人気ミステリー作家・米澤穂信デビュー作『氷菓』の実写映画化である。
『氷菓』は、
文化系部活動が活発なことで有名な進学校・神山高校で、
「古典部」という廃部寸前の部活に入部した男女4人が、
学校生活に隠された謎に挑むミステリーで、
《古典部シリーズ》として、
『氷菓』(2001年10月31日 角川スニーカー文庫のち角川文庫)
の他、
『愚者のエンドロール』(2002年7月31日 角川スニーカー文庫のち角川文庫)
『クドリャフカの順番』(2005年6月30日 角川書店、2008年5月24日 角川文庫)
『遠まわりする雛』(2007年10月3日 角川書店、2010年7月24日 角川文庫)
『ふたりの距離の概算』(2010年6月25日 角川書店、2012年6月22日 角川文庫)
『いまさら翼といわれても』(2016年11月30日 角川書店)
がすでに刊行されている。
シリーズ累計230万部を突破しており、
メディアミックスもされ、
コミックスは累計90万部、
アニメはBD&DVDも累計19万枚を突破している。
小説、コミック、アニメと、
それぞれにファンの多い『氷菓』を実写映画化するとなれば、
当然のことながら、実写映画に対するファンの目は厳しくなる。
少しでも自分のイメージに合わないと、猛烈な批判を始める。
11月3日に公開されたばかりの映画であるが、
各映画サイトのユーザーレビューでは、
やはり、あまり良い採点はもらえていないようだ。
低評価を目にすれば、その映画を見るのは止めようと思いがちだが、
普通ではない私の場合は違う。(笑)
〈見てみたい〉
と思ってしまう。
広瀬すずの姉・広瀬アリスや、
私の好きな斉藤由貴も出演しているので、
逢えるのを楽しみに映画館へ駆けつけたのだった。
「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」
をモットーとする“省エネ主義”の高校一年・折木奉太郎(山崎賢人)は、
姉の指示で廃部寸前の古典部に入部する。
そこに“一身上の都合”で入部してきた美少女・千反田える(広瀬アリス)。
一見、清楚なお嬢さまだが、その正体は……
「わたし、気になります!」
となると誰にもとめられない、好奇心のかたまりのような少女だった。
さらに折木と中学校時代から付き合いがある福部里志(岡山天音)と、
伊原摩耶花(小島藤子)も入部してきて、
古典部の部員は4人になる。
えるの好奇心に巻き込まれ、
奉太郎は眠っていた推理力を発揮し、学園に潜む謎を次々と解き明かしていく。
その能力に驚嘆したえるは、
ある日、奉太郎にある依頼をする。
「10年前に失踪した伯父が残した言葉を思い出させてほしい」と。
……それは33年前に起きたある事件と繋がっていた。
折木奉太郎、千反田える、福部里志、伊原摩耶花の4人は、
33年前に発行された古典部文集『氷菓』と、
歴史ある学園祭に秘められた真実を解き明かすべく、
その謎に挑んでいくのだった……
古典部に所属している4人が力を合わせて33年前の事件の真相を暴くミステリーで、
人気のある山崎賢人と広瀬アリスが主演の映画にしては、
派手さのない、静かで、比較的地味な作品であった。
私にとっては、とても好感の持てる作品であった。
原作が、
第5回角川学園小説大賞内で新設されたヤングミステリー&ホラー部門で奨励賞を受賞し、
角川スニーカー文庫として刊行されたものだということもあるが、
謎解きもそれほど難解ではなく、
後味も悪くない。
少し気になった点は、
時代感がいまひとつ実感できなかったこと。
33年前の事件は、1967年(昭和42年)に起こっている。
ということは、
折木奉太郎や千反田えるのいる現代の方は、2000年ということになる。
携帯電話やパソコンも既にあった筈だが、まったく登場しないし、
図書館の貸し出しカードも、
日付のゴム印を押し、借りた人の名前を書き込む昔形式のものだった。
2000年当時、学校の図書館では、まだあの形式の貸し出しカードを使っていたのだろうか?
