![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/7a/ccadde65149eebae8e7564a5a3e8a12b.jpg)
映画『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年公開)は、
中野量太監督の商業映画デビュー作にして傑作で、
このブログでも、
……宮沢りえと杉咲花の火傷するほどの熱演光る傑作……
とのサブタイトルを付して絶賛した。(コチラを参照)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/e7/bbca69ffe5abd5c7e5192f085c2b7779.jpg)
中野量太監督の商業映画・第2作目は『長いお別れ』という作品で、
これも、このブログで、
……記憶を失っていく毎に深まっていく家族愛を描いた佳作……
とのサブタイトルでレビューを書いて褒めている。(コチラを参照)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/ee/bd36fd95c0a14cd1471779eae6d39ec5.jpg)
その中野量太監督の新作が『浅田家!』なのである。
実在する写真家・浅田政志の、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6f/d1/af9a77bde43e63249dcd43e23bc38550.jpg)
木村伊兵衛写真賞を受賞した家族写真集「浅田家」(赤々舎刊)と、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/9e/03473dc52ddc5e91e665178178ed06c7.jpg)
東日本大震災の被害にあったアルバムや写真の洗浄・返却にあたった人々を撮影した「アルバムのチカラ」(赤々舎刊)をベースに、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/d7/068c434bf308b23f82747a92de02ee6a.jpg)
三重県津市に生まれた浅田政志が写真家になるまで、
そして東日本大震災を経験し、
改めて写真を撮る意味を見出すまでを描いており、
主人公・浅田政志を二宮和也が演じ、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/6a/ddce96d346847b9d45dc50396454ff32.jpg)
妻夫木聡、黒木華、菅田将暉、風吹ジュン、平田満、渡辺真起子、池谷のぶえなどが、
脇を固めているという。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/78/91a59225ae90452e8fd4c76adfb0af1d.jpg)
正直に言うと、二宮和也が主役だと知ったとき、
あの中野量太監督も、
〈ジャニーズ事務所所属のアイドルを主役に映画を撮るようになったか……〉
と、少しガッカリしたのを憶えている。
東宝配給の映画を撮るとはこういうことなのか……と。
アイドルタレントは、良い意味でも悪い意味でも生活感が無さすぎて、(個人的な意見です)
映画を見ても、その人物が背負っている過去や背景が見えにくいという欠点がある。
二宮和也の役者としてのキャリアや世間の評判は認めつつも、中野量太監督には、
〈そこまでして商業映画として成功させたいのか……〉
という思いがあった。
なので、
〈中野量太監督の新作なのだから見なくては……〉
と思いながらも、
なかなか足が映画館に向かなかった。
映画『浅田家!』の公開日(2020年10月2日)から、
半月以上も経ってから映画を見に行ったのは、
そういう理由があったからである。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/65/ba/05e07f6a3a2eaf629447b3bbd15dccb3.jpg)
浅田家の次男・政志(二宮和也)は、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/0e/6bf60c8a667653f7ac1e850d8250429e.jpg)
父の影響で幼い頃から写真に興味を持ち、やがて写真専門学校に進学。
卒業制作の被写体に“家族”を選び、
浅田家の思い出のシーンを再現した写真で学校長賞を受賞する。
卒業後しばらくはくすぶっていたものの、
再び写真と向き合うことを決意した政志が被写体に選んだのは、
やはり“家族”だった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1b/cb/8ec9089ea419d7ccf93bd795d9bbeb51.jpg)
父・章(平田満)、
母・順子(風吹ジュン)、
兄・幸宏(妻夫木聡)の協力のもと、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/d1/3b96d58a92896fe3a096bfdf6c539c0d.jpg)
消防士、バンドマン、レーサー、ヒーロー、極道、ラーメン屋、大食い選手権……など、
それぞれが“なりたかった職業”“やってみたかったこと”をテーマにコスプレし、
その姿を撮影した“家族写真”で個展を開催。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/99/bd43805e437a505c5b480b2bdbbd86ba.jpg)
個展を見にきた出版社「赤々舎」の社長・姫野希美(池谷のぶえ)から「面白い」と評価され、
その「赤々舎」から写真集を出版する。
発売直後はそれほど売れず、落ち込むが、
写真界の芥川賞と言われる「木村伊兵衛写真賞」を受賞したという知らせが届く。
受賞をきっかけに、
日本中の家族から撮影依頼を受け、
写真家としてようやく軌道に乗り始めたとき、東日本大震災が起こる。
かつて撮影した家族の安否を確かめるために向かった被災地で、政志が目にしたのは、
家族や家を失った人々の姿だった。
「家族ってなんだろう?」
「写真家の自分にできることは何だろう?」
シャッターを切ることができず、自問自答をくり返す政志だったが、
