一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『しあわせのパン』 …生きて行くということは誰かと何かを分け合うこと…

2012年03月01日 | 映画
徒歩日本縦断をして感じたこと……
それは、北海道が、とびっきりの「旅人に優しい」土地だということ。
電車の旅人にも、
車の旅人にも、
バイクの旅人にも、
自転車の旅人にも、
もちろん、歩きの旅人にも、
これほど旅人に優しくしてくれる土地はないでしょう。
それは、北海道の近代歴史と関係があるのかもしれない。
外から来るもを拒まず、優しく受け入れる……


映画『しあわせのパン』は、
北海道の洞爺湖のほとりにある町・月浦を舞台に、
パンカフェを営む一組の夫婦とそこを訪れる様々な客たちの人間模様を、
美しい風景とともに描いた春夏秋冬の物語。
主演は、
2012年にデビュー30周年を迎える原田知世と、
北海道出身でTV・映画と活躍する大泉洋。
どちらも私の大好きな俳優なので、ぜひ見たいと思っていた。


オール北海道ロケで撮影され、
2012年1月21日より北海道にて先行公開され、
1月28日より全国公開されたが、
当初は、上映館が少なく、佐賀で本作を見るのは無理だろうと思っていた。
福岡まで見に行かなければならないかな……と思っていたら、
2月25日に「109シネマズ佐賀」で、
何の予告もなく突然公開され始めた。(笑)
私にとっては嬉しいサプライズであった。
で、さっそく見に行ってきた。

北海道の洞爺湖のほとりにある町・月浦。
ここに東京から移り住み、
湖が見渡せる丘の上で、
パンカフェ[マーニ]を始めた、
水縞尚(大泉洋)と、りえ(原田知世)の夫婦。
尚がパンを焼き、
りえがそれに合うコーヒーを淹れ、料理を作る。
そこには毎日、いろんなお客がやってくる。


夏……
北海道から出られない青年、時生(平岡祐太)と、
沖縄旅行をすっぽかされた傷心の香織(森カンナ)。


秋……
口をきかない少女、未久(八木優希)と、父親(光石研)。


冬……
想い出の地に再びやってきた老人(中村嘉葎雄)とその妻(渡辺美佐子)。


それぞれの季節に、
さまざまな想いを抱いて店を訪れた彼らが、
パンカフェ[マーニ]でおいしいパンや料理を食べることによって、
それぞれの心の中の“しあわせ”を見つけていく。


そして、春……
訪問者を見守ってきた尚とりえに、嬉しいサプライズなお客様が訪れる……


監督は、三島有紀子。
大阪府出身。
18歳からインディーズ映画を撮り始め、
大学卒業後、NHKに入局。
『NHKスペシャル』『ETV特集』『トップランナー』など、
《人生で突然ふりかかる出来事から受ける、心の痛みと再生》をテーマに、
一貫して市井を生きる人々のドキュメンタリー作品を監督。
11年間の在籍を経て、フリーランスに。
以降、助監督をやりながら脚本を書き続け、
『刺青〜匂ひ月のごとく〜』(2009)で映画監督デビュー。
テレビドラマ『京都地検の女』(2007/EX)、『妄想姉妹~文學という名のもとに~』(2009/NTV)、『LOVE GAME』(2009/YTV)、『アザミ嬢のララバイ』(2010/MBS)なども数多く演出。
オリジナル脚本『世界がお前を呼ばないなら』は2009年サンダンスNHK国際映像作家賞で優秀作品選出。


10年前に、北海道の洞爺湖のほとりにある町・月浦の風景に魅せられ、
大人の寓話(ファンタジー)を撮りたいと思い、
6年前に、矢野顕子と忌野清志郎の二人が歌う名曲『ひとつだけ』を聴いて、
エンディングに使いたいと思うと同時に、脚本を書き上げ、
3年前から映画『しあわせのパン』の企画、制作をしてきて、
今年1月、やっと公開にこぎつけたとのこと。
この作品には、三島有紀子監督の10年分の思いがいっぱい詰まっているのだ。


