GITANESの煙で退散してくれないか。
それとは無関係に・・・。
玄関の引き戸がガラガラと開いた。
ん?誰か来た。多分身内だろう。
「ごめんください。こんちはあ。」
ごめんくださいということは、身内ではない。
どうしてインターフォンを鳴らさないのか。
「はい?」
「ごめんください」
見たこともない男(60代後半だろうか)が玄関に立っていた。
「どちらさま?」
「南地区に住んでる者なんですけど」
「はい?どういうご用件で?」
ズケズケと入ってきた割には、完全に腰が引けてるじゃないか。
言っておくが、真っ黒のイデタチも淡いサングラスもこっちにとっては
普通のことだ。
どうして客のそっちの姿勢が逃げ気味なのだ。
「お宅はあの道路工事とは関係ないの?」
「は?」
「いやあの、道路工事ね。あの工事の予定ね。知っているでしょ?」
「はあ。で、誰?」
「南地区に住んでる者ですけど」
どうもこの男は、姓名を名乗る気がないらしい。
そういう人間にまともに応対できる訳がないのに。
逃げ腰の割には図々しい。
「道路工事のねえ、話をね。」
「あのね、誰か知らんけど。」
「はい?」
「何も言わんよ。」
「え?」
「いきなり玄関から入ってきて、名前も名乗らんで
訊きたいことだけ訊かれてもな。」
「はあ。」
「分からんか?何も話することはないから帰った方がええで。」
「はあ、そりゃあすんません。」
「で、あなた誰?」
「南地区に住んでる者です」
「南地区にはあんたしか住んでないのかい?」
「いやあ、これで失礼します」
「今度いらっしゃるときは、インターフォン鳴らしてね」
「あ、インターフォンあるんですか?」
「あなたが通ってきた通路には、インターフォン『しか』ないでしょうに。」
「ああ、そうでしたかなあ」
「今度名前を名乗らずにいきなり入ってきたら、」
「はい?」
「排除するよ。」
「いやあ、これで失礼します」
臨戦態勢のケンタロウ(犬)をなだめつつ、男の後姿を見送った。
彼はもう来ることもないだろう。
で、一体誰やねん。
| Trackback ( 0 )
|