小松菜奈の出演作は必ず見ることにしている私としては、
彼女の最新作『さくら』(2020年11月13日公開)も見なければならない映画であった。
だが、佐賀県での上映館はなかった。
佐賀県だけではなく、
九州では福岡県の、
T・ジョイ博多
T・ジョイリバーウォーク北九州
T・ジョイ久留米
ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13
ユナイテッド・シネマ トリアス久山
の5館だけでの上映で、
長崎県、大分県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県でも見ることのできない作品であったのだ。
新型コロナウィルスの第3波が襲来している現況、
他県に出掛けて映画を見ることは、かなり危険な行為である。
だが、小松菜奈の出演作は見たい。
〈行こうか、行くまいか……〉
と迷っているうちに、11月も終わり、
映画『さくら』の上映回数も1日1回の映画館ばかりになった。
このままでは、すぐに上映終了してしまう。
……ということで、
行ってきました、T・ジョイ久留米へ。
この時期、電車や高速バスの利用は感染の危険が伴うし、
車で、わが家から一番近いのはT・ジョイ久留米だったのだ。
T・ジョイ久留米へ行くのは、約1年ぶりで、
『殺さない彼と死なない彼女』(2019年)を見に行って以来、2度目。(コチラを参照)
で、『糸』から約4ヶ月ぶりの小松菜奈ということで、
ワクワクしながら鑑賞したのだった。
音信不通だった父が2年ぶりに家に帰ってくる。
スーパーのチラシの裏紙に、
「年末、家に帰ります」
と綴られた手紙を受け取った長谷川家の次男・薫(北村匠海)は、
その年の暮れに実家へと向かった。
母のつぼみ(寺島しのぶ)、
父の昭夫(永瀬正敏)、
妹の美貴(小松菜奈)、
愛犬のサクラと、ひさびさに再会する。
けれど兄の一(ハジメ)の姿はない。
薫にとって幼い頃からヒーローのような憧れの存在だったハジメ(吉沢亮)は、
2年前のあの日、亡くなった。
そしてハジメの死をきっかけに家族はバラバラになり、その灯火はいまにも消えそうだ。
その灯火を繋ぎ止めるかのように、薫は幼い頃の記憶を回想する。
それは、妹の誕生、サクラとの出会い、引っ越し、初めての恋と失恋……
長谷川家の5人とサクラが過ごしたかけがえのない日々、
喜怒哀楽の詰まった忘れたくない日々だ。
やがて、壊れかけた家族をもう一度つなぐ奇跡のような出来事が、
大晦日に訪れようとしていた……
サクラと名づけられた1匹の犬と長谷川家の5人の物語……と聞くと、
なんだか、ほのぼのとした家族映画を想像するが、
これが想像を絶する(というほどでもないが)驚きのストーリーで、
特に、小松菜奈が演じた美貴は、ぶっ飛びの性格で、
映画の後半では、小松菜奈に目が釘付けであった。
考えてみるに、
小松菜奈は映画に関しては常にチャレンジャーで、
いろんな役に挑んでいる印象がある。
『渇き。』(2014年)に始まり、
『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)
『溺れるナイフ』(2016年)
『沈黙 -サイレンス-』(アメリカ2016年・日本2017年)
『坂道のアポロン』(2018年)
『恋は雨上がりのように』(2018年)
『来る』(2018年)
『サムライマラソン』(2019年)
『さよならくちびる』(2019年)
『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』(2019年)
『糸』(2020年)などなど、
〈エッ、そんなこともやるの?〉
と何度思わされたことか……
本作『さくら』も、
小松菜奈が出演しているので平々凡々な作品ではないことは覚悟していたが、
期待に応えて、(笑)
驚きの役柄と演技で私を大いに楽しませてくれた。
〈久留米まで見に行って良かった!〉
と、私に心底思わせてくれた。
やはり、小松菜奈はチャレンジャーであったし、
〈小松菜奈の出演作はなんとしてでも見なくてはならない!〉
と再認識したことであった。
小松菜奈に関しては文句なしであったが、
映画自体の評価としては、惜しい部分が多かった。
西加奈子の原作小説は映画鑑賞後に読んでみたのだが、
大学生の「僕」=薫の一人称で語られている。
だからだろう、映画も薫(北村匠海)が“語り部”になっており、
薫のナレーションで始まるのだが、これが良くなかった。
NHKの朝ドラではないんだから、映画に余計な説明は不要で、
映像とセリフだけで物語を展開していたならば、どんなに良かっただろうと思った。
そして、美貴役の小松菜奈を主役に据え、(コラコラ)
美貴中心のストーリーにしたならば、
どんなにか素晴らしい作品になっていただろう……と思った。
多分、『渇き。』級の傑作になっていたと思われる。
この映画を、家族揃って見ることのできる映画にしたかったのか、
