱演し、
小松菜奈が女優としての大いなる挑戦をしている、
平山秀幸監督の想いが詰まった秀作であった。
映画館で、ぜひぜひ。