一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

華恵……しなやかな感性、伸びやかな文章……

2008年06月21日 | 読書・音楽・美術・その他芸術
アウトドア関係の雑誌は好きでよく読むが、毎号「買って」あるいは「手に入れて」読んでいる雑誌は、そう多くはない。
『BE-PAL』(月刊)、
『Green Walk』(季刊)、
『フィールドライフ』(季刊・無料)、
『山と溪谷』(月刊)、
くらいか――。
雨の降る日は、これら雑誌のバックナンバーの頁をめくっていることが多い。
『BE-PAL』は、号によって当たり外れがあるが、最近の本誌はなかなか良い特集を組んでいる。4月号「バックパッカー」、6月号「屋久島」、7月号「富士山」などは特に読みごたえがあり、何度も読み返した。
『Green Walk』は九州の山を中心に編集されているので、山登りに関しては最も参考になる。この雑誌は創刊号からほぼ揃えている(2号だけがない)ので、これも繰り返し読んでいる。
『フィールドライフ』は、アウトドアのお店で無料でくれる雑誌だ。無料の雑誌でこれほど内容の充実したものも珍しい。これは皆さんもぜひ手に入れて読んで欲しい雑誌だ。
最近はウェブマガジンとしても公開されているので、どうしても雑誌が手に入らない場合は、こちら(←クリック)からどうぞ。
『山と溪谷』は、九州の山はほとんど載らないが、グラビアが美しいので見ているだけで楽しい。「最新登山用具事情」「登山体のつくり方」「夏のキャンプ山行」「低山の深みへ」「山登りの基本」「山のリスクマネジメント」「ひとり歩きの山」など、特集も参考になるものが多く、これもそのつど本棚から引っぱり出して読んでいる。

さて、これからが本題。
昨年の2月のことだ。
『山と溪谷』3月号を手にして、ちょっと驚いた。
表紙が、ザックを担いだ少女の写真だったのだ。


編集後記で編集長が「もしかしたらヤマケイ表紙の長い歴史で初めてかも」と書いているように、女性モデルを大胆に使った表紙は、私もこれまで見たことがなかったし、初めてのことではなかったか。
それだけに、「表紙の少女は一体誰?」と興味を抱いた。
この2007年3月号には、「山に登る女たち」という特集が組まれていて、その特集の中で、表紙の少女も紹介されていた。

華恵(はなえ)
1991年4月28日、アメリカ生まれ。
6歳から日本に住む。
10歳からモデルとして活動。
2002年、第52回全国小・中学校作文コンクール文部科学大臣賞受賞。
著書に『小学生日記』(プレビジョン/角川文庫)、『本を読むわたし』(筑摩書房)。

短いプロフィールには、こう書かれていた。
『小学生日記』という本には覚えがあった。
5年ほど前、小学生が書いた本ということで、かなり話題になったからだ。
その時の作者名は、たしか「hanae*」となっていた筈だ。
*印に何の意味があるのか……いかにも小学生が考えそうなことだと少し馬鹿にした記憶がある。
2000年頃から、島本理生や綿矢りさなど、十代の作家が続々と誕生していた。
出版界に、「とにかく若ければイイ」みたいな風潮があり、『小学生日記』が出た時は、ついに小学生の文章まで商売にするのかと、少々げんなりしたものだ。
当然、『小学生日記』なる本は読まなかった。
どうせ作文に毛が生えた程度のものだろうと判断したからだ。

あの時の小学生は、もう15歳になっていた。
4月からは、高校生になるという。
ペンネームも、hanae*から華恵に変わっていた。
特集の中では、山に登るようになったキッカケなどを語っていた。
「へぇ~、山登りをするのか」と、少し驚いた。
語っている内容で、少女の素直な感性がうかがわれた。
浮ついたところは一切なく、なんとなく好感がもてた。

(『山と溪谷』2007年3月号より)

写真を見ると、どうやらハーフのようだ。
「6歳から日本に住む」とあるから、最初は英語を話していたのかもしれない。
日本語は日本に来てから本格的に勉強したのではないだろうか?
そのハンディキャップを克服して作文コンクールで文部科学大臣賞を受賞したとしたら、これはすごいことだ。
5年前は良い印象はもっていなかったが、この特集記事を読んで、彼女の文章も読んでみたいと思うようになった。
それからしばらくして、彼女のエッセイ「華恵、山に行く。」が、本誌で隔月連載されるようになった。
それを読んで私は驚嘆した。
飾りのない素直な文章で、それでいて読む者を捉えて離さない。
こういう文章は、簡単に書けるようで、実はいちばん難しいのだ。
奇をてらった文体を駆使し、着飾った表現であざとく読者を引っ張っていこうとするライターが多い中で、この素直でしなやかな感性、のびやかな文章は、一陣の風のように感じた。
これはタダモノではない!
私は書店に直行し、角川文庫になっていた『小学生日記』を買い求めた。


そして、読後、おのれの不明を恥じた。
こんな凄い本を見落としていたとは……。
とても小学生が書いたとは思えない。
小学生が書く作文とは、あきらかに異なっている。
もう才能が書いたとしか思えない文章だ。
小学生だった頃の自分を思い出してみる。
勉強はせず、ただ遊び回っていた洟をたらしたガキだった。
比較すること自体が無謀というか、おこがましいが、なんという違い!
でも、こんな文章、大人だって書けやしない。
私はインターネットで検索し、彼女の書いた文章が他にないか調べた。
そして「Webちくま こんにちは、華恵です」(←クリック)というサイトを見つけた。
ここでも彼女の文章が読めるのだ。
第1、第3金曜日に更新されるので、いちばん新しい文章が読める。
もうかなり長く続いていて、昨年の10月には、第1回から第21回までの分が『ひとりの時間 ─My Fifteen Report』という本になった。


現在は、第22回から第49回までの分をWebで読むことができる。
梅雨の長雨で、山に行けない日には、ぜひこのサイトを訪れて、彼女の文章を読んでみて欲しい。(7月頃に新しい本が出版予定と告知してあったので、もうすぐバックナンバーの分が読めなくなるかもしれません。読むなら今がチャンス!)


『山と溪谷』に隔月連載されているエッセイは、2008年7月号で第7回。
こちらは図書館に行った時にでも読んでみて欲しい。
私は今、彼女のエッセイが載っている号が発売されると、「華恵、山に行く。」を真っ先に読む。
正直、今の『山と溪谷』の中に、彼女に勝る文章の書き手はいない。
エッセイも素晴らしいが、彼女はいつか小説も書くかもしれない。
うん、……たぶん書くだろう。

さあ、老後が楽しみになってきたぞ!

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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読みました。 (リー)
2008-06-24 21:01:24
『小学生日記』読みました。
スゴイ才能だと思います。
私の娘にも読ませたいんですが、はたして読んでくれるかどうか?
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お元気でしたか? (タク)
2008-06-24 23:22:34
リーさんへ

お久しぶりです。
お元気でしたか?
お子さんも大きくなられたのでしょうね。
を読むのが何より好きだったリーさん。
いつもあの場所で一人で読んでいた姿が思い出されます。
……今でもたくさん読んでいますか?
『小学生日記』本当に素晴らしい本です。
リーさんのお子さんなら、きっと楽しく読んでくれると思いますよ。
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