この映画では、パンを分け合うシーンが何度も出てくる。


そのことについて、三島監督は、自身のブログでこう語っている。

17年前に阪神淡路大震災がありました。
自分自身、阪神淡路大震災を経験して、
ドキュメンタリーの取材を通じて感じたことですけど、
それは、何気ない日常はけっして何気なくはない、ということ。
いま、こうして自分の意志で何かを出来ていること、
隣に誰かいること……奇跡的なことだと思うのです。
多くの避難所で、みんなが、
食べモノも、
着るものも、
スペースも、
そして、気持も、
すべてを分け合っていましたし、
誰もが何が一番大切か身に沁みて感じ取っていたし、
また誰もが誰かに助けられ、また誰もが誰かの役に立とうとしていました。
〝人は何かをshareして生きている〟
当たり前のことですが、
人が人と生きて行くということは、
誰かと何かを分け合って生きるということなんだと、
あらためてそう感じました。
だからこの映画に、
すべてにおいての〝share〟という考え方を込めようと思ったのです。


この考えは、昨年の東日本大震災にも通じるものである。
分け合うということ、
誰かと何かをshareすることで、
別にしあわせにはならないかもしれないが、
そのことによって、何かが変化し、
それがまた違う人に伝わり、循環し、
ひとりで生きているのではないということに気づかされ、
温かさに包まれていることにも気づかされ、
本当に大切なものが見えてくる……


見終えると、
とてもしあわせな気分になる映画である。
そして、無性にパンが食べたくなる。(笑)


原田知世。
長崎県出身。
1967年11月28日生まれだから、現在44歳。
1982年にデビューしているから、今年、記念すべきデビュー30周年を迎える。
『時をかける少女』(大林宣彦監督)で映画初主演して以降、
多くの作品に出演しているが、ここ数年では、竹中直人が監督した『サヨナラCOLOR』(2005年)が特に印象に残っている。
誰かが「原田知世はキャメラに愛されている女優」と言っていたが、
キャメラで撮られ、スクリーンに映し出される彼女は、
透明感にあふれ、特別美しく見える。
本作では、北海道の素晴らしい風景を背景に、彼女の存在感が際立っている。


大泉洋。
北海道出身。
1973年4月3日生まれの現在38歳。
ここ数年では、
『アフタースクール』(2008年)
『半分の月がのぼる空』(2010年)
『探偵はBARにいる』(2011年)
などが印象に残っているが、
最近では、いろんな役を演じ、演技の幅が急激に広がった感じがする。
従来のコミカルな演技もイイが、
本作のように寡黙な男の役も悪くない。
これからも彼が主演の映画が増えてくるような気がする。


映画『しあわせなパン』には、この他にも、常連客の役として、
私の大好きな余貴美子(なんでも聞こえてしまう地獄耳の硝子作家)と、


これまた私の大好きなあがた森魚(革の大きなトランクを抱えた山高帽の男)が出ていて嬉しかった。


郵便屋さん役の本多力や、


広川の奥さん役の池谷のぶえ、
だんな役の中村靖日も好い味出していた。


観察好きの羊のゾーヴァもカワイイ。
この羊がナレーションを担当していると思いきや……
最後に「あっ」と言わせられるから、それも楽しみにね。(笑)


とにかく洞爺湖周辺の風景が抜群に美しい。
このシーンは、原田知世のアイデアで生まれたとか。


美しい風景に酔い、
映画のストーリーに感動し、
焼きたてのパンを見ていたら、お腹が鳴った。(爆)
お腹を空かして見に行かないように……ね。


当初は上映館が少ないと思っていたが、
評判がイイのか、
次々と上映館が決まり、
九州で上映する映画館も増えてきた。
3月中には、どの県でも見ることができそうだ。
皆さんも、ぜひぜひ……

《上映館情報》(2012年3月1日現在)
【福岡】ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13 (公開中)
   T・ジョイリバーウォーク北九州(公開中)
【長崎】ユナイテッド・シネマ 長崎(3月31日公開予定)
【佐賀】109シネマズ佐賀(公開中)
【大分】T・ジョイパークプレイス大分(3月24日公開予定)
【熊本】Denkikan(3月17日公開予定)
【宮崎】宮崎キネマ館(3月31日公開予定)
【沖縄】シネマパレット(公開日調整中)

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