一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『味園ユニバース』 ……渋谷すばると二階堂ふみの魅力が炸裂した秀作……

2015年02月20日 | 映画
映画『味園ユニバース』を紹介する前に、
まず、タイトルの、
「味園」とは何か?
「ユニバース」とは何か?
を説明しておいた方がイイだろう。
「味園」とは、
1955年に開業した、
大阪・千日前に現在も実在する「味園(みその)ビル」のことで、


「ユニバース」とは、
そのビルに入っていた老舗の豪華キャバレーの店名。
2011年にキャバレーが営業終了した後は、
「ユニバース」という名のまま貸しホールとなったとか。
若者たちのライブ会場として人気があり、
日本サブカルチャー文化の発信地、
アングラ芸術の発祥地として、
注目スポットとなっているそうだ。


では、レビュー開始。
映画『味園ユニバース』は、
何といっても、山下敦弘監督作品である。


山下敦弘監督といえば、まず、
『リンダ リンダ リンダ』(2005年)
が思い浮かぶが、
もちろんこれも好きな作品ではあるのだが、
私としては、やはり
『天然コケッコー』(2007年)
が大好きな作品なので、
『天然コケッコー』(←クリック)の監督というイメージが強い。
私の敬愛する川本三郎氏(←クリック)も、
好きな監督として山下敦弘監督を挙げており、
川本三郎原作で2011年に公開された山下敦弘監督作品の
『マイ・バック・ページ』(←クリック)
も忘れがたい作品として記憶に残っている。
映画『味園ユニバース』は、
その山下敦弘監督の新作(2月14日公開)ということで、
見たかった作品だったのだ。


大阪。
広場で行われていたバンド【赤犬】のライブに、
ふらふらと現れた男(渋谷すばる)が、
マイクを奪い、突然、和田アキ子の名曲『古い日記』を歌い出す。
声を放つや、その圧巻の歌声に、会場は水をうったように静まりかえる。
だが、男は、そのまま気を失って倒れる。
思わず駆け寄る【赤犬】マネージャーのカスミ(二階堂ふみ)。
男は目を覚ますと、自分のことを何も覚えていないという。
カスミの友人である女医のマキコ(鈴木紗理奈)に男を診てもらうと、
「記憶喪失ではないか?」
との診断。
傷だらけの顔も記憶喪失に関係があるのかもしれない。
男の正体と歌声に興味を持ったカスミ(二階堂ふみ)は、
彼を“ポチ男”と名付け、


祖父と暮らす自分の家に住まわせながら、
バンドのボーカルに迎えようとする。
が、ポチ男の記憶がフラッシュバックで蘇るようになり……



いや~、面白かったです。
「関ジャニ∞」の渋谷すばるが、
これほど歌が上手いとは……
1974年に発売された和田アキ子の『古い日記』が、
渋谷すばるの歌唱によって、
あらためて名曲であったと再認識させられた。


歌うこと以外全ての記憶を失った男という役であったが、
演技の方も素晴らしかった。
ジャニーズ系の、のっぺりとした顔を見慣れているので、
渋谷すばるの面構えには、
ちょっと驚かされた。
渋谷すばるを私が初めて認知したのは、
1999年、二宮和也(後に嵐としてデビュー)とダブル主演した、
連続テレビドラマ『あぶない放課後』においてであったが、
私が「しぶや・すばる」というと、
当時、中学生で、二宮和也のファンであった私の娘(次女)から、
「しぶたに、だよ」と訂正された記憶がある。
当時のアイドル然とした顔立ちから一変、
とてもジャニーズ系とは思えない(褒め言葉)面構えに、
男優としての、ソロ歌手としての、
限りない可能性を感じた。


【赤犬】マネージャーのカスミを演じた二階堂ふみも良かった。
二階堂ふみといえば、(タイトルをクリックするとレビューが読めます)
『ヒミズ』(2012年)に始まって、
『脳男』(2013年)、
『四十九日のレシピ』(2013年)、
『私の男』(2014年)、
『渇き。』(2014年)など、
ここ数年、私が高く評価している作品に数多く出演しており、
実力派・演技派女優としての評価がすっかり固まってしまった感があるが、
本作『味園ユニバース』でも、実力通りの魅せる演技で、
渋谷すばるを引き立てつつ、彼との演技バトルを繰り広げている。


蛇足であるが、
二階堂ふみだけでなく、
満島ひかり、仲間由紀恵、新垣結衣、黒木メイサ、国仲涼子、比嘉愛未など、
沖縄県出身の女優には魅力的な女優が多いなあ~


渋谷すばる、二階堂ふみと共に、
強く印象に残ったのは、女医のマキコを演じた鈴木紗理奈だ。
『めちゃ×2イケてるッ!』など、
バラエティ番組ばかり出ている「へたれ」タレントのイメージがあったが、
本作『味園ユニバース』では、実に好い演技をしていたし、好い味を出していた。
今後は、もっと映画にも出演してもらいたいと思った。


タイトルの『味園ユニバース』は、
実在のビルと貸しホールの店名であることを始めに述べたが、
この映画に出てくるバンド【赤犬】も、
実は、大阪を拠点とするバンドだ。


1993年に大阪芸術大学の音楽系学科の学生を中心に大阪で結成され、
2009年にボーカル和歌頭アキラが脱退し、活動休止。
だが、2010年に新ボーカル タカ・タカアキを迎え、
音楽性方向性を大きく変えて再始動。
映画の舞台となる「味園ビル・ユニバース」を中心に活動している。


この【赤犬】のメンバーは、
山下敦弘監督の大阪芸術大学時代の先輩とのことで、
この映画の発端を、山下監督は次のように語っている。

大阪に住んでいた頃、近所の新世界にゲートというスタジオがあって、そこへ行くと、いつも練習をせずに遊んでいた人たちがいたんです。どう説明したらいいかわからない不思議な存在ですし、そういう飛び道具みたいな案が通るかわかりませんでしたけど、渋谷君に赤犬を組ませたら面白いだろうなという確信はありました。

渋谷すばると【赤犬】を組ませるというアイデアが見事にハマり、
大阪ならではの独特の熱気のある雰囲気を創り出し、
この作品を秀作へと導いている。
浪花人情下町ロック、
あなたもぜひ映画館で体感を!

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