剱岳が魅力的なのは、美しくて、しかも危険な山だからだ。
ただ美しい山は、たくさんある。
どの山もそこそこ人気があるだろう。
だが、剱岳のような、心臓を濡れた手でわしづかみにされるような、グッと惹きつけられる魅力はない。
それは危険度が違うからだ。
毎年のように死亡事故が起きているのに、多くの登山者が訪れるのは、誰もがこの山に魅入られているとしか言いようがない。
人間も、ただ美しいだけの人間はすぐに飽きられる。
しかし、美しくて、しかも危険な香りのする謎めいた人物には、どうしようもなく惹きつけられる。
男、女に限らずだ。
美しくて、しかも危険な山……剱岳。
幅の狭い2枚の蒲団に3人が寝るという状況で、寝返りも難しく、あまり眠られずに夜を過ごした。
午前3時15分、起床。
音を立てないようにして部屋を出る。
当初の計画では午前4時に出発することにしていた。
だが、昨夜、ある情報を得て、出発時間を早めることにしたのだ。
この日、剣山荘にも、剱澤小屋にも、富山県警の警察学校の学生が大勢宿泊していた。
研修の一環なのか、全員が剱岳に登るという。
しかも出発は午前4時とのこと。
運動神経は良さそうだが、登山は慣れていないとのことで、たぶん大渋滞になるだろう。
もし、この団体の後ろについたら、大変なことになる。
顔を洗い、必要なものだけサブザックに詰め、ヘッドランプを装着して外に出た。
入念にストレッチを繰り返す。
昨夜は雨が降ったようだが、今は降っていない。
ややガスっているものの、登山に支障はないようだ。
雨や風で停滞しなければならないことも考慮していたので、とにかく登れるだけで有り難い。
この日の富山県の日の出時刻は4時58分。
4時半頃から明るくなるにしても、1時間ほどは真っ暗な登山道をヘッドランプを頼りに歩かなければならない。
剱岳への登山道は、最初からクサリ場が現れ、ザレ場、ガレ場、岩場、急斜面が連続する。
ルート研究してきたとはいえ、暗闇の中の歩くのは不安がある。
最初は、誰かの後について行こうと考える。
3:40 剣山荘を出発。
まだ歩いている人は少なく、中年の夫婦らしい二人組の後ろにつける。
しばらく登ったところで、この二人組はもう休憩をとる。
私も立ち止まったら、「お先にどうぞ」と道を空けられた。
「あ、どうも」と先に進む。
先にヘッドランプの連なり見えるので、その灯りを頼りに歩を進める。
6人ほどの集団の後ろにつけ、しばらく歩くが、その集団もほどなく休憩となり、また道を空けられる。
そんなことを繰り返しているうちに、先頭集団に追いついた。
これより前に行ったらヤバイと思い、すこし距離をとって後を追う。
4:47 ヘッドランプを消していいほど明るくなった頃に、前剱に到着。
ここまで約1時間。
けっこう危険な箇所もあったが、暗かった為にかえって恐怖心もなく通過できた。
後続も次々に前剱に上がってきた。
ここで大休憩。
東の空が明るくなり、もうすぐ日の出のようだ。
5:03 太陽が姿を現す。
美しい御来光だ。
剱岳へ続く尾根が輝く。
5:10 前剱を出発。
約4mの鉄橋を渡り、岩峰にとりつく。
この鉄橋の左下が下山路になっているので、落石しないように注意したい。
(私が下山中、この鉄橋の下を通過した直後、大きな落石があり、肝を冷やした。下から見ると、落石させたのは、鉄橋に乗ろうとした中年女性のようであった)
剱岳の頂が随分近くなってきた。
5:36 7番目鎖場「平蔵の頭」に到着。
下は雪渓で、転落したら、どこまでも滑落していきそうな場所だ。
慎重に下る。
5:47 「カニのたてばい」の真下に到着。
いよいよだ。
第一歩はここから始まる。
気合いを入れて、岩にとりつく。
途中、一箇所、足の置き場に困る箇所があるが、割とスムーズに登っていけた。
「カニのたてばい」は、時間的には5分ほどで通過。
意外と短い。
上から見ると、こんな感じ。
ここまで来ると、もう雲の上だ。
雲海が美しい。
山頂の祠の裏側が見えてきた。
6:13 剱岳山頂に到着。
感動が胸にこみ上げてくる。
これまで登ったどの山よりも感動は大きかった。
山頂には、私より先に登った6名がいた。
20代の若者4名。(剱澤キャンプ場から)
中年の女性1名。(剱澤小屋から)
中年の男性1名。(剱澤小屋から)
若者4名は仲間で、中年男女2名は、途中から若者4名と一緒に登ってきたとのこと。
この剱岳登山では、このように途中で俄パーティができやすい。
(下山では、私もこの仲間に入れてもらった)
登頂直後、ガスがかかり、ブロッケン現象が見られた。
山頂では、お喋りをしたり、行動食を食べたりして、ゆったりとした時間を過ごした。
後続隊も現れ、山頂が次第に賑やかになってきたので、下山することにした。
6:46 剱岳山頂を出発。
結局、この山頂には30分以上いたことになる。
すぐに「カニのよこばい」にさしかかる。
一緒に下山することになった6名。
先頭から4名が、剱澤キャンプ場から来た若者たち(男2名、女2名)。
後ろの2名が、中年の男女。
先頭者が、「カニのよこばい」を覗き込んでいるところ。
この写真の左の崖は、「カニのたてばい」だ。
ガスっているので写真では見えづらいが、もうすでに長い行列ができていた。
そんなことより、「カニのよこばい」に集中しなくては……
手を離すと、真っ逆さまだ。
下から見ると、こんな感じ。
「カニのよこばい」が終わると、長いハシゴがある。
このハシゴに乗り移る時に、バランスを崩さないように気をつけたい。
7:07 平蔵のコルを通過。
平蔵の頭の約20mのクサリの登り。
ここも高度感がある。
13番目の鎖場「前剱の門」。
ここも約20mの急な岩場の登り。
若者グループの中の元気な女の子が先頭で登り始める。
(Vサインをしているのが見えるかな?)
