一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

くじゅう中岳……純白の世界へ……

2008年02月17日 | 山岳会時代の山行
地球の温暖化によって、日常で積雪を見ることは稀になった。
雪山に登りたいという気持ちは、非日常を味わいたいという願望に通じている。

暖かい車内で、「ジャケットは着なくてもイイんじゃない?」などと話しているうちに、マイクロバスは牧ノ戸峠に着いた。
バスから出ると、寒気がジワリと我々の躰を包む。
たったそれだけで、日常から非日常に放り込まれたことを知る。
いや、知らされる。
慌ててジャケットを着込む者、手袋をする者、ニット帽を被る者……
肌を刺すキンとした空気が、何故だか解らないが心地良い。
かじかむ手でスパッツとアイゼンを装着する。
準備をしているうちに、浮ついた心は消え、気持ちが引き締まってくる。
ここは非日常の世界なのだという認識をあらたにする。


9:00
予定より30分遅れで、牧ノ戸登山口を出発する。


霧氷のトンネル……と呼びたいところだが、この辺はまだ霧氷の付きがいまいちだ。


青空はない。
今日の天気予報は「荒れ模様」とのこと。
今回参加したのは、28名。
長い行列が、垂れ込めた白いベールに消えていく。


9:25
休憩。衣服調整。
途中で、A班とB班が別行動となるので、ここで全員で写真を撮る。


沓掛山を越えて、稜線に出る。
だが、視界は良くない。


登山道の端のうがたれた所に草の根が出ていて、そこに氷柱(つらら)ができていた。


進むに従って積雪が増してきた。
風も強くなってきた。


トレースを踏み外すと、ズボリと太股のあたりまで脚が雪に埋まった。
注意しながらゆっくりと歩く。


横なぐりの風になり、ブリザード状態。
仲間の姿を見失わないように……


さすがにこの辺りまで来ると、霧氷らしい霧氷を見ることができる。


灌木などが雪に覆われ、美しい曲線を描いている。


波乗りができそうなウェーブ。
風と雪が創り上げたオブジェ。
人が立ち去ると、白い妖精たちがサーフィンを始めるかもしれない。


10:50
久住分れ避難小屋に着く。
小屋の中から、韓国からの観光客らしい人々が出てきた。
ちょっとそこまでハイキングに来た――というような軽装なので驚いた。
ザックさえ持っていない人もいた。


エビの尻尾。


11:25
御池を通過。


凍った御池を歩いてみる。
まさに自然が創りだしたアートだ。


11:45
中岳山頂に到着。
立っていられない程の、もの凄い風が吹いている。


九州本土最高峰・中岳山頂で記念写真を撮る。
今、この瞬間、九州本土で我々より高い所にいる者は、誰もいない!


12:15
池ノ小屋にて昼食。
12:45
池ノ小屋を出発。
久住分れから北に向かう。
尻セードで下る者多し!(笑)


ダイナミックな風景を楽しみながら北千里浜に向かう。


北千里浜にて休憩。


我々が歩いてきた方向を振り返る。
雪の白さに、心までもが白く染まっていくようだ。


雪雲の隙間から、一瞬、薄日が差した。


目を転じると、そこにも白い世界が拡がっていた。
純白の世界……
静寂に包まれた世界……
魂が純化していくような不思議な感覚を味わった。


14:20
すがもり越避難小屋着。


休憩の後、一人一人「愛の鐘」を鳴らしながら下山の途についた。


大曲が近づいてきたが、気を緩めないで、慎重に足を運ぶ。
とうとう青空を見ることはできなかったが、楽しい山行であった。
厳しい風と寒さであったが、不思議と心に自由があった。
厳しい環境の中で、解放されていく自分を感じた。


ふと後ろを振り返る。
もうしばらくでこの雪山ともお別れだと思うと、名残惜しさがこみ上げてきた。
雪の絨毯を踏む感触をいつまでも記憶しておけるように……と、ゆっくりゆっくり歩いた。


15:30
大曲着。
アイゼンやスパッツを外していると、急に周囲が明るくなった。
顔を上げると、青空の青が目に飛び込んできた。


一年前と同じように、我々を見送るかのように三俣山も顔を出した。
昨年とはまったく違う姿を見せてくれた「くじゅう」の山々。
「純白の一日」をありがとう!
我々は、この一日を、いつまでも忘れない……

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2 コメント

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初めての雪山登山 (コスモス)
2008-02-26 22:55:41
タクさんのブログいつも拝見してます。この時は登山することに一生懸命で回りがあまり見えなくて  でも最高の登山でした。あなたの写真を見てまた感激しました。ありがとう。
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忘れられない一日 (タク)
2008-02-27 06:20:34
コスモスさんへ
コスモスさん、コメントありがとうございます。
展望のない冬山登山でしたが、本当に素晴らしい雪山体験でした。
初めてのときは、雪歩きに一所懸命で、気持ちに余裕がなく、なかなか周りが見えないものです。
私の写真を見て、雪山の素晴らしさを再確認して頂けたとのこと、私も嬉しいです!
初めての雪のくじゅうは、コスモスさんにとって忘れられない一日になったのではないでしょうか?
素晴らしい山の思い出を、これからもたくさんつくっていきましょう!
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