一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』 ……チュティモンに魅せられて……

2018年11月26日 | 映画


「タイ映画史上歴代No.1の大ヒットを記録!」
「世界16の国と地域でサプライズ大ヒット!」
「アジアを席捲する話題のクライム・エンターテインメント」
「高校生版『オーシャンズ11』だ!」
「カンニング編『ミッション:インポッシブル』!」

等々、
映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』についての賛辞が、
田舎に住む私にも届いていた。

タイ映画は、私の住む佐賀県とは浅からぬ縁があり、
佐賀県フィルムコミッションでは、
平成25年度から、タイ王国ドラマ・映画の県内へのロケ誘致に積極的に取り組み、
これまで、
映画『タイムライン』、
ドラマ「きもの秘伝」、
ラインTVドラマ「STAY Saga~わたしが恋した佐賀~」
ドラマ「Project S The Series【アーチェリー編】」
などのロケが佐賀県で行われているのである。
(なので、ロケ地めぐりをするために佐賀を訪れるタイからの観光客が急増中なのだ)
映画『タイムライン』の試写会が佐賀県(シアターシエマ)で行われたときには、
上映会の後に、監督(ノンスィー・ニミブット)と主演女優(トーイ・ジャリンポン)によるトークショーもあり、
とても楽しかった思い出として心に残っている。(詳しくはコチラを参照)

だから、映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』にも大いに関心があったし、
早く見てみたいと思っていた。
(2018年)9月22日に公開された作品であるが、
佐賀(シアターシエマ)では約2ヶ月遅れで上映され始めた。
で、先日ようやく見ることができたのだった。



小学生の頃からずっと成績はオールA、
さらに中学時代は首席と天才的な頭脳を持つ女子高生、
リン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)。


裕福とは言えない父子家庭で育った彼女は、


その明晰な頭脳を見込まれ、晴れて進学校に特待奨学生として転入を果たす。
新しい学校で最初に友人となったグレース(イッサヤー・ホースワン)を、
リンはテストの最中に“ある方法”で救った。


その噂を聞きつけたグレースの彼氏・パット(ティーラドン・スパパンピンヨー)は、
リンに“ビジネス”をもちかけるのだった。


それは、より高度な方法でカンニングを行い、答えと引き換えに代金をもらう――というもの。
“リン先生”の元には、瞬く間に学生たちが殺到した。
リンが編み出したのは、“ピアノ・レッスン”方式。


指の動きを暗号化して多くの生徒を高得点に導いたリンは、
クラスメートから賞賛され、報酬も貯まっていく。


だが、奨学金を得て大学進学を目指す生真面目な苦学生・バンク(チャーノン・サンティナトーンクン)は、それをよく思っていなかった。


……そして、ビジネスの集大成として、
アメリカの大学に留学するため世界各国で行われる大学統一入試《STIC》を舞台に、
最後の、最大のトリックを仕掛けようとするリンたちは、
バンクを仲間に引き入れようとするが……




この映画は、
中国で実際に起きた集団不正入試事件をモチーフにしており、
ジーニアス(天才)たちによって、
次第にエンスカレートさせていくカンニングを描いたクライムドラマである。
「そこまでやるか!」
というくらいに障害となるものを次々に放り込み、
それをゲーム感覚のノリで乗り越えていく高校生たちが痛快で、
ことに、アメリカの大学に留学するため世界各国で行われる大学統一入試《STIC》のシーンは秀逸で、


たかが(と言っては怒られるかもしれないが)カンニングなのに、
世界を舞台にしたサスペンス映画を見ているような気分にさせられる。


別に殺されるワケでもないのに、
試験官の男が、なんだか殺し屋のようにも見え、(笑)
ハラハラドキドキさせられるのである。


元ネタとなる集団不正入試事件のニュースを聞いたときの模様を、
ナタウット・プーンピリヤ監督は次のように語っている。

ニュースを聞いた当時は、わたし自身、わくわくしましたし、プロデューサーからも、タイのわかものや学生も共感するテーマなんじゃないかと言われました。このテーマで、タイのわかもののスパイ映画風にしあげたら、おもしろいだろうなと思いました。(『キネマ旬報』2018年10月上旬号)

