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松たか子を初めて認知したのは、
TVドラマの『ロングバケーション』(1996年4月~6月、フジテレビ系)であった。
奥沢涼子役で出演していたのだが、
その美しさにすっかり魅了されてしまった。
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以来、20数年間、ずっとファンである。
出演したTVドラマや映画はほとんど見ているし、
舞台も九州で公演される場合は観に行っているし、
大阪まで観劇に行ったこともある。
松たか子主演の岩井俊二監督作品『四月物語』(1998年)は、
当時、佐賀での上映はなく、福岡まで見に行った。
67分の映画であったが、
その短い時間の中に、松たか子の美が封じ込められており、
物語性は希薄で、なんだかドキュメンタリー映画を見ているような気分になった。
〈松たか子の美を映像として記録しておかなくては……〉
というような岩井俊二監督も想いが感じられ、
今でもその美しい映像は折にふれ思い出される。
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その岩井俊二監督と松たか子が約21年ぶりにタッグを組んだ作品が公開された。
それが、本日紹介する『ラストレター』である。
岩井俊二監督が、自身の出身地・宮城を舞台に、
手紙の行き違いから始まった2つの世代の男女の恋愛模様と、
それぞれの心の再生と成長を描いたラブストーリーとのことで、
松たか子の他に、
これまた私の大好きな広瀬すず、
アニメ映画『天気の子』でヒロイン・天野陽菜の声を担当し、一躍注目された森七菜、
アニメ映画『君の名は。』で主役の立花瀧の声を担当した神木隆之介、
主演映画『マチネの終わりに』が好評だった福山雅治、
岩井俊二監督作品『Love Letter』に出演していた中山美穂、豊川悦司など、
出演陣も豪華。
とても楽しみしていた作品なので、
公開初日(2020年1月17日)に、
仕事帰りに映画館に駆けつけたのだった。
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裕里(松たか子)の姉の未咲が、亡くなった。
裕里は葬儀の場で、
未咲の面影を残す娘の鮎美(広瀬すず)から、
未咲宛ての同窓会の案内と、
未咲が鮎美に残した手紙の存在を告げられる。
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未咲の死を知らせるために行った同窓会で、
学校のヒロインだった姉と勘違いされてしまう裕里。
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そして、その場で初恋の相手・乙坂鏡史郎(福山雅治)と再会することに。
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勘違いから始まった、裕里と鏡史郎の不思議な文通。
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裕里は、未咲のふりをして、手紙を書き続ける。
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その内のひとつの手紙が鮎美に届いてしまったことで、
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鮎美は鏡史郎(回想・神木隆之介)と未咲(回想・広瀬すず)、
そして裕里(回想・森七菜)の学生時代の淡い初恋の思い出を辿りだす。
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ひょんなことから彼らを繋いだ手紙は、
未咲の死の真相、
そして過去と現在、
心に蓋をしてきたそれぞれの初恋の想いを、
時を超えて動かしていく……
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こう言ってはなんだが、
恥ずかしくなるほどのロマンティックな物語である。
これほどのロマンティックな物語を思いついても、
普通は、リアリティーがないと思い、映像化しないものである。
だが、岩井俊二監督は、『ラストレター』という作品として完成させた。
これは、ある意味、凄いことだ。
この映画には、様々な人たちからコメントが寄せられているが、
『君の名は。』や『天気の子』で有名な新海誠監督のコメントに、
私は最も共感させられた。
ラブレターのいくつもの誤配や錯綜が、人生を作っていく。その美しさを教えてくれるのは、傘をさした二人の少女だ。岩井俊二ほどロマンティックな作家を、僕は知らない。
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「岩井俊二ほどロマンティックな作家を、僕は知らない」
という言葉は、予告編の最後にも出てくるが、言い得て妙。
男は、元々、ロマンティックな生き物だが、
これほどロマンティックな男は、なかなかいないものだ。
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岩井俊二監督作品には、『Love Letter』という名作があるが、
手紙(文通)という共通の題材、
主人公が図書館で働いている、
本が重要な役割を果たす、
一人二役、
映像の美しさなど、
似ている部分が多く、
おまけに『Love Letter』で主演した中山美穂と豊川悦司も出演しているので、
『Love Letter』を見たことのある人ならば、
本作『ラストレター』を、ある種の感慨をもって鑑賞することであろう。
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岩井俊二監督ほど女優の美にこだわる監督はいないような気がする。
『Love Letter』では、中山美穂と酒井美紀、
『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』では、奥菜恵、
