不思議な作品だ。これなら、ミステリーと読んでも良いような
気がする。
戦時中、若い整備兵は、ある男の依頼で落下傘を、しばらく
拝借する。それを隠そうと、今度は、軍用飛行機を爆破し、
脱走することになる。
捕まれば死刑である。
そして、何十年がたち、逃亡した整備兵は、自分のしたこと
が、作り話でないことを証明すべく、当時の上官に会う。
いったい全体、この物語は、何のために書かれたものかと
考えてしまう。
この小説自体は、すごく面白い。今まで読んだ吉村氏の作品
の中でも傑作と言えるかも知れない。
読売文学賞をとった「破獄」より、ずっと先に書かれているのに、
逃亡シーンは、超えているのではないかとさえ思う。
しかし、ふと気がつくと、終わっていて、何も、謎は解かれていない
ことに気がつく。余韻と深い謎を残して...
あえていえば、人間の弱さ、苦悩などを描いているのかも知れない。
戦争中の戦場ではない一般社会もまた、戦場と同じくらい
異常な世界であり、人間は、恐怖や希望の中で、逃げるという行為に
走らざるおえなかったのかも知れない。
過酷な世界で、逃げるという行為が、人間としての生きる唯一つの
すべなのかも知れない。
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