そこが謎解きの重要なカギになっていたので気になったのだが、
それを除外すれば、大いに楽しめる内容だった。
若者向けの作品ではあるが、
現代(2000年)と33年前(1967年)とが同時進行のような感じで描かれているので、
中高年世代の人が見ても、楽しめる作品になっている。
いや、むしろ(学生運動が盛んな時代を経てきた)中高年世代の人の方が、
若者たちよりも共感できる内容であるかもしれない。
タイトルの『氷菓』は、
読んで字のごとく、氷菓子のことで、
牛乳・果汁・卵・砂糖などを氷結させた菓子のことである。
多くは、アイスクリームのことを指す。
誰しも、小説の(映画も)タイトルが、なぜ『氷菓』なのか……
と思うであろうが、
33年前に発行された古典部文集の名が『氷菓』で、
この古風とも言えるタイトルの意味が、
最後の最後に、明かされる。
『氷菓』という題で思い出すのは、
室生犀星の「氷菓《アイスクリイム》」という詩だ。
「氷菓《アイスクリイム》」
ゆうぐれ、うすきうれひに
氷菓《アイスクリイム》をすすりてあれば
すこし冷たくなりにけり。
ましろの百合と
しろがねの時計の鳴るところ
はや秋は目をかがやかす。
この室生犀星の詩がなんらかの形で作品に関わってくるのかと思ったが、
残念ながらそんなことはなくて、(笑)
映画にも、もう少し「文学の香り」があればもっと良かったのに……と思った。
折木奉太郎を演じた山崎賢人。
コミックやアニメの実写映画に出まくっている感じで、
今年(2017年)だけでも、
『一週間フレンズ。』(2017年2月18日公開)
『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(2017年8月4日公開)
『斉木楠雄のΨ難』(2017年10月21日公開)
に主演しており、やや出過ぎの感がある。
1994年9月7日生まれの23歳(2017年11月現在)なので、
もうそろそろ大人の役に挑戦しても良いのではないだろうか?
人気俳優だし、爽やかさがあるので、物語を壊してはいないが、
高校一年生の役(『氷菓』の場合)は、さすがに無理があったように感じた。
千反田えるを演じた広瀬アリス。
彼女を映画で初めて見たのは、
『銀の匙 Silver Spoon』(2014年3月7日、東宝)
においてだった。
そのときはまだ10代であったが、
1994年12月11日生まれなので、今は22歳。(2017年11月現在)
山崎賢人と同じく、高校一年生の役をやるにはやや無理があった。
しかし、この『氷菓』では、何度も彼女の顔がアップで映し出され、
その(大人の色気を感じさせる)美しい顔を見ているうちに、
「まあいいか」と思ってしまった。(コラコラ)
『先生!、、、好きになってもいいですか?』(2017年10月28日公開)で、
妹の広瀬すずを見たばかりということもあってか、
広瀬アリスの顔がアップになったとき、
〈口元の辺りは広瀬すずとソックリだな〉
と思った。
今後もずっと姉妹で活躍してもらいたい。
伊原摩耶花を演じた小島藤子。
1993年12月16日生まれの23歳(2017年11月現在)だが、
彼女の場合は、それほどの違和感はなかった。
W主演の山崎賢人と広瀬アリスの陰に隠れてはいるが、
そのツンデレ気味の独特の存在感で、見る者を魅了した。
TVドラマには数多く出演しているが、映画の出演はそれほど多くないので、
これからは映画の出演をもっと増やしてもらいと思った。
福部里志を演じた岡山天音。
ここ数年、
『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年5月21日公開)
『セトウツミ』(2016年7月2日公開)
『帝一の國』(2017年4月29日公開)
などの映画に出演しているし、
フジテレビ系のバラエティ番組『痛快TV スカッとジャパン』でも時々見かける。
4人の中では一番の老け顔なので、
1994年6月17日生まれなので、まだ23歳(2017年11月現在)なのだが、
「こんな顔の高校一年生はいないよな」と思ってしまった。(スミマセン)
ただ、4人の中では、唯一物語を盛り上げる役なので、
かなり奮闘していたと思う。
図書館の書教諭・糸魚川養子を演じた斉藤由貴。
彼女が事件のカギを握っており、
映画の後半は特にその存在感が増し、
謎めいた書教諭を好演していたのだが、
スキャンダル後ということもあってか、
かなり重要な役であるにもかかわらず、
映画の公式サイトでも、各種キャンペーンでも、扱いが小さいと感じた。
スキャンダル発覚後は、NHK大河ドラマやCMの降板が相次いでいるが、
女優としての魅力は、若い頃よりも今の方があるし、
バッシングに負けないで今後も頑張ってもらいたいと思った。
本作『氷菓』は、
その古風とも言える作風から、
「中高年世代こそが共感でき、楽しめる映画」と書いたが、
この映画にはもうひとつ楽しみがある。
それは、舞台となっている飛騨高山の風景だ。
町の何気ない風景が、旅情をそそる。
コミック、アニメの『氷菓』ファンの間では、
すでに飛騨高山は聖地となっており、
ロケ地マップを片手にロケ地巡りをしている人も多いと聞く。
みなさんも、ぜひぜひ。