昨年(2012年)見た邦画のなかで、
園子温監督作品『ヒミズ』は、三本の指に入る傑作であった。
この『ヒミズ』で、
ヴェネチア国際映画賞のマルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人俳優賞)をW受賞したのが、
染谷将太と二階堂ふみのコンビ。
この染谷将太と二階堂ふみのふたりが、
『悪の教典』に続いて、
三度、同じ映画に出ているのが、
生田斗真主演の映画『脳男』(2013年2月9日公開)だ。
このふたりの演技が見たかったし、
佐賀県(鳥栖市)出身の女優・松雪泰子も重要な役で出ているので、
遅ればせながら仕事帰りに映画館に足を運んだ。
原作は2000年に刊行され、江戸川乱歩賞を受賞した首藤瓜於の小説。
傑作『八日目の蝉』の成島出監督が脚本化し、
『犯人に告ぐ』の瀧本智行が監督したアクション・ミステリー。
都内近郊で無差別連続爆破事件が頻発し、路線バスが爆破される。
刑事の茶屋(江口洋介)は、ついに犯人のアジトを突き止めるが、
確保できたのは、身元不明の男(生田斗真)だけだった。
その男は「鈴木一郎」と名乗った以外、一切身元不明。
爆破の共犯者と見なされ、精神鑑定を受けることになるが、
担当医師の鷲谷真梨子(松雪泰子)は、
一切の感情を出さない彼に興味を持ち、真実の姿を知ろうと過去を調べ始める。
そして、幼い頃に轢き逃げ事故で両親を亡くし、
大富豪の祖父から、正義のために犯罪者を抹殺する殺人ロボットに鍛え上げられたことを知る。
そんな彼は、周囲から“脳男”と呼ばれるようになっていたことも……
そんな中、一郎を移送していた護送車が、
緑川紀子(二階堂ふみ)と水沢ゆりあ(太田莉菜)の2人組に襲われる。
「一郎を出せ」と要求する彼女たちこそ、連続爆破犯だったのだ……
痛覚をもたない特殊体質(無痛症)で、
しかも「感情のないダークヒーロー」というキャラで登場するのが、
生田斗真演ずる“脳男”。
鍛え上げられた肉体が見事であったし、
難役を見事に演じきっていた。
無痛症という設定は、漫画や小説で時々見かけるが、
最近では、スウェーデンの作家スティーグ・ラーソンによる推理小説
「ドラゴン・タトゥーの女」「火と戯れる女」「眠れる女と狂卓の騎士」
から成る三部作の『ミレニアム』シリーズに“金髪の大男”として出ていたのを憶えている。
恐さにおいては、この小説(『ミレニアム』シリーズ)の方が上だったかな……
脳男の方は、「正義のためには殺人をも厭わない」という美しき殺人者なので、
非情さにおいては、やや迫力に欠けていると思った。
対照的に、
“脳男”と対決する緑川紀子(二階堂ふみ)と水沢ゆりあ(太田莉菜)の方が、
より非情さを感じさせたし、
傑作『ダークナイト』のジョーカーに似たキャラクターで、面白かった。
眉を潰し、異様な笑いで恐怖をさそう二階堂ふみは、
よく健闘していたし、もちろん合格点をあげられるのだが、
私は「もっとできる子」だと思っていたので、
そういう意味では、ちょっと言い過ぎであるが、やや期待はずれであった。
むしろ、緑川紀子(二階堂ふみ)の部下ともいうべき水沢ゆりあを演じた太田莉菜の方に、
より凄みを感じた。
モデル出身なので、まだ出演作は少ないが、
これからに期待できる女優であると思った。
二階堂ふみと比較して、出演シーンの少ない染谷将太の方は、
深いトラウマを抱えて治療に取り組む精神科医・鷲谷真梨子(松雪泰子)の治療対象者として出てくるが、これがとても良かった。
なにかやらかしそうな危なげな表情、
そして、尋常ならざる眼差し。
ラストは、彼なくして、あの“衝撃”はなかったと思われる。
若い俳優陣が健闘しているのにひきかえ、
“脳男”を追い続ける刑事(江口洋介)には違和感を感じた。
アナログ感一杯で、昭和のニオイがプンプンする刑事は、
なんだか昔の刑事ドラマを観ているようで、とてもイタかった。
江口洋介のせいではないが、
この刑事のキャラクター、どうにかならなかったものか……
そこだけがとても惜しまれる。
その点を除けば、よくできた映画だと思うし、
映画館で見る価値のある作品だと思う。
精神科医を演じた松雪泰子は相変わらず美しく、
精神鑑定の時に発する言葉は実に刺激的(これは映画館で確かめてね)。
伝説のシンガーソングライター・山崎ハコや、
『いつか読書する日』の 監督・緒方明も俳優として出演しているので、
どこに出ているか探すのも一興。
ぜひ、映画館で……。