GITANESは臭い
という事実を一所懸命に広める活動の
私は第一人者である。
それとは無関係に・・・。
オフィスがあまりにも静かすぎて困っている。
電話を使用したら、部屋中の人間に注目されている
ような気がして、真面目なビジネスの電話でも会話を
憚られるような、それほど静かなオフィスである。
カッコーーンと鹿威しが聞こえてきてもしっくりくるような
雰囲気である。
鳥の羽が床に落ちた音が聞こえてきそうなほど静かである。
この静寂を破ってはいけないのだ、と思い込むほど全員が
静かであることに協力しているかのようだ。
だから私など外線が入ったりすると一旦保留にして
となりの会議室へ移動してから通話を再開するように
している。
昨日は関西電力の人と電話で話した。
ある場所の契約廃止の手続きのためこちらから電話した。
ガイダンスに従っていくつか番号ボタンを押し、
ちょっと尋ねたいこともあったので「オペレーターと話す」
希望のボタンを押す。
移動先である会議室も静かだが、これは人が誰もいないのだから
当たり前だ。
ただ、必要なときしか使われない部屋だから、今の時期は
猛烈に暑い。いろんなものが自然発火する直前のような
気配すらある。暑い。電話中に死ぬわけにもいかないから
すぐにエアコンのスイッチを入れる。
なかなか強力なエアコンはすぐに効き始めるだろう。
少々稼働音がうるさいが、死ぬよりはマシだ。
関西電力の女性オペレーターNさんは丁寧な人だった。
しかし、絶望的なほど声が小っちゃかった。
ほとんど聞き取れない。
隣室のオフィスなら鳥の羽が落ちる音でも聞こえるから
問題ないだろうが、強力なエアコンの強力が音が鳴り響く
会議室ではNさんの声は聞き取ることができない。
仕方なくエアコンをオフにする。
暑い。もう、会話の内容などどうでもよくなるほど暑い。
長い長いお客様番号を伝えている間に身体の水分はかなり
減った。
「復唱いたします」
いや、しなくていいのに。死ぬのに。
結局、Nさんでは即答できない質問をしてしまったようで
一旦通話を切ることになった。
こちらで少し調べ物をしてから、再度電話することにした。
不明な点を潰してから電話すれば、Nさんにも通じやすく
なるだろう。
Nさんに繋がるだろうか。ガイダンス中に倒れる訳には
いかないから、エアコンスイッチオン。
繋がったのはNさんではなかった。
今度は男性でしっかりと聞き取れる声量の持ち主Sさん。
なのにそれでも声が聞き取りにくかった。
これはもうNさんのせいでもSさんのせいでもない。
エアコンの稼働音が大きすぎるのだ。
スイッチオフ。
Sさんの声は弾むような、テンポの良い、少々勿体ぶった
結構芝居がかった声だった。
もう調子がどうだろうと構わない。エアコンが使えるなら
それ以外のことはどうでもいいのに、Sさんはそんなことと
関わりなく、いい声だった。
弾むようなテンポの良い勿体ぶった芝居がかったコントのような
Sさんは、きっと電話の向こうで「社交ダンスをする男性が
着るような、サテンでキラキラで袖がボヨンと風船チックに
膨らんだシャツを着ているに違いない」と想像した。
髪型はもちろんピッチリ固定された横分けだ。
場合によってはバラの花を一輪、口にくわえているかも
知れない。
などと妄想したのはもう、私が半ば意識を飛ばしていた
せいだったのかも知れない。
幸いSさんのテキパキした処理で、会話は無事に終わった。
その上私は、1.5キロほど減量できたはずである。