一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』 ……木村文乃に逢いたくて……

2016年06月10日 | 映画


今年(2016年)の4月29日に公開された映画で、
公開直後に見た作品であるのだが、
〈レビューを書こうか、書くまいか……〉
と思い悩んでいるうちに、
1ヶ月半ほどが過ぎてしまった。
傑作と思える映画だったら、
すぐにレビューを書いている筈だし、
今日まで書く意欲が湧かないとすれば、
私にとって「それほどでもない」作品ということになる。
ただ、
〈時間があれば……〉
とは、いつも思っていたので、
なにかと気になる作品ではあったのだ。


昨夜、早く寝たこともあるが、
今朝、早くに目覚めた。
(もう老人だ
そして、急に、
〈映画『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』のレビューを書いておこうかな……〉
と思い立った。
映画を見てから時間が経過すると、
大筋のことは覚えていても、
細部のことは次第に忘れてしまう。
この機会を逃したら、「もう書くことはない」という気がした。
いや、この機会を逃したら、「もう書けない」と思った。
で、出勤前の限られた時間ではあるが、
思い出しながら書いてみることにする。
遅ればせながらのレビューであるが、
読んでもらえたら嬉しい。

この映画を見に行った理由は、二つ。
一つ目は、
私の好きな木村文乃が出演していたから。
NHK朝の連続ドラマ『梅ちゃん先生』(2012年) で、
野島(下村)静子 役で出演(第10週~最終週・6月9日~9月29日)しているのを見て、
大好きになって以降、
『今日、恋をはじめます』(2012年12月8日公開)
『ボクたちの交換日記』(2013年3月23日公開)
『すべては君に逢えたから』(2013年11月22日公開)
『小さいおうち』(2014年1月25日公開)
『ニシノユキヒコの恋と冒険』(2014年2月8日公開)
『太陽の坐る場所』(2014年10月4日公開)
『くちびるに歌を』(2015年2月28日公開)
『イニシエーション・ラブ』(2015年5月23日公開)
『ピース オブ ケイク』(2015年9月5日公開)
など、出演映画はほとんど見ている。
木村文乃が出演しているだけで、
私にとっては、“見る価値あり”なのだ。


『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』を見に行ったもう一つの理由は、
脚本が、古沢良太のオリジナル作品だったから。
古沢良太は、
『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年11月5日公開)
『キサラギ』(2007年6月16日公開)
『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(2007年11月3日公開)
『探偵はBARにいる』(2011年9月10日公開)
『ALWAYS 三丁目の夕日'64』(2012年1月21日公開)
『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』(2013年5月11日公開)
などで知られる人気脚本家で、
私の好きな作品も多く、
その古沢良太のオリジナル脚本作品なら見てみたいと思ったのだ。


残留思念(物や場所に残った人間の記憶や感情など)を読み取ることができる特殊能力を持った男・仙石和彦(野村萬斎)。
かつて、その能力を使い、
“マイティーズ”というコンビで日本中を湧かせたこともあったが、


その能力の代償に精神をすり減らし、コンビも解散。
以来、マンションの管理人として人目を避けた生活を送るように生活していた。


一方、相方のマイティ丸山(宮迫博之)もピン芸人になるものの、
鳴かず飛ばずで、クビ寸前の状態。


そんな折、
女子高生ピアニストの秋山亜美(杉咲花)が、
仕事の依頼で丸山の所属する芸能事務所・峠プロダクションを訪れる。


その依頼とは解散した“マイティーズ”に、
行方不明になった音楽教師の雪絵(木村文乃)を探してほしいというもの。


この仕事を機にマイティーズ復活を目論む社長の久美子(高畑淳子)は、
仙石に事件の捜査を手伝わせるよう丸山に命じる。


クビになるのを避けるため、しぶしぶ亜美と共に仙石のマンションを訪れる丸山だが、
10年ぶりに出会った仙石は、外の世界と関わるのを頑なに拒否し、
部屋にさえ入れようとしない。


