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モトーラ世理奈については、
映画『ブラック校則』のレビューで、
……モトーラ世理奈の圧倒的な存在感と個性的な美しさ……
とのサブタイトルを付けて絶賛した。
読んでいない方もおられるかもしれないので、
冒頭部分だけを再録する。
昨年(2018年)の8月24日、
NHKのTVドラマ『透明なゆりかご』の第6回「いつか望んだとき」を観ていたときだった。
不良っぽい少女・ハルミを演じた女優に目が釘付けになった。
彼女の名は、モトーラ世理奈。
アンニュイな雰囲気と、圧倒的な存在感。
松たか子、沢尻エリカ、安藤サクラ、満島ひかり、広瀬すず、清原果耶、唐田えりか……
彼女たちと初めてスクリーンやTVドラマで出逢ったときと同じような衝撃を受けた。
【モトーラ世理奈】
1998年10月9日生まれの21歳(2019年11月現在)
ファッションモデル、女優、歌手。
父はイタリア系アメリカ人で、母は日本人。
東京都出身。
ボックスコーポレーション所属。
2014年、高校1年生の時に原宿でスカウトされ事務所に所属。
モデルとして雑誌『装苑』への出演が決まり、
同年11月発売の同誌2015年1月号「ニューカマースペシャル」でデビューする。
2016年11月発売のRADWIMPSのアルバム『人間開花』のジャケットビジュアルに抜擢され、注目を集める。
また、資生堂の企業文化誌『花椿』新装刊0号の表紙を飾る。
「ひと目見たら忘れられない」圧倒的なインパクトを魅力に、
有名百貨店やアパレルブランドなどさまざまな広告のメインビジュアルやファッション誌に起用される。
2017年3月発売の『装苑』5月号より同誌専属モデルとなる。
2018年3月には「パリ・コレクション 2018-19A/W」にてファッションブランド「UNDERCOVER」のショーモデルを務め、パリコレデビュー。
女優の二階堂ふみがカメラマンとして初めて撮影する写真集の被写体に選ばれて、
同年4月に写真集『月刊モトーラ世理奈・夏 写真 二階堂ふみ』を発表する。
初めて本格的に演技に挑戦した2018年6月公開の映画『少女邂逅』で、
200人以上の応募者の中から選ばれて保紫萌香ともにダブル主演を務め、
長編映画に初主演。
同年8月には『透明なゆりかご』でNHKテレビドラマに初出演し、
難役を演じて注目を集め、女優として今後「面白い存在」になるかもとして担当プロデューサーから期待を受ける。
2019年1月には『レ・ミゼラブル 終わりなき旅路』で民放ドラマに初出演。
2020年2月公開予定の映画『恋恋豆花』で2,000人の中からオーディションを勝ち抜いて主演を務める。
2019年7月にはフィッシュマンズの代表曲「いかれたBaby」のカバーを、
12インチシングル盤及び音楽配信にてリリースして歌手としてもデビューする。
このプロフィール欄に、
初めて本格的に演技に挑戦した2018年6月公開の映画『少女邂逅』で、
200人以上の応募者の中から選ばれて保紫萌香ともにダブル主演を務め、
長編映画に初主演。
とあるが、
この映画デビュー作となった『少女邂逅』が見たくなった。
ていうか、
〈モトーラ世理奈の映画デビュー作なら、ぜひとも見ておかなければならない!〉
と思った。
調べてみると、
今年(2019年)の1月16日に、
すでにBlu-ray&DVDがリリースされていた。
で、慌てて『少女邂逅』を鑑賞したのだった。
いじめられたことがきっかけで声が出なくなった小原ミユリ(保紫萌香)。
自己主張もできず、周囲にSOSを発信するためのリストカットをする勇気もない。
そんなミユリの唯一の友達は、山の中で拾った蚕。
ミユリは蚕に「紬(ツムギ)」と名付け、こっそり大切に飼っていた。
「君は、私が困っていたら助けてくれるよね、ツムギ」
この窮屈で息が詰まるような現実から、いつか誰かがやってきて救い出してくれる……
と、ミユリはいつも願っていた。
ある日、いじめっ子の清水に蚕の存在がバレ、捨てられてしまう。
唯一の友達を失ったミユリは絶望する。
その次の日、ミユリの通う学校に、
亡くなった蚕と同じ名前を持つ「富田紬(つむぎ)」という少女(モトーラ世理奈)が転校してくる……
孤独な女子高生と、謎めいた転校生の交流を描いた、
ファンタジーな感じの青春映画であった。
岩井俊二監督の、
『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)や
『花とアリス』(2004年)を思い起こさせる秀作であった。
監督は、枝優花。
【枝優花】(えだ ゆうか)
1994年、群馬県高崎市生まれ。
東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科卒業。
映画監督、写真家。
2013年、第26回早稲田映画まつりで上映された『さよならスピカ』が松居大悟監督から絶賛、審査員特別賞を受賞。
2014年、第27回早稲田映画まつりでも『美味しく、腐る。』が観客賞に選ばれる。
