一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『HERO』(2015) ……雨宮舞子(松たか子)に逢いたくて……

2015年07月19日 | 映画


久利生公平検事(木村拓哉)を中心とした映画レビューは多いことだろうから、
私は雨宮舞子(松たか子)を中心としたレビューを書いてみたい。
題して、「雨宮舞子(松たか子)に逢いたくて」。


2001年(1月8日~3月19日)に、
フジテレビ系「月9」枠で放送されたTVドラマ『HERO』を、
当時、松たか子のファンであった私は、
毎回欠かさず観ていた。
そのお蔭か、(んなわけない)
全11話の平均視聴率が34.3%という驚異的な数字を叩き出し、
伝説として語り継がれる連続ドラマとなった。

5年後(2006年)に放送されたスペシャルドラマも30.9%という数字に輝き、
満を持してスクリーン初登場となった劇場版(2007年9月8日公開)も、
2007年の日本映画最大のヒット(興行収入81.5億円)となった。

そして2014年、
「シーズン2」(7月14日~9月22日)が、
連続ドラマとして「シーズン1」と同じく「月9」枠にて放送された。
残念ながら、私の好きな松たか子は出演しておらず、
久利生公平検事(木村拓哉)の事務官役は北川景子だったので、
観なくてもいいか……と思ったが、
数年前からファンになっていた吉田羊が女性検事・馬場礼子役で出演していたので、
またまた観てしまった。
そのお蔭か、(んなわけない)
初回26.5%、平均視聴率21.3%を獲得し、
2014年の民放連続ドラマで1位を記録した。

あれから1年。
『HERO』が再び映画化されることになった。(2015年7月18日公開)
主演は、もちろん木村拓哉。
北川景子をはじめとする「シーズン2」のレギュラーメンバーはそのままに、
「シーズン1」でヒロインを務めた松たか子が雨宮舞子役で出演。
『HERO』ファン待望というより、
私が待望する雨宮舞子(松たか子)が復活するのだ。
見ないわけにはいかないではないか。
ということで、さっそく公開初日に、
(仕事だったので会社からの帰りに)見に行ったのだった。

パーティーコンパニオンの三城紗江子(森カンナ)が、
ネウストリア公国大使館の裏通りで車にはねられて死亡するという事故が発生する。


東京地検城西支部の久利生公平検事(木村拓哉)は、


事務官の麻木千佳(北川景子)と共に、
事故を起こした運転手(新井浩文)を取り調べる。


すると、二人の前に、
かつて久利生の事務官を務めていた雨宮舞子(松たか子)が現れる。


現在、大阪地検難波支部で検事として活躍する雨宮は、
広域暴力団がからんだ恐喝事件を追っており、
その重要証人が、久利生が担当する事故の被害者・三城紗江子だったのだ。
〈これは単なる交通事故ではない……〉
そう感じた久利生と雨宮は、合同捜査を開始する。
事故当時の状況を知るために、
ネウストリア公国の大使館員から話を訊こうと、大使館に出向き直接交渉を試みるも、
あっさり断られる。
なぜなら、大使館には、日本の司法が全く及ばない「治外法権」が存在するからだ。
言わば、大使館の中は、「日本の中に存在する外国」なのだった。
諦めきれない久利生は、アプローチを重ねるが、
当然のことながら大使館は全く応じない。
外交を崩壊させかねない禁断の行為を繰り返す久利生に、
事態を重くみた日本の外務省・松葉圭介(佐藤浩市)からは圧力が……
しかも、横断歩道の赤信号で待っているときに何者かから後ろから押されたり、
雨宮と屋台で食事しているときにトラックが突っ込んできたりと、
身の危険も迫ってくるようになる。
果たして、久利生は、「大使館の壁」の向う側にある真実にたどり着けるのか……



松たか子扮する雨宮舞子が出るといっても、
あくまで「シーズン2」のレギュラーメンバーが中心で、
雨宮舞子(松たか子)は途中からほんの少し出演するのかな~と思っていたら、
なんとなんと、のっけから松たか子がスクリーンに現れたので、ビックリ。
冒頭以降も、
雨宮舞子(松たか子)は絶え間なくスクリーンに現れ、
最後まで、東京地検城西支部の面々と面白いやりとりを繰り広げ、
久利生公平(木村拓哉)と二人で大使館に潜入捜査する場面などもあり、
なんだか、「シーズン1」の『HERO』を観ている気分であった。


「シーズン1」のTVドラマ『HERO』から14年、
2007年の劇場版からも8年が経過しているので、
〈久利生公平(木村拓哉)と雨宮舞子(松たか子)の恋愛話はないだろうな……〉
と思いきや、
いやいやそれが中心といってもいいくらいに物語が展開していくので、ビックリ。
「シーズン1」のTVドラマ『HERO』を彷彿とさせるシーンの連続に、
これまた私的には大満足であった。
(映画を見て帰宅したら、TVで特番をやっていて、木村拓哉と松たか子がデートしていた。そのデート中、木村は42歳と言っていたし、松は38歳と言っていた。二人とも若く見えるが、一般的には中年にさしかかっているといえる年齢だ。こんな感じで、中高年になっても名コンビとして活躍してもらいたいと思ったし、TVドラマ、映画共に、続編にも期待したい)