ある時、津波で泥だらけになった写真を一枚一枚洗って、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/f7/89904e071a60656fcc375233506dbfcf.jpg)
家族の元に返すボランティア活動をしている東北の大学院生・小野陽介(菅田将暉)に出会う。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/6e/87e8914f1a7566060927712014ec2096.jpg)
小野と共に“写真洗浄”を続け、
そこで写真を見つけ嬉しそうに帰っていく人々の笑顔に触れることで、
次第に“写真の持つチカラ”を信じられるようになる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/32/9ae7a6a56e7b038c8138acc4acb562e2.jpg)
そんな時、一人の少女・内海莉子(後藤由依良)が現れる。
「私も家族写真を撮って欲しい!」
それは、津波で父親を失った少女の願いだった……
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/c4/475393dabf9b7cb59f3442a87a5e1be9.jpg)
映画を見終わって、
私が当初感じていた、
〈主人公の浅田政志役がなぜ二宮和也なのだろう?〉
という疑問に対する答えが得られたような気がした。
本作『浅田家!』は、
浅田政志という人物が主役ではあるが、
主人公自身ではなく、
家族や周りの人々の視点から政志という人間を表現している作品であったのだ。
才能はあるものの、人としてダメなところも多い主人公は、
家族や周囲の人々に支えられながら写真家として結果を出していく。
主人公の(実際はどうなのか分らないが少なくとも映画では)そのダメな部分も魅力的で、
誰もが手伝いたくなるし、応援したいと思ってしまう。
その“人たらし”の部分がないと演じられない役だったのだ。
だから「主役は二宮和也」だったのである。
中野量太監督は語る。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/f4/649cf0a78f74a0f4f0d49984a1665a97.jpg)
二宮和也さんは以前から好きでした。馴染むんですよね、映画の世界に。それに憂いというか寂しさも背負っている。やっぱり二宮さんしかいないと思って、オファーを出しました。決まったときは「もらった!」と思いました(笑)。そこからはバランスを考えて、そんな弟をしっかり支えるお兄ちゃんに妻夫木聡さん、お父さんに平田満さん、お母さんに風吹ジュンさんと、家族のピースをはめていきました。(映画評論・情報サイト「BANGER!!!」インタビューより)
なるほど、
中野量太監督から二宮和也にオファーを出し、
中心が決まってから、その家族、周囲の人々のキャスティングをしたのか……
家族や周りの人々の視点から政志という人間を表現する作品にするには、
周囲に、主役に負けないほどに魅力と実績のある俳優を配置しなければならない。
だから、妻夫木聡、黒木華、菅田将暉など、
主役級の俳優を何人も脇役としてキャスティングしていたのだ。
その脇役たちの演技が、殊に素晴らしかった。
浅田政志の兄・幸宏を演じた妻夫木聡。
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役に入り込むと恐いくらいの演技を見せる妻夫木聡であるが、
本作ではエキセントリックな部分は皆無で、
平凡な人物を平凡に演じていて秀逸。
“家族写真”のコスプレの準備や交渉を担当するは兄・幸宏の役目で、
弟・政志のダメな部分も優しく包み込み、
写真撮影に協力する兄の役は、妻夫木聡にしかできなかった……と思わせる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/6a/db449ccbe0d168d4e6faf34d0f3eeb2f.jpg)
母親のように政志の面倒をみる幼馴染で恋人未満の川上若奈を演じた黒木華。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/38/bd/d135481aab8f596d13e048da29acd063.jpg)
大好きな女優なので、黒木華を見ることができただけでも、私にとっては大満足。
それにも増して、その演技の素晴らしさに惚れ惚れした。
中野量太監督も、黒木華が演じる若奈を、
ただ尽くす人ではなく、
自身のやりたいことをやるために自立している人物として描いており、
そこも清々しくて良かった。
ダメな部分の多い政志であるが、
政志が撮った自分の写真をいつも肌身離さず持っており、
「私、この写真が大好き。たぶん私の100%が写っとるから」
と言うシーンは秀逸。
政志を励ましつつも、自らの政志に対する心情をも語っているという点で、
忘れられないセリフであった。
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写真を洗って家族の元に返すボランティア活動をしている小野陽介を演じた菅田将暉。
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菅田将暉も妻夫木聡と同じく、
役に入り込むと恐いくらいの演技を見せる俳優であるが、
本作では俳優としての存在感を見事に消し去り、
どこにでもいるような朴訥とした青年として演じていて驚かされた。
中野量太監督も菅田将暉のことを、
菅田さんは、小野のモデルになった人と実際はあまり似ていないのに、いつの間にか似てしまっている凄さがあります。(映画評論・情報サイト「BANGER!!!」インタビューより)
と語っていたが、
役に入り込むというよりも、役に溶け込んでおり、
人気俳優としてのオーラや気配をまったく感じさせないその溶け込みぶりに感嘆した。
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小野の活動に共感し、共に活動するようになる外川美智子を演じた渡辺真起子。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/12/e4f4a81efeb08e68e565c7922f42b6b0.jpg)
ここ数年でも、
『64-ロクヨン- 後編』(2016年)
『最低。』(2017年)