丸山と亜美は、無理矢理、仙石の部屋に押し入り、
行方不明の女性の持ち物から残留思念を読み取るように迫るが、
「能力は失われた」
と、仙石は二人に冷たく言い放つ。


二人が諦めてマンションを去った後、
一人、黙々と部屋の片付けをする仙石だったが、
突然、見たことのないビジョンが浮かぶ。
「うあ~!」
ハッとして、手を離す。
転がり落ちる見覚えのない爪やすり。
それは、丸山と亜美が忘れていった(わざと置いていった?)、
行方不明になった音楽教師・雪絵(木村文乃)が使っていた爪やすりであった。


仙石の叫び声と共に、
新たなコンビが開けた扉は、
誰しもが予想だにしない事件の入り口となったのだった……



映画を見た感想はというと、
古沢良太のオリジナル作品ということで、
私の期待が大きすぎたからかもしれないが、
やや物足りなさを感じてしまった。
ストーリーやトリックなどに、
“オリジナル”的なものをあまり感じられなかったからだ。
物や場所に残った人間の記憶や感情などを読み取ることができるという能力は、


サイコメトリスト、或は、サイコメトラー(精神感応者、思念同調能力者)と呼ばれ、
これまでにも漫画などで題材にされていたし、
ドラマ化(例『サイコメトラーEIJI』)もされている。
古沢良太のオリジナルというワケではないし、
悪く言えば、手垢の付いた題材だ。
狂言師の野村萬斎と、
俳優としての評価も高い雨上がり決死隊の宮迫博之がコンビ役という目新しさあるものの、
設定自体に「どこかで見た」感があるので、
あらゆるシーンに“デジャヴ”を感じてしまった。


犯人が判明するシーンも、
今では古典と呼ばれてもおかしくない、
ある有名なサイコ・スリラー系のサスペンス映画を想起させるもので、
その名作を知らない人には驚愕かもしれないが、
その名作を知っている人にとっては、それほどの驚きはない。
その古典的名作へのオマージュだったのかもしれないが、
オリジナル作品であれば、もっと工夫が必要であったと思われる。


仙石和彦を演じた主演の野村萬斎であるが、
彼は、やはり、現代劇よりも、
『陰陽師』(2001年)、
『陰陽師II』(2003年)、
『のぼうの城』(2012年)などの時代劇の方が合っているように思った。
演技は悪くないのだが、
やや大仰な身振りやセリフ回しが、
現代劇には合っていないように思ったのだ。


宮迫博之と掛け合いに面白さはあったが、
違和感の方が大きかった。


と、まあ、
私の期待度が高かったので、
ちょっと辛口になってしまったが、
普通に見る分には、問題はないし、
見るに値するレベルには達している。
漫画や小説を原作とする日本映画が多い中、
オリジナル脚本で勝負した、その心意気も買いたい。


出演者の中では、
刑事の佐々部悟を演じた安田章大が良かった。
映画の出演は少ないが、
『ばしゃ馬さんとビッグマウス』(2013年)での好演が記憶に新しく、
本作でも、見応えのある演技をしていた。


芸能事務所の女社長を演じた高畑淳子も良かった。
TVでは見ない日がないほどの大活躍で、
最近では、
TVドラマ『ナオミとカナコ』(2016年)で李朱美を演じた怪演が思い出されるが、
意外と映画の出演は少ない。
これからは、映画の方にも大いに出演してもらいたいと思った。


女子高生ピアニストの秋山亜美を演じた杉咲花も好演していたし、
(味の素 Cook DoのCMで回鍋肉を食べる美少女としても有名)


雪絵の同僚の音楽学校の教師・伊藤忍を演じた「ちすん」も魅力的だったが、


私的には、やはり、(スクリーン上とはいえ)木村文乃に逢えたのが嬉しかった。
それだけで、大満足であったし、
その美しさは、彼女のこれまでの出演作の中では出色であった。




映画『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』の公式サイトを見てみたら、
まだ公開している映画館もあるようだし、
1年後くらいには、TVでの放送もあるかもしれない。
ミステリードラマとして、ハリウッド級の仕掛けや衝撃はないが、
ミステリーの日本映画としては、よく健闘している方だと思う。
私のような、すれっからしの映画ファンでなければ、
大いに楽しめる作品である。
木村文乃や杉咲花や安田章大のファンなら、なおのこと。
機会がありましたら、ぜひぜひ。

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