【ナタウット・プーンピリヤ】
1981年3月24日、バンコク生まれ。
タイの大学を卒業後、短編映画を撮りながら、
ワコール、ブラザーといった有名企業の TVCM 監督として3年 ほどタイ国内で活動。
2012年、長編監督一作目の『Countdown』(2012・日本未公開)が公開され、
タイ・アカデミー賞と呼ばれるスパンナホン賞で最優秀脚本賞、編集賞、主演男優賞を受賞。
更に第86回米アカデミー賞外国語映画賞のタイ代表に選出された。
その後も精力的に映画作りを続け、短編作品がタイ国内で相次いで公開される。
そんな折にプロデューサーからカンニング事件をモチーフにして映画を作らないかと話を持ち掛けられ、
1 年以上をかけて脚本を執筆、本作を完成させる。
2017年5月に本国で公開されるやいなや瞬く間に口コミが広がり、
タイ国内映画として2017年年間 興行収入第1位を記録。
さらに、第27回スパンナホン賞では最優秀監督賞をはじめ史上最多12部門で受賞。
またカナダのファンタジア映画祭 で監督賞を受賞するなど、
国内外の映画賞を多数受賞した。
これからの世界的な活躍がますます期待される俊英の監督である。



長編二作目となる本作をメガヒットに導いた37歳(2018年11月現在)の俊英・ナタウット・プーンピリヤ監督は、
この映画には、高校生によるカンニング映画というだけにとどまらず、
成長ものがたりの側面もあると言う。

主人公のキャラクターにある、混乱や矛盾が魅力の一つだと思っています。リンが、すべてのことをはじめ、計画を進め、結果もひきうけることになる。リンは自問自答するようになりますね。正しいのか、正しくないのか。越えていいのか、越えるべきではないのか。すべての決断の瞬間というのを、彼女が何層ものガラスに映っているシーンでも表現しています。いろいろな自分がいるけれども、わたしは、いったいだれなのか、と自問自答するシーンです。(『キネマ旬報』2018年10月上旬号)


その主人公・リンを演じたチュティモン・ジョンジャルーンスックジンが、実に魅力的なのだ。


【チュティモン・ジョンジャルーンスックジン】
1996 年 2 月 2 日生まれ、22 歳(2018年11月現在)。
15 歳の頃からその 9 頭身の体型を生かし、モデルとして活動を始め、
MV にも数多く出演。
本作 が初めての映画出演。
演技未経験ながら、“カンニング”を戦略的に遂行する天才女子高生リンをクールに演じ、
初出演で初主演とい う大役を見事に果たし、華々しいデビューを飾った。
その演技が評価され、
以後も、映画・TV ドラマ出演、そしてモデル業にと精力的に活動している期待の新星である。
現在は中国で映画撮影中。



ナタウット・プーンピリヤ監督は語る。

もともとモデルとして知っていて、彼女はリンのキャラクターにぴったりだと思いました。無口だけどパワフルで、そんなに動かなくても、キャメラを見つめるだけで人々に何かを伝えるちからをもっている。すごくかしこそうにも見える。実際に会ってみると、180センチの身長で、これはチームのリーダーになれる、と思いました。(『キネマ旬報』2018年10月上旬号)


リンを演じたチュティモン・ジョンジャルーンスックジン(以降、チュティモンと表記)の目力が半端ない。
一重瞼の目を、これほど魅力的に感じさせるとは……
私は、映画の中のチュティモンにずっと魅せられていた。


だが、チュティモン自身は、リンとは全く違う性格とのこと。
リンを演じるにあたって、撮影前に10回以上のワークショップを行い、
完璧にリンに成りきろうとしたが、
撮影中に素に戻って撮影を止めてしまい、
監督に「時間のムダだ」と怒られることもあったそうだ。


監督と一緒に来日したときの写真を見ると、
「なるほど」と思わされるほどに、
映画とは真逆な性格と言っていいほどに笑顔をふりまいており、
こちらはこちらで、魅力的だなと思ったことであった。(コラコラ)


アニメや和食といった日本の文化が大好きで何度も日本には行っていますが、今回のこの訪日が一番うれしくて楽しみです!『バッド・ジーニアス』が日本で公開されることをずっと心待ちにしていたので、日本の『バッド・ジーニアス』ファンに会えることに今からとても興奮しています。皆さんとお会いできるのを楽しみにしています!

来日に際して、このようにコメントしていたが、
チュティモンは、プライベートで、日本に10回以上は訪れていて、
一番好きなのは原宿で、
友達や家族を連れてショッピングしながら、歩いて渋谷まで行くそうだ。
新宿も大好きだし、
友達と大阪にも行ったことがあるとのこと。
大の日本贔屓なのだ。


本作『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』は、
私にとっては、チュティモンがすべての作品であった。
いつの日か、彼女が、佐賀でロケをする映画に出演して、
佐賀のシアターシエマで舞台挨拶をしてくれることを切に願う。

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