ロシアンルーレット風の餃子で当たりを食べた薫が白眼になるなど、
コミカルなシーンも少なからずあり、
そのことを矢崎仁司監督は、
悲しいことがあったとしても生きていくには笑いも必要。原作を読み終わって元気をもらった僕としては、映画を観終わった人に元気になってもらいたかったのです。(「映画board」インタビューより)
と語っていたが、
この笑いの部分も私は必要なかったと思う。
万人向けの映画にしようと画策したことで、
物語がソフトになり、
原作の良さを殺し、映画としてのパワーを失くし、傑作になりそこねている。
本当に惜しい。
まあ、原作も映画もタイトルは『さくら』だし、
どんなことがあってもサクラという犬が一家の接着剤の役目を果たす……
というコンセプトは変わらないだろうし、そのことが本作の弱点でもあるのだが、
ヒューマンな部分を除外し、
美貴(小松菜奈)の異常な性格と行動を中心に据えて撮影をしたならば、
どれほどの傑作になっていただろうと残念に思われ、
それが惜しまれてならない。
小松菜奈の次作は、三秋縋の長編小説が原作の『恋する寄生虫』で、
極度の潔癖症に悩まされ、人間関係を築けずに孤独に過ごす青年と、
視線恐怖症で不登校の少女のラブストーリーで、
来年(2021年)に公開予定とのこと。
こちらも楽しみだし、必ず見に行くつもり。
小松菜奈を見に行ったので、
もうそれだけで満足なのであるが、
小松菜奈以外の女優にも、少しだけ触れて、レビューを終えたい。
まずは、
長谷川家の母親役のつぼみを演じた寺島しのぶ。
『赤目四十八瀧心中未遂』(2003年)
『ヴァイブレータ』(2003年)
『キャタピラー』(2010年)
『ヘルタースケルター』(2012年)
などで、
常に映画ファンの期待を裏切らない演技をしている女優なので、
本作も期待していたのだが、
矢崎仁司監督の期待に応えた演技はしていたものの、
私の期待した演技ではなかったと思う。
原作では、あることをキッカケに、
アル中となり肥満してだらしなくなってしまう役なのであるが、
映画では、太ることもなく、良い母親のままだったので、
寺島しのぶの所為ではないが、そこがやや残念であった。
美貴(小松菜奈)の親友・大友カオルを演じた小林由依(櫻坂46)。
櫻坂46の前身グループ・欅坂46の1期生として2015年8月に芸能界デビューし、
2018年には『NHK紅白歌合戦』で平手友梨奈の代理でセンターを務めている。
本作が女優としてのスクリーンデビュー作であるのだが、
高いパフォーマンス力でグループをけん引してきただけあって、
その堂々とした演技に感心させられた。
特に、卒業式のときに、全校生徒の前でマイクを握りしめ、
「私は、長谷川美貴が好きです」
と発言するシーンは秀逸であった。
これからも女優として大いに期待できると思った。
長谷川一(吉沢亮)の恋人・矢嶋優子を演じた水谷果穂。
この映画での矢嶋優子役は、
最初は長谷川家の人々にあまり印象が良くなく、
次第に慣れて仲良くなっていくと役柄であったのだが、
ちょっとぶっきらぼうな感じや、
ハジメに見せる優しい表情などが印象に残った。
TVドラマや映画で何度か見ているのだが、
本作『さくら』で「水谷果穂」という女優(歌手でもある)をしっかり認知した。
薫(北村匠海)に好意を寄せる同級生・須々木原環を演じた山谷花純。
山谷花純の出演作で思い出すのは、
映画『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(2018年)。(コチラを参照)
結婚を控えた末期がんの患者・富澤未知を演じていたのだが、
受からなければ役者を辞めると決めて挑んだオーディションで役を勝ち取り、
末期がんの患者ということで、自らの頭を丸刈りして、
覚悟ある演技をしていたのが強く印象に残っている。
本作『さくら』では、
クラスメイトからはゲンカンと呼ばれる環は帰国子女で、
テストでは常に1番に名を連ねる優等生。
奔放な性格で、薫に興味を持った環はある日の帰り道、薫に、
「足をくじいたので家まで送ってほしい」
と伝え、積極的にアプローチする。
強い意志を持った女生徒の役で、
山谷花純だからこそ演じられた役であったと思う。
(女優ではないが)昭夫(永瀬正敏))の学生時代の同級生で、
ゲイバーを営む溝口先史を演じた加藤雅也。
本作『さくら』は、
同性愛や近親愛など、様々な愛の形を描いた作品でもあり、
そういう意味でもいろいろと考えさせられる映画であったのだが、
ジェンダーにとらわれない生き方をみせる溝口先史役の加藤雅也の演技にも感心させられた。
意外なキャスティングであったが、
長谷川家の本質を鋭く見抜き、
長谷川家の家族に寄り添ってくれる存在として描かれており、
加藤雅也のコミカルで繊細な演技は、
見る者に安心感を与え、本作になくてはならない存在となっていた。
小松菜奈を目当てに見に行ったのだが、
ほのぼのしたファミリーものと思いきや、
案外“骨太”で、内容がハードな作品であった。
ぜひぜひ。