一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』…力強い美意識が宿るシリーズ最高傑作…

2015年06月27日 | 映画
1979年(昭和54年)、
『マッドマックス』を初めて見たときの驚きは忘れられない。
車自体が一つのキャラクターであるかのように独特の存在感を持っている映画を見るのは、
初めての経験であったからだ。
特殊警察所属のマックスが、
凶悪犯罪を繰り返す暴走族に妻子を殺され、
復讐の鬼と化す……
低予算で制作されたB級アクション映画にもかかわらず、
「撮影中にスタントマンが死んだ」
なんて噂が先行していたものだから、
ドキドキしながら見たのも憶えている。
オーストラリアの映画というのも新鮮だったし、
荒涼とした荒野が舞台というのも、これまた新鮮だった。

1981年(昭和56年)、
『マッドマックス2』が公開された。
『○○○2』『○○○Ⅱ』というような続編は、
とんでもない凡作か、
とんでもない傑作かの、どちらかのことが多いが、
『マッドマックス2』はシリーズ最高傑作といえる出来であった。
95分という上映時間が「短すぎる」と感じるほど、
興奮し、熱狂したものだった。

1985年(昭和60年)、
シリーズ第3作にして完結編の『マッドマックス/サンダードーム』が公開された。
ハリウッドと大きくコミットメントした作品であったが、
カーアクションの割合は減り、
タイトルにもなっているサンダードームと呼ばれる金網リングでの試合がメインになっていた。

以来、30年、『マッドマックス』は長い眠りに入っていたが、
同シリーズの生みの親であるジョージ・ミラーが再びメガホンを取り、
過去3作でメル・ギブソンが扮した主人公マックスを、
『ダークナイト ライジング』『インセプション』などのトム・ハーディが受け継ぎ、
共演にはオスカー女優シャーリーズ・セロン、
『ウォーム・ボディーズ』などのニコラス・ホルト、
1作目で暴走族のボスを演じたヒュー・キース・バーンら多彩な顔ぶれが集結し、
シリーズ4作目となる『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が誕生した。

『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(7月10日公開)や
『スター・ウォーズ ep7/フォースの覚醒』(12月18日公開)など、
今年(2015年)は懐かしの洋画シリーズが続々と公開される予定であるが、
それらにはあまり関心がないが、
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』には強い関心があった。
で、公開されてすぐに見に行ったのだった。

資源が底を突き荒廃した世界、
愛する者も生きる望みも失い荒野をさまようマックス(トム・ハーディ)は、


砂漠を牛耳る敵であるイモータン・ジョー(ヒュー・キース・バーン)の一団に捕らわれ、


深い傷を負ってしまう。




そんな彼の前に、
ジョーの配下の女戦士フュリオサ(シャーリーズ・セロン)、


全身白塗りの謎の男、


そしてジョーと敵対関係にあるグループが出現。
マックスは、ジョーへの反乱を計画する彼らと力をあわせ、
自由への逃走を開始する……



いや~、面白かったです。
最初から最後まで、アクションの連続、
120分間、フルスロットル、
息つく暇もないほど、興奮しっぱなし。


これまで『マッドマックス2』をシリーズ最高傑作としていたが、
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、
その『マッドマックス2』を軽々と超える新たなシリーズ最高傑作であった。


『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が、過去の3作と違うのは、
より言葉を必要としなくなっていること。
映像だけで、見る者をグイグイと引っ張っていくのだ。
ジョージ・ミラー監督は語る。

私は映画館で楽しむのが醍醐味となる作品が好きだ。まるでうつくしい音楽のように、その映画の世界に引き込んでくれるような、没入できる映画だね。その時の気分がどうであれ、観る側がどんな気質であれ、どこか遠いところへ連れて行ってくれるのが映画の言語だと言える。「怒りのデス・ロード」の軸の一つにあるのは音やセリフではなく映像で語る、ヒッチコック的アプローチなんだ。字幕なしでも楽しむことができる。この映画で目指しているのはそういうものなんだ。(『キネマ旬報』2015年7月上旬号)

だからだろう、
サイレント時代の映画のように、
バスター・キートンの映画のように、
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』はアクションのみで見る者を楽しませる。
故に物語は非常にシンプルだ。
物語の中の社会構造も単純。
ごく少数の者が多数を支配している世界……
近未来のようでもあるし、
原始時代のようでもあり、
あるいは、現代の、
アメリカを筆頭とする先進国や、
その他発展途上国などの社会構造とも案外似通っているようにも感じた。

先程、「サイレント時代の映画のよう……」と述べたが、
映画草創期の無声映画ではないので、もちろん音はある。
車の爆音だけでなく、音楽も……
この映画では、
砂漠を牛耳るイモータン・ジョーの一団のドゥーフ・ワゴンには、
太鼓を叩く集団が乗っていたり、
巨大スピーカーを積んでいたり、
車の前方でギターを弾く男がいたり、
こう言っては何だが、聴覚的に、そして視覚的にも、とても芸術的なのだ。


ジョージ・ミラー監督は語る。

ドゥーフ・ワゴンは戦士たち皆を鼓舞するための車だ。彼らは軍団でバトルに挑むわけだ。だから実際の戦争でもよく見られたように士気を高めるため、音楽を鳴らしたんだ。周りの車の爆音に勝る爆音を出すためには、動くロック・コンサート会場を設計するしかない。周りで運転する皆に聞こえなければならないので、巨大スピーカーを積んでいるんだ。車の前方にはギタリストのドゥーフ・ウォリアーを乗せて、火を吹くダブルネックギターを激しく弾かせている。ワイルドであればあるほど周りが恐怖するわけで、奴らにとっては最高だ。(『キネマ旬報』2015年7月上旬号)


行きつくところまで行ってしまうと、
エンターテインメントも芸術性を帯びてくる。
『ダークナイト』(2008年)がそうであったように、
ジェイムズ・エルロイの小説がそうであるように……




ジョージ・ミラー監督は、1945年3月3日生まれなので、御年70歳。
70歳になってもなお進化し続けるとは、
いやはや恐るべき70歳だ。
今の若手監督で、これほどパワーのある作品を創れる人がどれだけいるだろう。
あれほどのスケール、
あれほどのアクションであるにもかかわらず、
CGはほとんど使っていないとか。
もうビックリさせられることばかりである。


本作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の制作と同時に、
『マッドマックス5(Mad Max5:Furiosa)』も同時進行される形で、
4、5、6と全3部作制作される企画予定だという話も伝え聞く。
俄然、楽しみになってきた。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を超える作品が誕生するのか?
はたまた、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』がシリーズ最高傑作として、
伝説となっていくのか?
幸運なことに、我々は今、それを確認することができる時代、場所にいる。
そういう意味でも、
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は必ず見ておくべき作品と思われる。

トム・ハーディや、


シャーリーズ・セロン(彼女が特に素晴らしい)についても語りたいが、


いずれ時間ができたときにでも……


とにかく、どこを切っても見せ場ばかりで、
ちょっと気を抜いたら大怪我してしまいそうな傑作
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を見に、
今すぐ映画館へ。
過去の3作を見ていなくても大丈夫。
そんなこと問題にならないほどの傑作なんだ。
急いで、急いで!!

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