もうひとりの女性(青いシャツの女性)は、お淑やかな感じ。
でも、クサリ場などの難所も、なんのその。
けっこう危険な場所を通過しているのだが、すべてが美しく見える。
もうかなり下ってきた。
振り返る。
本当に、こんな所を登って下ってきたのだろうか?
剣山荘が見えてきた。
剱澤小屋と、若者たちのテントがあるキャンプ場も見えてきた。
もうすぐ、みんなともお別れだ。
8:44 剣山荘に到着。
約5時間で戻ってきた。
前剱で約20分、山頂で約30分休憩したので、実際の歩行時間は4時間ほど。
けっこう早く往復できたことに驚く。
剣山荘で、俄パーティの解散式。
みなさん、ありがとう!
そして、さようなら。
9:15 剣山荘で朝食の弁当を食べた後、出発。
別山乗越へ向かう。
剣山荘が遠ざかっていく。
遠ざかるにつれ、剱岳が見えてきた。
登頂できた喜びと、剱岳を離れる寂しさ。
いろいろなことが走馬燈のように思い出され、心がふるえた。
もう時間を巻き戻すことは出来ないのだ。
10:15 別山乗越に到着。
ここから大日三山縦走が始まる。
【④お花畑と雷鳥の大日三山】につづく。
ただ美しい山は、たくさんある。
どの山もそこそこ人気があるだろう。
だが、剱岳のような、心臓を濡れた手でわしづかみにされるような、グッと惹きつけられる魅力はない。
それは危険度が違うからだ。
毎年のように死亡事故が起きているのに、多くの登山者が訪れるのは、誰もがこの山に魅入られているとしか言いようがない。
人間も、ただ美しいだけの人間はすぐに飽きられる。
しかし、美しくて、しかも危険な香りのする謎めいた人物には、どうしようもなく惹きつけられる。
男、女に限らずだ。
美しくて、しかも危険な山……剱岳。
幅の狭い2枚の蒲団に3人が寝るという状況で、寝返りも難しく、あまり眠られずに夜を過ごした。
午前3時15分、起床。
音を立てないようにして部屋を出る。
当初の計画では午前4時に出発することにしていた。
だが、昨夜、ある情報を得て、出発時間を早めることにしたのだ。
この日、剣山荘にも、剱澤小屋にも、富山県警の警察学校の学生が大勢宿泊していた。
研修の一環なのか、全員が剱岳に登るという。
しかも出発は午前4時とのこと。
運動神経は良さそうだが、登山は慣れていないとのことで、たぶん大渋滞になるだろう。
もし、この団体の後ろについたら、大変なことになる。
顔を洗い、必要なものだけサブザックに詰め、ヘッドランプを装着して外に出た。
入念にストレッチを繰り返す。
昨夜は雨が降ったようだが、今は降っていない。
ややガスっているものの、登山に支障はないようだ。
雨や風で停滞しなければならないことも考慮していたので、とにかく登れるだけで有り難い。
この日の富山県の日の出時刻は4時58分。
4時半頃から明るくなるにしても、1時間ほどは真っ暗な登山道をヘッドランプを頼りに歩かなければならない。
剱岳への登山道は、最初からクサリ場が現れ、ザレ場、ガレ場、岩場、急斜面が連続する。
ルート研究してきたとはいえ、暗闇の中の歩くのは不安がある。
最初は、誰かの後について行こうと考える。
3:40 剣山荘を出発。
まだ歩いている人は少なく、中年の夫婦らしい二人組の後ろにつける。
しばらく登ったところで、この二人組はもう休憩をとる。
私も立ち止まったら、「お先にどうぞ」と道を空けられた。
「あ、どうも」と先に進む。
先にヘッドランプの連なり見えるので、その灯りを頼りに歩を進める。
6人ほどの集団の後ろにつけ、しばらく歩くが、その集団もほどなく休憩となり、また道を空けられる。
そんなことを繰り返しているうちに、先頭集団に追いついた。
これより前に行ったらヤバイと思い、すこし距離をとって後を追う。
4:47 ヘッドランプを消していいほど明るくなった頃に、前剱に到着。
ここまで約1時間。
けっこう危険な箇所もあったが、暗かった為にかえって恐怖心もなく通過できた。
後続も次々に前剱に上がってきた。
ここで大休憩。