『ミッドナイト・バス』(2018年)
『友罪』(2018年)
『きみの鳥はうたえる』(2018年)
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018年)
『"隠れビッチ"やってました。』(2019年)
など、このブログにレビューを書いている作品に多く出演しており、
本当に演技の上手い女優である。
写真を洗って家族の元に返すボランティアは地味な活動であり、
小野も静かな男なので、雰囲気が暗くなりがちなのであるが、
渡辺真起子が外川美智子という女性を明るく元気な人物として演じ、
この活動に、そして映画にも活気をもたらす。
渡辺真起子という女優が一人いるだけで、
その映画を凡作にさせないだけの力を持っており、
多くの監督が彼女をキャスティングしたがる理由は解る気がした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/c1/7f7d5f2e9b531dfd2792b0ffab79e683.jpg)
出版社「赤々舎」の社長・姫野希美を演じた池谷のぶえ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1d/04/f1caf5ad75ce8a89ce4b1654db624539.jpg)
TVドラマではよく見かけるが、映画出演は意外に少ない。
それでも、ここ数年では、
『ソロモンの偽証 前篇・事件 / 後篇・裁判』(2015年)
『DESTINY 鎌倉ものがたり』(2017年)
『モリのいる場所』(2018年)
『グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜』(2019年)
など、(このブログにもレビューを書いている)印象深い作品に出演しており、
特に『モリのいる場所』での演技は素晴らしく、
……山﨑努と樹木希林の名演と、池谷のぶえの存在感……
とサブタイトルに彼女の名を入れてレビューを書いたほど。
どこにでもいそうなおばちゃんを演じさせたらこの人の右に出る人はいないくらいの存在感のある女優。
いろんなTVドラマや映画で見かけるが、
本作での存在感はピカイチであった。
本作『モリのいる場所』は、基本、
山﨑努と樹木希林と池谷のぶえで成り立っている物語で、
池谷のぶえが潤滑油のような役割を担っており、
お手伝いさんのような役柄ながら、
とても重要な役だと思った。
とレビューに書いたが、本作『浅田家!』でも、
浅田政志の写真を認め、
「浅田家」という写真集を出版する「赤々舎」の社長・姫野希美を魅力的に演じており、
あまりに魅力的なので、私など、鑑賞後に、
実物の「赤々舎」の社長・姫野希美さんを検索したほど。
【姫野希美】(ひめの・きみ)
赤々舎社長。
大分県生まれ。
早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了後、上海で不動産仲介業に携わり帰国。
京都の美術出版社、青幻舎を経て、
2006年に赤々舎を設立。写真集、美術書を中心に刊行。
手掛けた写真集『I am』(岡田敦)、『CANARY』(志賀理江子)の2作が第33回木村伊兵衛写真賞をダブル受賞。
第34回同賞の『浅田家』(浅田政志)、
第35回同賞の『MID』『GROUND』(高木こずえ)、
第38回同賞の『対岸』(百々新)、
第40回同賞の石川竜一、
第43回同賞の藤岡亜弥など、
話題の写真集を精力的に出版している。
経歴も凄いし、面白いし、
3人ほどでやっている小さな出版社なのに、
無名に近い新人写真家などを発掘して写真集を出し、
木村伊兵衛写真賞(過去7回受賞)などの大きな賞を次々と受賞している。
映画でもかたられる、
「良いモノは良い、そこは今でも私、自信持ってるから」
という言葉は、姫野希美の魅力が詰まっている言葉だと思った。
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政志に“家族写真”を依頼した「たっくん一家」の母親を演じた篠原ゆき子。
『共喰い』(2013年)で彼女と出逢って以来、(コチラを参照)
いつも気になって仕方ない女優になり、
彼女の出演作である、
『深夜食堂』(2015年)
『二重生活』(2016年)
『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)
などのレビューで篠原ゆき子という女優を語ってきたが、
最近では、TVドラマでの演技が評判となり、話題になることも増え、嬉しい限り。
本作でも素晴らしい演技をしており、
期待は裏切られなかった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/f8/c176e47fe61b380441de4c7cbb58419a.jpg)
この他、
震災で行方不明になった娘を探す父親で、
政志や小野たち写真洗浄ボランティアに辛く当たる渋川謙三を演じた北村有起哉、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/98/56b4392120231f69e80e46d81b7e3987.jpg)
政志の母・順子を演じた風吹ジュン、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/20/a73a32c8b372e20fcdd5ea85feebdba0.jpg)
政志の父・章を演じた平田満、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/06/96ca8f83c1506aaeeb06cf8766c5c7ca.jpg)
幸宏(妻夫木聡)の妻・浅田和子を演じた野波麻帆などの好演が、
実話に基づき独自の目線で紡いだオリジナルストーリー作品を、
よりリアルに、より面白くしていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/6b/42a5015e874f409ef306352c8584dcc9.jpg)
これまで“家族”をテーマに映画を撮ってきた中野量太監督が、
“家族写真”をテーマに写真を撮り続けている浅田政志という人物と、
彼の“家族”や、彼の被写体となる“家族”を描くことは、
今考えると、必然的な融合だったのかもしれない。
ここに新たに“家族”を描いた秀作が誕生した。
映画館で、ぜひぜひ。