都月満夫の絵手紙ひろば💖一語一絵💖
都月満夫の短編小説集
「出雲の神様の縁結び」
「ケンちゃんが惚れた女」
「惚れた女が死んだ夜」
「羆撃ち(くまうち)・私の爺さんの話」
「郭公の家」
「クラスメイト」
「白い女」
「逢縁機縁」
「人殺し」
「春の大雪」
「人魚を食った女」
「叫夢 -SCREAM-」
「ヤメ検弁護士」
「十八年目の恋」
「特別失踪者殺人事件」(退屈刑事2)
「ママは外国人」
「タクシーで…」(ドーナツ屋3)
「寿司屋で…」(ドーナツ屋2)
「退屈刑事(たいくつでか)」
「愛が牙を剥く」
「恋愛詐欺師」
「ドーナツ屋で…」>
「桜の木」
「潤子のパンツ」
「出産請負会社」
「闇の中」
「桜・咲爛(さくら・さくらん)」
「しあわせと云う名の猫」
「蜃気楼の時計」
「鰯雲が流れる午後」
「イヴが微笑んだ日」
「桜の花が咲いた夜」
「紅葉のように燃えた夜」
「草原の対決」【児童】
「おとうさんのただいま」【児童】
「七夕・隣の客」(第一部)
「七夕・隣の客」(第二部)
「桜の花が散った夜」
漢字のルーツは中国であることは誰でも知っています。
しかし、漢字の意味は必ずしも一緒ではありません。
中国語 |
意味 |
日本語の意味に当たる中国語 |
備考 |
愛人 |
妻または夫 |
情人 |
日本語でも情婦、情夫といいます。 |
老婆 |
妻 |
媼 |
年齢は関係ない |
丈夫 |
主人、旦那様 |
強 |
大丈夫は亭主関白 |
娘 |
母親 |
女兒 |
|
手紙 |
トイレットペーパー |
信 |
|
汽車 |
自動車 |
火車 |
|
挨拶 |
拷問 |
歡迎 |
|
走 |
歩く |
漫步 |
|
湯 |
スープ |
熱水 |
風呂の男湯、女湯に驚く |
床 |
ベッド |
地板 |
病院のベッドを病床というのはこの意味。 |
女優 |
AV女優 |
女演員 |
|
先生 |
~さん |
老師 |
|
大家 |
皆さん |
房東 |
「大家好」は「みなさんこんにちは」に意味です。 |
どうですか? これでは、うっかり筆談もできません。
挨拶が拷問、男湯、女湯は男スープ、女スープとは驚きです
したっけ。
【かってにせんでん部】
minimarche
ハーブティーは下記のお店「雑貨(Tkuru&Nagomu)で取り扱っています
雑貨(Tukuru ・nagomu) 0155-67-5988
可愛い雑貨も、たくさんありますよ。
Cafe & Bsr Noix(ノワ) 0155-67-5955
落ち着いた雰囲気で、ゆっくり食事ができます.
080-0018 帯広市西8条南6丁目7番地
http://www.d-kyoya.com/minimarche/
☆ノワ 今月のランチプレート☆ 9月に入りぐっと秋らしくなりましたね~。 今月はカボチャ饅頭やナスの南蛮味噌和えなど、旬の野菜にシェフが手をかけ、和風テイストに変身! 数に限りがございますので、お電話などでの事前の予約がおすすめです。
|
080-0018 帯広市西8条南6丁目7 ☎0155-22-2151
↑:友人がオーナーの店です
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みなさんは経験がなくても、一度は複雑骨折という言葉を聞いたことがあると思います。
複雑骨折と聞いてどういう状態を想像しますか?