大学時代から映画の現場へ従事し、
『オーバー・フェンス』(2016年公開)、
『武曲 MUKOKU』(2017年公開)などに、スタッフとして参加。
2018年、初の長編監督作品『少女邂逅』が新宿武蔵野館を皮切りに全国公開。
第42回香港国際映画祭に招待される。
その他、雑誌『ViVi』『装苑』などでのスチール撮影など、その活動は多岐に渡る。
この映画は、14歳の時の実体験がベースになっています。実は14歳の時、人間関係で精神的に折れてしまって、人前で声が出なくなるっていう場面緘黙症になりました。その時、自分の人生に目をそらして塞ぎ込んでしまっていて。保紫萌香が演じた『ミユリ』には、その当時の私を投影しています。4年の時を経て、18歳の時に当時の経験を書き起こしはじめたのが、この映画の始まりです。
枝優花監督はこう語っていたが、
監督自身の体験が反映されている所為か、
感性がむき出しになり、ヒリヒリするような痛みがこちらまで届くような作品であった。
ミユリの唯一の友達は、山の中で拾った蚕であり、
自らを蚕に投影させている。
学校の教室という狭い空間で生きる少女たちは、
それぞれが狭い空間に閉じ込められた蚕のようであり、
蚕はこの映画のメタファーとして重要な役割を果たしている。
蚕(かいこ)は、
家蚕(かさん)とも呼ばれる家畜化された昆虫で、
野生には生息していない。
また野生回帰能力を完全に失った唯一の家畜化動物として知られ、
餌がなくなっても自ら探したり逃げ出したりすることがなく、
人間による管理なしでは生きることができない。
口から絹糸を出し、頭部を∞字型に動かしながら繭を作り、その中で蛹化する。
繭は一本の糸からできており、
絹を取るには、繭を丸ごと茹で、ほぐれてきた糸をより合わせる。
絹を取った後の蛹は熱で死んでいる。
もし羽化しても、
成虫は、羽ばたくことはできるが飛ぶことはほぼできない。
口吻はあるが餌を食べることは無いので、最後は餓死する。
蚕の、
「家畜化された」
「自ら探したり逃げ出したりすることがない」
「繭を作って閉じ籠る」
「羽ばたくことはできても飛ぶことはできない」
「餓死」
といった特性が、少女たちの特性とぴったりと重なり合う。
「虫には痛覚がない。虫はすぐ死んでしまうから」
という虫の特性も何度か繰り返され、
それは、逆説的に、
「すぐには死ねない人間には痛点が必要」
と言っているようにも聞こえ、
リストカットしようとしてできない小原ミユリや、
様々な苦悩を抱える富田紬に、
はたして「痛点」は必要だったのか……と、
見る者に問うようにも思えた。
小原ミユリを演じた保紫萌香も素晴らしかったが、
私は、やはり、
富田紬を演じたモトーラ世理奈に魅了された。
彼女を目的にこの映画を見たという経緯もあるが、
映画デビュー作で、
(演技はまだ拙いものの)
この雰囲気、この存在感は、普通は作り出せないものだ。
枝優花監督は語る。
紬は、言葉にできない魅力がある子っていうとても抽象的な理想だったんですけど。(笑)神頼みのようにオーディションにかけました。言葉にできない魅力のある子って顔もスタイルもちょっと普通より秀でた子がいいのかなあと漠然と考えていて、でもなかなか難しくて。ああこれもうダメかもなって思った時に彼女がやってきたんです。
彼女、オーディション中一回も笑わなかったんですよ。眠いのかなとか思ってたんですけど、よく見ると台本持ってる手が震えていて。
選考の時に全員に、今まで生きてきて一番つらかった出来事を教えてくださいという質問をしたんですけど、彼女は言わなかったんです。
『ないです。』って。その時直感で『いやいや、絶対あるでしょ』と思ったんですけど、でもそれを頑として言わない。見えてるものと心の中に渦巻いていることがチグハグで「なんだこの子...」と強烈に印象に残っていました。
一体どんな過去が彼女にあるのだろうって知りたくなった。見た目は秀でているけど持ってるものが脆かったり弱かったり、っていうところで、この子はもしかしたらこの役できるかもしれないと思い、賭けてみました。
枝優花監督の直観力に驚かされる。
「よくぞ見い出してくれた!」
「よくぞ彼女にかけてくれた!」
と感謝したい。
本作『少女邂逅』には、
モトーラ世理奈が“将来性のある女優”であることを予見できる材料が詰まっているし、
彼女の“無限の可能性”を感じさせるものがあった。
そのことを裏付けるように、
来年(2020年)はモトーラ世理奈の出演作が目白押し状態となっている。
現在発表されている作品は3作。
しかも、すべて主演。
『風の電話』(2020年1月24日公開予定) 主演・ハル 役。
『恋恋豆花』(2020年2月公開予定) 主演・森下奈央役 役。
『MEMORIES』(2020年公開予定) 主演で一人三役に挑戦している。
2020年に(必ずや)大ブレイクするであろうモトーラ世理奈。
彼女の映画デビュー作である『少女邂逅』は、
映画ファンなら(必ず)見ておかなければならない作品になる筈である。
ぜひぜひ。