一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

懐かしく愛おしい映画『長江哀歌』

2008年02月14日 | 映画
佐賀市内にあるミニシアター系上映館【シエマ】に『長江哀歌』を見に行ってきた。
この【シエマ】で映画を見るのは、今年になって3回目。
『長江哀歌』は、2006年ベネチア国際映画祭において金獅子賞グランプリを受賞した作品。
映画専門誌『キネマ旬報』でも2007年外国映画ベストテンで第1位を獲得した作品だ。

大河・長江の景勝の地「三峡」。
そのほとり、2000年の歴史を持ちながら、ダム建設によって、伝統や文化も、記憶や時間も水没していく運命にある古都「奉節」。
そこへ船に乗って一人の男がやってくる。彼の名はハン・サンミン。
16年前に別れた妻子を探しに、山西省からやってきた炭鉱夫。


様変わりしてしまったこの町で、サンミンは働き口を見つけ、妻探しを続ける。


一方、2年間音信不通の夫を探しに、やはり山西省からやってきた女がいた。


彼女の名は、シェン・ホン。


二人とも、新たな人生を歩み出そうと胸に秘めている。
物語は、彼らを中心に、時代の大きなうねりに翻弄されながらも日々を精一杯に生きる人々の、小さくも愛おしく輝く一瞬を感動的に捉える。
香港の大スター「チョウ・ユンファ」に憧れる街のチンピラ。
立ち退きを命じられる宿の主人……
名もなき人々の静かな日常がスクリーンに流れる。

ハリウッド映画ばかりを見てきた人にとっては、なんとももどかしく感じるかもしれない。
物足りなさを感じるかもしれない。
だが、かつてフランス映画を中心としたヨーロッパ映画に親しみ、小津安二郎などのかつての日本映画を見てきた人にとっては、なんとも懐かしく、愛おしい映画だろう。

日本語タイトルは『長江哀歌』だが、原題は『三峡好人』。
そして、英語タイトルは『STILL LIFE』だ。
スティル・ライフ=静物。
ある意味、この英語タイトルが、この映画の内容を端的に表しているかもしれない。


日本最大の奥只見ダムの65倍という、世界最大のダムとなる中国・三峡ダム。
そのダム建設によって、2000年続いてきた街が、わずか2年で消え去っていく。
100万人以上の住民の移住。
考えられないほどのスケールの中で展開する、無名の人々の哀切。

これこそ映画だ!

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