複雑に折れているから複雑骨折? ですよね。
骨が粉々になってしまったものに決まっているじゃないかと思うと思います。
ところが「骨がバラバラに折れた」「骨が砕けた」「骨が潰れた」・・・。
これらは全部複雑骨折ではありません。
正しい複雑骨折の定義は「折れた骨の一部が皮膚を突き破り外に飛び出してしまったもの」を言います。
ふくざつ‐こっせつ【複雑骨折】 骨が折れるとともに周囲の軟部組織が損傷され、皮膚に傷口が開いた状態の骨折。開放骨折。 デジタル大辞泉の解説 |
たとえ飛び出した骨が、針の先端ほどだったとしても、それにより細菌感染の可能性が出来てしまいます。
もし骨が細菌に侵されてしまうと、骨が腐ったり、最悪の場合細菌が全身にばら撒かれて命の危機にさらされたりする事もあります。
だから、それを防ぐため、患部を切開して抗生物質などで洗浄したり、細菌感染防止策をしたりする必要があり、とりあえず折れた骨を整復して固定すれば良いというわけにはいかなくなります。
つまり複雑骨折とは、「治療が複雑になる骨折」という意味です。
ちなみに一本の骨がバラバラに折れたものを「骨片骨折」、骨が砕けてものを「粉砕骨折」、骨が潰れたものを「圧迫骨折」と表現します。
いずれにしても、こんな経験はしたくはありません。
したっけ。
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どうでもいい、数字の話。
■「1」のピラミッド
1×1=1
11×11=121
111×111=12321
1111×1111=1234321
11111×11111=123454321
111111×111111=12345654321
1111111×1111111=1234567654321
11111111×11111111=123456784654321
111111111×111111111=12345678984654321
1の掛け算の答えは桁数数まで行って戻る。
■「1」のピラミッドその2
1×9+2=11
12×9+3=111
123×9+4=1111
1234×9+5=11111
12345×9+6=111111
123456×9+7=1111111
1234567×9+8=11111111
12345678×9+9=111111111
123456789×9+10=1111111111
連続した数字に9を掛けて2から順に足していくと1が並びます。
以上、どうでもいい数字の話でした。
したっけ。
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また、師匠から絵手紙が来ました。
市民大学講座で神田日勝の勉強をしてきたそうです。
よく色々なところに顔を出す師匠です。足まめなんです。私は出不精ですよ。
神田日勝 かんだ-にっしょう 1937-1970 昭和時代後期の洋画家。 昭和12年12月8日生まれ。終戦直前に開拓農家として一家で北海道鹿追村に入植する。独学で油絵をまなび,昭和35年全道展に入選。以後,十勝の風土に根ざした作品を発表した。昭和45年8月25日死去。32歳。東京出身。作品に「死馬」「牛」など。 デジタル版 日本人名大辞典+Plusの解説 |
前回の類葉牡丹(るいようぼたん)が植物図鑑で調べても分からないと書いてきました。
あれ! 私、名前を書き忘れたのかな・・・。類葉牡丹ですよ。
師匠、今回は「蝮草(まむしぐさ)」の実を描いてきました。
師匠! 今回は野草の実ですね。
雨が降っていて出かけられないので、自宅前の川ぶちに生えている「現の証拠(げんのしょうこ)」の実を描きます。
これは種が爆ぜた後のサヤの形が神輿の屋根の形に似ていることから「神輿草」とも呼ばれます。
↑彼が私にくれた絵手紙
私が彼に送った絵手紙↓
したっけ。
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どうでもいい、数字の話。
同じ桁数の9で割ると...
2÷9=0.222…
11÷99=0.111111…
12÷99=0.121212…
21÷99=0.21212121…
55÷99=0.555555…
789÷999=0.789789789…
1234÷9999=0.12341234…
23456÷99999=0.2345623456…
873937÷999999=0.873937873937…
割られた数が繰り返されます。
以上、どうでもいい数字の話でした。
したっけ。
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どうでもいい、数字の話。
奇数を足した答えは平方数になる。
へいほう‐すう〔ヘイハウ‐〕【平方数】 デジタル大辞泉の解説 |