東の空が明るくなり、もうすぐ日の出のようだ。
5:03 太陽が姿を現す。
美しい御来光だ。
剱岳へ続く尾根が輝く。
5:10 前剱を出発。
約4mの鉄橋を渡り、岩峰にとりつく。
この鉄橋の左下が下山路になっているので、落石しないように注意したい。
(私が下山中、この鉄橋の下を通過した直後、大きな落石があり、肝を冷やした。下から見ると、落石させたのは、鉄橋に乗ろうとした中年女性のようであった)
剱岳の頂が随分近くなってきた。
5:36 7番目鎖場「平蔵の頭」に到着。
下は雪渓で、転落したら、どこまでも滑落していきそうな場所だ。
慎重に下る。
5:47 「カニのたてばい」の真下に到着。
いよいよだ。
第一歩はここから始まる。
気合いを入れて、岩にとりつく。
途中、一箇所、足の置き場に困る箇所があるが、割とスムーズに登っていけた。
「カニのたてばい」は、時間的には5分ほどで通過。
意外と短い。
上から見ると、こんな感じ。
ここまで来ると、もう雲の上だ。
雲海が美しい。
山頂の祠の裏側が見えてきた。
6:13 剱岳山頂に到着。
感動が胸にこみ上げてくる。
これまで登ったどの山よりも感動は大きかった。
山頂には、私より先に登った6名がいた。
20代の若者4名。(剱澤キャンプ場から)
中年の女性1名。(剱澤小屋から)
中年の男性1名。(剱澤小屋から)
若者4名は仲間で、中年男女2名は、途中から若者4名と一緒に登ってきたとのこと。
この剱岳登山では、このように途中で俄パーティができやすい。
(下山では、私もこの仲間に入れてもらった)
登頂直後、ガスがかかり、ブロッケン現象が見られた。
山頂では、お喋りをしたり、行動食を食べたりして、ゆったりとした時間を過ごした。
後続隊も現れ、山頂が次第に賑やかになってきたので、下山することにした。
6:46 剱岳山頂を出発。
結局、この山頂には30分以上いたことになる。
すぐに「カニのよこばい」にさしかかる。
一緒に下山することになった6名。
先頭から4名が、剱澤キャンプ場から来た若者たち(男2名、女2名)。
後ろの2名が、中年の男女。
先頭者が、「カニのよこばい」を覗き込んでいるところ。
この写真の左の崖は、「カニのたてばい」だ。
ガスっているので写真では見えづらいが、もうすでに長い行列ができていた。
そんなことより、「カニのよこばい」に集中しなくては……
手を離すと、真っ逆さまだ。
下から見ると、こんな感じ。
「カニのよこばい」が終わると、長いハシゴがある。
このハシゴに乗り移る時に、バランスを崩さないように気をつけたい。
7:07 平蔵のコルを通過。
平蔵の頭の約20mのクサリの登り。
ここも高度感がある。
13番目の鎖場「前剱の門」。
ここも約20mの急な岩場の登り。
若者グループの中の元気な女の子が先頭で登り始める。
(Vサインをしているのが見えるかな?)
もうひとりの女性(青いシャツの女性)は、お淑やかな感じ。
でも、クサリ場などの難所も、なんのその。
けっこう危険な場所を通過しているのだが、すべてが美しく見える。
もうかなり下ってきた。
振り返る。
本当に、こんな所を登って下ってきたのだろうか?
剣山荘が見えてきた。
剱澤小屋と、若者たちのテントがあるキャンプ場も見えてきた。
もうすぐ、みんなともお別れだ。
8:44 剣山荘に到着。
約5時間で戻ってきた。
前剱で約20分、山頂で約30分休憩したので、実際の歩行時間は4時間ほど。
けっこう早く往復できたことに驚く。
剣山荘で、俄パーティの解散式。
みなさん、ありがとう!
そして、さようなら。
9:15 剣山荘で朝食の弁当を食べた後、出発。
別山乗越へ向かう。
剣山荘が遠ざかっていく。
遠ざかるにつれ、剱岳が見えてきた。
登頂できた喜びと、剱岳を離れる寂しさ。
いろいろなことが走馬燈のように思い出され、心がふるえた。
もう時間を巻き戻すことは出来ないのだ。
10:15 別山乗越に到着。
ここから大日三山縦走が始まる。
【④お花畑と雷鳥の大日三山】につづく。