最新刊の「中国の論理 歴史から解き明かす」(岡本隆司著 中公新書)を読む。
筆者の「あとがき」によれば、「世はただいま”嫌中”一色。中国の悪口を書かないと売れない」「中国本はそれなりに売れても、中国学を尊重する人びとは減少の一途」だという。「筆者だって、中国・中国人が好きか、嫌いか、と聞かれれば、嫌いだ、と答えるだろう。しかしおもしろいか、つまらないかと聞かれれば、答えは断然、前者である。」と。
中国に関する入門書は、これまで数え切れないほど書かれてきた。「日中友好」が全盛の頃には、主に「新中国」にスポットを当て、中国共産党の歴史観を肯定的に描く本が多数だったが、今や「伝統中国」の「構造」を分析する本書のような本が主流になった。
その本書の内容は、次のとおり。
1 史学
① 儒教とは何か
② 史学の起源
③ 史学の枠組み
④ 史書のスタイル
2 社会と政治
① エリートの枠組
② 貴族制
③ 科挙体制
3 世界観と世界秩序
① 「天下」という世界
② 「東アジア世界」の形成
③ 「華夷一家」の名実
4 近代の到来
① 「西洋の衝撃」と中国の反応
② 変革の胎動
③ 梁啓超
5 「革命」の世紀
① あとをつぐもの
② 毛沢東
③ 「改革開放」の歴史的位置
注目すべきは、梁啓超を採りあげて、日本が中国の近代化に与えた多大な影響を明記していること。今どきの類書では普通なのかも知れないが、往年の入門書はこの点については曖昧に書かれていた。つまり、左翼系の学者にとっては、「新中国」こそが日本より進んだ「心の祖国」であって、その近代化が日本の影響下にあったとは言いたくなかったのだろう。例外的に、岡田英弘氏はつとにこのことを指摘していたが、左翼主流の歴史学界では、異端視されてきた。
「一つの中国」という強迫観念の由来、華夷秩序の構造など、中国という国家の論理を理解するための基本情報はすべて盛り込まれている。