1 = 1×1
1 + 3 = 4 = 2×2
1 + 3 + 5 = 9 = 3×3
1 + 3 + 5 + 7 = 16 = 4×4
1 + 3 + 5 + 7 + 9 = 25 = 5×5
1 + 3 + 5 + 7 + 9 + 11 = 36 = 6×6
1 + 3 + 5 + 7 + 9 + 11 + 13 = 49 = 7×7
1 + 3 + 5 + 7 + 9 + 11 + 13 + 15=64=8×8
1 + 3 + 5 + 7 + 9 + 11 + 13 + 15+ 17=81=9×9
1 + 3 + 5 + 7 + 9 + 11 + 13 + 15+ 17+ 19=100=10×10
1 + 3 + 5 + 7 + 9 + 11 + 13 + 15+ 17+ 19+ 21=121=11×11
1 + 3 + 5 + 7 + 9 + 11 + 13 + 15+ 17+ 19+ 21+ 23=144=12×12
・・・・続く
どうでもいい数の話でした。
したっけ。
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O9月15日(金) 11:00~ 『天然石ブレスレット』 材料費:1500円程度~(お選びになる石によって金額が変わってきます。) どちらも前日までのご予約となっています。
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オリンパス |
また、師匠から絵手紙が来ました。
9月6日に帯広市広野小学校で児童24人と野菜を中心に講習をしてきたそうです。
その帰り道で、道路わきの蝦夷鳥兜(えぞとりかぶと)を見つけ採ってきたそうです。
この野草は全草に猛毒があり、その毒は羆をも倒すといわれます。
師匠! そんなものに触っちゃダメですよ。
師匠、今回は野草ですね。
今頃咲いている野草は近所にはないので、緑ヶ丘の野草園まで自転車で行きました。そして花ではありませんが見つけました。
類葉牡丹(るいようぼたん)の実です。これは、花は地味ですが葉が牡丹に似ていることから、この名が付きました。
↑彼が私にくれた絵手紙
私が彼に送った絵手紙↓
葉が少し枯れかかっていました。野草園の花は持って帰れないので、写真を撮ってきました。
都月満夫
アタシは酒場の聞き女。ビルの谷間の人情小路。小さな酒場のママだけど、どんな話も聞いてやる。聞いて笑って泣いてやる。
七月末の暑い日だった。いつものようにお店に出勤。小路へ入って、ふと見ると、男が一人座ってる。お店の前に座ってる。ドアを背にして座ってる。肩を震わせ座ってる。
「おや、嫌だね。誰だろう?」
アタシは近づき覗き込む。
「あ~ら、ユーさん、柚木さん。こんなところでどうしたの?」
男は馴染みのお客さん。柚木満夫というお方。几帳面な経理マン。
「ああ、ママさん、悪かった。驚かして悪かった。朝からこうして座ってた。どうしていいかわからない」
「朝からここにいたのかい? ご飯も食べずにいたのかい?」
「そうだよ、ママさん情けない。飯も食えない、食ってない」
「何があったか知らないが、まあ、とりあえずお入りよ。今、鍵を開けるから…」
アタシは荷物を下に置き、鍵を差し込みドアを開け、男を中へと導いた。
「とにかく、どこかにお座りよ」
ユーさんは黙って、いつもの席につく。カウンターの端の椅子。そこはいつもの指定席。
アタシは奥へと荷物を運び、荷物を置いて声かける。大きな声で声かける。
「開店前の仕込みはあるが、とにかく話は聞いたげる。何があったと言うんだい?」
言いながら、水にぬらしてタオルを絞り、絞ったタオルを差し出した。
「その前に、とにかく汗をお拭きなさい」
ユーさんは額の汗をタオルで拭い、顔から首へと汗を拭く。汗と一緒に涙も拭う。ユーさんは唇噛んで泣いている。肩を振るわせ泣いている。声は出さずに泣いている。
「どんなことがあったのか、とにかく話してごらんなさい。アタシにゃなんにもできないが、聞くことだけはできるから…。話せば、少しは楽になる。アタシは仕込みをしてるから、その気になったら、お話よ」
ユーさんは、少しは気持ちも落ち着いて、肩の振るえも治まった。ぐっと拳を握り閉め、握った拳を見つめてた。
アタシは奥から顔を出し、おにぎり二個を差し出した。
「これはアタシの夕ご飯。食べておくれよ、ねえユーさん。朝からここにいたのなら、さぞかしお腹も空いたろう。アタシは何か食べるから、とにかくお食べよ、お食べなさい。少しは元気が出るかもよ」
ユーさんは黙ってコクリと頷いて、握り飯を手に取って、一口齧って呑み込んだ。
「旨い、旨いよ。ありがとう」
「そうかい、良かった。お食べなさい」
