一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『ビフォア・ミッドナイト』 ……ジュリー・デルピーに逢いたくて……

2014年01月19日 | 映画
昔……
とは言っても、それほど昔ではないのだが、
ある年の秋に、
私の知り合いの(とても素敵な)女性が、こう言ったことがある。

「秋になると、小説では宮本輝の『錦繍』を読みたくなるし、映画では『恋人までの距離(ディスタンス)』を鑑賞したくなるわ」

どちらも私の好きな作品だったので、
大いに賛同したものだった。
『恋人までの距離(ディスタンス)』は、
1995年に公開された映画で、
列車のなかで出逢った、
アメリカ人のジェシーと、フランス人のセリーヌが、
ウィーンの街を歩きながら、
夜明けまでの時間を過ごし、
再会を約束して別れるまでを描いた作品。


とても素敵な映画で、
特に旅好きの人にとっては、
抱きしめたくなるような愛すべき映画だった。
ことに、セリーヌを演じたジュリー・デルピーの美しさは格別で、
男性はもちろん、
女性にもその美を称賛する人が多かったことを憶えている。
私など、ジュリー・デルピーに逢いたくて、
その後の作品も見続けたと言っていい。
※劇場公開からビデオ発売までの邦題は『恋人までの距離(ディスタンス)』だったが、『ビフォア・サンセット』が公開されると、それまで発売されていなかったDVDのリリースが決定し、新しいタイトルとして『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』に改題された。


【ジュリー・デルピー】
1969年12月21日パリ生まれ。
両親は共に役者。
14歳でジャン=リュック・ゴダール監督の『ゴダールの探偵』(1985)で映画デビュー。
ベルトラン・タベルニエやアグニエシュカ・ホランドの作品でキャリアを築く。
米ニューヨーク大学の映画学科やアクターズ・スタジオに通い、
ハリウッド作品にも出演。
クシシュトフ・キエシロフスキー監督の『トリコロール』3部作の2作目「白の愛」(1994)で主演を務めた。
リチャード・リンクレイター監督作で、イーサン・ホークと共演した『恋人までの距離(ディスタンス)』(1995)が世界的にヒット、
続編『ビフォア・サンセット』では脚本にも参加し、
リンクレイター監督、ホーク、キム・クリザンとともにアカデミー脚色賞にノミネートされた。
2001年にアメリカの市民権を取得。
2002年に映画『Looking for Jimmy』を監督。
2003年には歌手としてアルバムCD「Julie Delpy」も発表した。
主演・脚本・監督作『パリ、恋人たちの2日間』(2007)、
続編『ニューヨーク、恋人たちの2日間』(2012)を制作。
現在の生活拠点はLAとパリ。
息子がひとり。
フランス語・英語・イタリア語に堪能。


ものすごく多才な女優で、
脚本はもちろん、監督もすれば、歌手としてCDも出す。
『ビフォア・サンセット』で歌った自作の「Let me sing you a waltz」は秀逸。


今年(2014年)の1月18日、
『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』、
『ビフォア・サンセット』に続く、
第3弾『ビフォア・ミッドナイト』が公開された。
いつもは数か月遅れでしか上映しない佐賀のシアターシエマが、
嬉しいことに全国公開日と同じ日に公開したので、
喜び勇んで見に行ったのだった。

列車のなかで出逢った、
アメリカ人のジェシーと、フランス人のセリーヌが、
ウィーンの街を歩きながら、
‟夜明け”までの時間を過ごし、
再会を約束して別れるまでを描いた『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』。


それから9年後、
ジェシーはウィーンでの一夜を小説に綴り、
作家として訪れたパリの書店でセリーヌと再会する。
ふたりが過ごした‟夕暮れ”までのわずかな時間を描く『ビフォア・サンセット』。


そして、さらに9年後、
美しいギリシャの海辺の町を舞台に、
‟真夜中”までお互いの思いを語り合う本作『ビフォア・ミッドナイト』。


前作『ビフォア・サンセット』では、
それぞれにパートナーがいながらも、
お互いへの感情に気づいてしまった二人。
あの後、どんな人生を歩いて来たんだろう……
パンフレットには、シリーズ最終章と謳ってあったので、
この3部作がどのような結末を迎えるのかも楽しみだった。

『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』の結末が、
『ビフォア・サンセット』で語られていたので、
『ビフォア・サンセット』の結末も、
『ビフォア・ミッドナイト』で語れると思いきや、
いきなり
「えっ、そうなってたの?」
と驚かされる。
予告編を見ればすぐに解ることではあるが、
あえてここには書かずにいようと思う。
『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』で出逢い、
『ビフォア・サンセット』で再会し、
『ビフォア・ミッドナイト』で本物の愛へとたどり着く。


それにしても、この『ビフォア・ミッドナイト』でのジュリー・デルピーには驚嘆。
女優魂といったものを見せつけられる。
いやはや、ジュリー・デルピーはすごい女優だ。
『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』では天使のような美を、
『ビフォア・サンセット』では洗練された大人の美を、
『ビフォア・ミッドナイト』では成熟した中年女性の美を……
とでも表現しておこうか。
本作を見て、益々ジュリー・デルピーが好きになってしまった。


前二作と同様、本作でも、ジェシーとセリーヌの会話で物語が展開する。
会話がすべてと言っていい作品だが、
その会話のなかに、ユーモアがあり、秘めた思いがあり、哲学がある。
そして、会話が途切れたときの静寂に、哀しみがあり、愛がある。
何度でも見たくなる作品である。


願わくは、
さらに9年後、
そのまた9年後も、
続編を作って欲しいと思う。
あの天使のようだったジュリー・デルピーが、
おばあさんになるまでを見たい気がする。

良い映画に出逢うことができた。
良い女優に出逢うことができた。
人生の歓びは、こういうところにもある。

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