昨年(2021年)8月20日に公開された濱口竜介監督作品『ドライブ・マイ・カー』は、
佐賀ではシアターシエマで、1週間遅れの8月27日から公開されたのであるが、
鑑賞後、私はこのブログで、
……終わらないで欲しいと願った179分の傑作……
とのサブタイトルを付して、レビューを書いた。
その中で、韓国人女優のパク・ユリムについて、次のように記した。
イ・ユナを演じたパク・ユリム。
映画の中で、家福が演出しているのは「ワーニャ伯父さん」の多言語演劇なのであるが、
その中に、韓国人の聴覚障がい者で韓国手話で演技する(という設定の)、
イ・ユナという女性が登場するのだが、
この女性(イ・ユナ)を演じているのが、パク・ユリムという韓国の女優であった。
このパク・ユリムの演技(表現力)がとにかく素晴らしかった。
本作のラスト近くで、
「ワーニャ伯父さん」の舞台でソーニャを演じるパク・ユリムが、
ワーニャを演じる西島秀俊へ手話で語りかけるシーンがあるのだが、
そのシーンのなんと尊かったことか。
ここに至るまでにも感動のシーンがいくつもあるのだが、
このソーニャ演じるパク・ユリムが手話で語りかけるシーンで最高潮に達する。
ワーニャ伯父さん、生きていきましょうよ。長い、はてしないその日その日を、いつ明けるとも知れない夜また夜を、じっと生き通していきましょうね。運命がわたしたちにくだす試みを、辛抱づよく、じっとこらえて行きましょうね。今のうちも、やがて年をとってからも、片時も休まずに、人のために働きましょうね。そして、やがてその時が来たら、素直に死んで行きましょうね。あの世へ行ったら、どんなに私たちが苦しかったか、どんなに涙を流したか、どんなにつらい一生を送って来たか、それを残らず申上げましょうね。すると神さまは、まあ気の毒に、と思ってくださる。その時こそ伯父さん、ねえ伯父さん、あなたにも私にも、明るい、すばらしい、なんとも言えない生活がひらけて、まあ嬉うれしい! と、思わず声をあげるのよ。そして現在の不仕合せな暮しを、なつかしく、ほほえましく振返って、私たち――ほっと息がつけるんだわ。わたし、ほんとにそう思うの、伯父さん。心底から、燃えるように、焼けつくように、私そう思うの。……(伯父の前に膝をついて頭を相手の両手にあずけながら、精根つきた声で)ほっと息がつけるんだわ!(神西清訳)
この「ワーニャ伯父さん」のラストのソーニャのセリフを、
パク・ユリムが韓国手話で語りかけるのだが、
パク・ユリムの、その表情、手の動き、そして指先で紡がれる言葉を心で聴いていたら、
〈自分の人生の終末はこのようなものであってほしい……〉
と思わされるほどに感動させられた。
チェーホフを古臭いと感じてた私の認識を改めさせられたし、
チェーホフをまた読んでみたいと思わせるほどのインパクトがあった。
韓国・ソウルのオーディションで濱口竜介監督が見いだし、
キャスティングしたパク・ユリム(박유림)であるが、
彼女の名でネット検索しても、少しの情報しか出てこないので、
韓国ではそれほど有名な女優ではないのかもしれない。(違っていたらごめんなさい)
だが、これほどの演技をする女優がオーディションを受けて日本の映画に出演し、
素晴らしい演技をする、そのチャレンジ精神、韓国映画界の層の厚さに驚かされる。
良い監督は、良い(新人)女優を見い出すものであるが、
濱口竜介監督も同様に、
『ハッピーアワー』では、菊池葉月、三原麻衣子、田中幸恵、川村りら、
『寝ても覚めても』では、唐田えりか、
『偶然と想像』では、森郁月、
『ドライブ・マイ・カー』では、パク・ユリムという魅力ある女優を発掘し、開花させ、
私を感動させてくれた。
私は、『ドライブ・マイ・カー』でパク・ユリムという女優を初めて知り、
その美しさと演技力に心酔し、ファンになったのであるが、
レビューにも書いた通り、公開当時は、彼女についての情報がほとんどなかった。
ところが、『ドライブ・マイ・カー』が第94回アカデミー賞で、作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞の4部門にノミネートされた頃から、パク・ユリムについて書かれた記事を目にするようになり、その人となりを知ることができるようになった。
パク・ユリムは、
2018年に芸能界にデビューしたばかりの新人女優で、
2020年に『ドライブ・マイ・カー』のオーディションに受かり、撮影をしたとのことで、
やはり『ドライブ・マイ・カー』がスクリーンデビュー作であったのだ。
そのスクリーンデビュー作が、第94回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞。
レッドカーペットを歩くパク・ユリムの姿に、私は感動させられた。
生きていれば運命のような瞬間が来るみたいだ。『ドライブ・マイ・カー』で「ワーニャ伯父さん」の演劇が出ることを知ったとき、私の灯りはこの作品だと思った。アカデミー賞授賞式で監督が俳優たちの名前を呼んで下さったときも驚いたし、感動的だった。今も夢見心地だ。ただ思う存分に楽しもうと心に決めて行ったので、十分に楽しんだし、新しい映画世界を経験することができた。
と、アカデミー賞授賞式に参加した感想を語っていたが、
映画デビュー作が米アカデミー賞のレッドカーペットに直結していたことに、
彼女自身も驚きを禁じ得なかったようだ。
授賞式では、松の木の刺繍が施されたシルクドレスを着て、韓国の美しさを披露し、
優雅で清楚な魅力を発散していた。
濱口竜介監督との記念写真も楽しそう。
スピルバーグ監督との記念撮影も嬉しそう。
韓国メディアもニュースで報じていた。
パク・ユリムは、TwitterやInstagramでも自ら発信していて、
※パク・ユリムのTwitterはコチラから。
※パク・ユリムのInstagramはコチラから。
彼女についてのいろんな情報を知ることができるし、
近影も見ることができる。
なんという美しさ。
映画『ドライブ・マイ・カー』に出演したことで、
日本でも韓国でも名を知られるようになったパク・ユリム。
これからの活躍に期待したいし、
注目していきたいと思っている。