私的には大満足であったが、
その分、北川景子扮する麻木千佳の出演シーンは思ったよりも少なかったので、
北川景子ファンはもちろん、
北川景子自身も複雑な心境だったのではないか……と邪推したのであったが、
それは違ったようだった。

中学生のときに「シーズン1」の『HERO』を観ていたという北川景子にとって、
松たか子はとても尊敬に値する女優であったらしいのだ。
某インタビューで、次のように語っている。

とにかくやっぱり、松(たか子)さん=雨宮(舞子)さんが帰ってきてくださったことの感動が最初はいちばん大きかったです。スクリーンで観て、その感動がより大きくなりました。
(中略)
松さんのクランクアップが近づいてきて、すごく悲しくなりました。若いときに、素敵な尊敬できる先輩と一緒に仕事ができるっていうのは、女性にとって本当にかけがえのない経験だと思います。麻木にとっても貴重で大切な時間だったと思います。
松さんって、この仕事をしている人なら、一度は共演してみたい人だと思うんですよね。どういったふうにお芝居をされているんだろう? ってお会いする前からずっと考えていました。現場でもなにか特別なことをされているのかなとかいろいろ想像していましたけど、特別なことはなにもされていなくて、実際はとてもナチュラルな方でした。フランクに話しかけてくださいますし。でも、本番になると一気に、みんなが知っている雨宮に変わって。普段は、とても優しいお姉さんという感じで接してくださるんです。憧れるところがたくさんありました。かといって、そういう自然で素敵な女性に急に、自分がなれるわけではないんですけど(笑)。いろいろなことを積み重ねて、こういうふうになられたのだろうなと思いました。



北川景子にとってのHEROは、
久利生公平(木村拓哉)ではなくて、
案外、雨宮舞子(松たか子)だったのではないか……
そんなことを思った。
なぜなら、中学生のときに「シーズン1」の『HERO』を観ていたときの感想を、
次のように語っていたからだ。

もし、検事とか事務官にならなくても、どんな仕事についたとしても、この人たちみたいに正義感を持って、何事にも臨んでいけたらいいなと、素直に思えたんですよね。雨宮さんが新人で、一生懸命やっている姿に感情移入していました。いつか自分がOLさんとかになったら、こういう感じなのかなと。自分にとってはすごく等身大の存在でした。格闘技が好きで、さばさばしていて、媚びないヒロイン像が斬新で。いまでも、やっぱり雨宮さんが好き。だから、麻木と自分はすごくシンクロしているんです。


いや~、北川景子もしっかりしているな~
これから、北川景子のファンにもなろうかな~(コラコラ)


映画『HERO』(2015)は、
映画版だからといって、
特別にスケールが大きい物語になっているとか、
海外ロケがふんだんに取り入れられているとか、
そんなことはまったくなくて、
TVドラマ同様、
東京地検城西支部の面々の楽しいやりとりが中心になっている。








そうなっているのには、
鈴木雅之監督と並ぶ『HERO』シリーズの生みの親である脚本家・福田靖の次のような思いがあるからだろう。

僕は、2001年のドラマ『HERO』でやっと脚本家として食えるようになったんです。最初にこのチームに呼ばれたときに言われたのは「事件は起きるけど、あくまでも検事と事務官の話なのだ」ということ。お客さんが途中で、犯人わかったとか、トリックわかったとか、そういうことすらナンセンスなドラマにしなければいけない。このことは今でもキープし続けていますね。そのためにはバラエティーに富んでいなければいけないし、柔軟な発想も必要。くだらないセリフが書けたときのほうが「自分もあと10年は脚本家としてやっていける」と思う(笑)。感動的なことって、頑張ればできるんですよ。でも、そこをいかにハズしていくか。それが『HERO』ですから。


「でも、映画は違うだろ、それならTVドラマで十分ではないか……」
と揶揄する御仁もおられようが、
映画『HERO』(2015)はTVドラマとは一味違う、
スペシャル感に彩られた作品になっていたように思った。
それは、やはり、出演陣に見て取れた。
雨宮舞子(松たか子)が再び登場しているというのもあるが、
ゲストとして外務省・松葉圭介役として佐藤浩市が出演しているし、


大阪地検難波支部の部長検事・木下高雄役でイッセー尾形が、


雨宮舞子(松たか子)の事務官・一ノ瀬隆史役で大倉孝二が出演している。


特に、大阪地検難波支部の二人(イッセー尾形と大倉孝二)の演技は素晴らしい。
この二人の演技を見るだけでも映画『HERO』(2015)は見る価値がある……といえるほど。
その他、出演シーンは少ないものの、
事故を起こした運転手・徳本健也役で新井浩文が登場するし、


YOUや三浦貴大などもチョイ役で出ている。
牛丸豊(角野卓造)の娘役として、
それはまた田村雅史(杉本哲太)の妻役でもあるのだが、
ハリセンボンの近藤春菜がキャスティングされていたし、(写真出演のみ)
遊び心満載。
美しい馬場礼子(吉田羊)を、
大きなスクリーンで見ることができたのも映画版ならではの収穫だった。


「シーズン1」を懐かしむ人にも、
「シーズン2」で新たにファンになった人にも、
どちらにも満足してもらえるような作りになっている映画『HERO』(2015)。
夏休みに突入したこの時期、
映画館にはお子様向けの作品がずらりと並び、
大人が鑑賞できるような映画は少ないが、
本作は、その少ない中の貴重な一作と言えるだろう。
映画館へ、ぜひぜひ。

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