『スワロウテイル』では、伊藤歩、
『四月物語』では、松たか子、
『リリイ・シュシュのすべて』では、蒼井優と伊藤歩、
『花とアリス』では、鈴木杏と蒼井優、
『リップヴァンウィンクルの花嫁』では黒木華
というように、
まずは魅力的な女優を選出し、
キャスティングした女優の美を最大限に引き出し、
映画の中に封じ込める。
それぞれの映画の中で、彼女たちは伝説となり、
永遠に語り継がれる存在となる。
『ラストレター』でも、松たか子、広瀬すず、森七菜がキラキラと輝いており、
見る者を映画の物語へ引き込み、
まるで彼女たちとの思い出があるかのような錯覚をおこさせる。
それほどに彼女たちは魅力的に撮られているのだ。
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松たか子と広瀬すずは、
NODA・MAPの舞台「『Q』:A Night At The Kabuki」で共演しており、
私は昨年(2019年)の11月4日に北九州芸術劇場でこの舞台を観劇した。
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初舞台とは思えない広瀬すずの素晴らしい演技と、
ベテランらしい松たか子の落ち着いた演技に魅せれて、
二人の共演を堪能したのだが、
本作『ラストレター』でも、松たか子と広瀬すずのやりとりは素晴らしかったし、
それぞれの演技も、繊細かつ緻密さが感じられ、
そこに映像美も加わり、酔わされた。
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松たか子や広瀬すずに負けないほど存在感を示したのが、
新人の森七菜。
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自然体のナチュラルな演技で、
見る者をほんわかとした気分にさせてくれた。
彼女を見ているだけで楽しくなるし、
なにか良いことが起こりそうな気分になる。
広瀬すずとは違った意味での“凄い女優”になりそうな予感がした。
エンドロールで流れる主題歌も担当しているので、
その透明感のある歌声も楽しんでもらいたい。
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この映画には、意外な女性歌手がキャスティングされていて驚かされた。
それは、1970年代後半に、
「めぐり逢いすれ違い」「ほほにキスして」などのヒット曲で知られた水越けいこ。
裕里(松たか子)の夫・宗二郎(庵野秀明)の母・岸辺野昭子役として出演しているのだが、
認知症さえ疑われるお婆さんの役ということで、
(彼女の20代半ばの輝いていた頃に「好きだった」一時期を持つ私としては、ちょっと複雑な想いがあったものの)
女優初挑戦とは思えない、人生の年輪を感じさせられる演技に魅了された。
今もシンガーソングライターとして活躍されているようだが、
今後も女優としても活動されることを願う。
それほどの好い演技であった。
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裕里(松たか子)の母・遠野純子を演じた木内みどり。
昨年末(2019年11月18日)に急性心臓死のために亡くなったので、(享年69歳)
映画としては本作が遺作となった。
ポーラテレビ小説「安ベエの海」(1970年、TBS)以来、
様々なTVドラマ、映画、舞台、バラエティ番組などで我々を楽しませてくれた。
また、チベット支援、脱原発などの社会活動家としての一面もあり、
「小さなラジオ」公式サイトに、
「1回きりの人生。致死率100%の人生。67歳の今、あと、何年生きられるのかを考えるようにもなりました。だからこそ始めてみることにしました」
と書き残しているが、
真摯に生きた人生であったことが分るし、
69歳での死を予感したような行動であったようにも思う。
早すぎる死が残念でならない。
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本作は、
岩井俊二監督の故郷・宮城を舞台に、2018年夏に撮影が行われたという。
主に、
杜の都・仙台と、
城下町・白石で撮影が行われ、
それぞれにロケ地マップも作成されている。
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私は、特に、白石という町の風景に魅了された。
堀がある“水の町”とのことで、
生物部の活動で裕里と鏡史郎がペアを組み、沢端川で生物を採取するシーン、
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沢端川沿いの武家屋敷前で、裕里が自転車で通りかかった姉・未咲を鏡史郎に紹介するシーンなどに使われており、
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未咲の葬儀が行われた寺の近くにあるという設定の滑津大滝(七ヶ宿町)でのシーンと共に、
眩しいほどにキラキラした水面が、輝ける青春の日々を思い起こさせる。
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携帯電話が普及し、
誰とでもすぐに連絡がとれる時代に、
手紙のやりとりとは、いささか古風だが、
本作『ラストレター』は、
手紙のぬくもり、手紙を書く人の息づかいが感じられる秀作であった。
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名作『Love Letter』の最後で、
少女時代の藤井樹(酒井美紀)に、
少年時代の藤井樹(柏原崇)が本を手渡すシーンがあるが、
(ちなみに二人は同姓同名)
このときの本が、プルーストの『失われた時を求めて』であった。
『Love Letter』もそうだが、
『ラストレター』も、
岩井俊二監督が、失われた時を求めて、辿り着いた世界のような気がした。
人は誰しも、失われた時を求めて彷徨っているものだ。
だからこそ、岩井俊二監督作品に、
ある種の懐かしさ、郷愁を感じるのかもしれない。
映画館で、ぜひぜひ。