ユーさんは、少し元気を取り戻し、おにぎり一個を平らげた。そうして、ふうーっと長い息。腹の底から吐き出した。
「忙しいのに、ねえママさん。ビールを一本くれないか…」
「あああ、ごめんよ。気が利かず」
泡が溢れるコップ酒。ユーさんは一気にビールを飲み干して、カウンターに空コップ。
「さあさあ一杯、もう一杯」
アタシはビールを注ぎました。
ユーさんの両目に溢れる真珠の涙。頬を一筋流れる涙。流した涙はコップに落ちて泡となって砕け散る。
六十過ぎた男の涙。どんなに辛いことなのか? アタシは黙って見つめるだけで、ユーさんも、黙ってコップを握るだけ。
「惚れた女が死んだのさ」
ユーさんは、ボソッと呟いた。
アタシは仕込みの手を止めて、エプロン摘まんで手を拭いた。
「惚れた女と言ったのかい? 惚れた女がいたなんて、あんたとアタシの付き合いは、三十年にもなるけれど、そんな話は初耳だ」
「ああ、そうだな、そうだよな。誰にも話したことはない。惚れた女と言ってもさ、バカな男の話だからさ…」
「六十過ぎて独り身で、アタシはてっきりユーさんが、女嫌いと思ってた。いやいや、週に四日は通って来るし、もしかしたら、アタシにほの字…。あら、いやだ。私ったらなんてことを言うんだろ。冗談ですよ、は冗談よ」
「ママにほの字じゃ、どんなに楽か。そうじゃないから辛いのさ。男ってのはバカだよな」
「どんな話か知らないが、話してごらんよ、聞いたげる。聞いて一緒に泣いたげる」
アタシは聞かずにいられない。ビールを飲んでユーさんは、ポツリポツリと話し出す。
「オレとあいつが会ったのは、小学校の三年生。あいつの名前は笹山六子(むつこ)。六月六日が誕生日。だから、みんなはロクちゃんと、あいつのことを呼んでいた。出会いというには幼すぎ。三年生から四年間、六年生まで同級生。何処にでもある同級生。こんなことになるなんて、あの頃予想もしなかった。ただ違うのは四年間、あいつとオレはリレーの選手。運動会の花形だった。運動会が近づくと、毎日放課後リレーの稽古。あいつはいつもスターター。オレはいつもアンカーさ。今では想像できないが、あの頃オレは細かった。ロクちゃんの、スタートダッシュは素晴らしく、走る姿が美しい。足はまっすぐ前に伸び、背筋を伸ばして風を切る。短い髪に鉢巻き巻いて、大体一位でバトンを渡す。抜きつ抜かれつバトンが渡り、オレにバトンが渡るのは、一位か二位が多かった。二位でバトンが来た時は、ここぞとばかり張り切った」
「二位がどうしていいんだい」
「アンカーが走る距離は、半周長い。ここで抜いたら、いい気分。観覧席は盛り上がり、たちまちクラスのヒーローさ」
「おや、そうかいユーさんは、運動会の花形かい。今じゃそうは見えないが、そんな時もあったのかい?」
「四年生か五年生。あいつがオレに言ったのさ。私もアンカーやりたいわ。それで、オレがスターター。結果はどうだか忘れたが、あいつはオレに言ったのさ。私はやっぱりスターター。バトンが来るまで緊張するわ。オレもあいつに言ったのさ。スターターはこりごりだ。ピストル鳴るまでドキドキするわ」
「いいねえ、ユーさん、いい思い出だ」
「そうだよ、ママさん、いい思い出だ」
アタシはビールを注ぎました。
「その頃は、好きも嫌いもなかったさ。ただ走るのが早い女子、早い男子というだけさ。ただそれだけのことだった」
「そりゃあそうだよ、当たり前。好きも嫌いもあったなら、とんだオマセな小学生。それからどうにかなったのかい?」
「どうにもならんよ。それだけさ」
「それがどうして、こうなった」
「小学校を卒業し、中学校は別々さ。そこで終わればそれだけだった。リレーのことも、忘れただろう」
「それじゃあ、どこかで再会かい?」
「ああ、そうだよ。再会したさ、高校生になってから…。一年生では気付かなかった。一クラスには五十人。団塊世代のことだから、そいつが全部で八クラス。一人一人は覚えちゃいない。それが二年でクラス替え。同級生になったのさ」
「そうかい。それが二人の再会かい?」
「再会と言えば言えるがその時は、ただ同級生になっただけ。もう一人、同級生になったヤツ。小学校の同級生、星場雅夫という男。中学校は同じだが、同級生にはなってない。その星場というヤツが、オレとあいつを覚えてた。そいつが、みんなに言いふらす。
ロクちゃんと柚木満夫は大スター。小学校の運動会、リレーの選手で大スター。二人は仲が良かったと、あることないこと言いふらす。
みんなは、ワイワイ囃し立て、オレとあいつを冷やかした。オレは困って俯くだけさ。
確かに仲は良かったさ。だけど、あいつはその時言った。オレを指差しこう言った。柚木君、私のことをクロコと言った。そんなことは覚えちゃいない。あいつは本気で怒ってた」
「それは、悪いことを言ったわね。ユーさんは、男だから無理もない。小学生の子どもでも、そういうことは覚えているよ。女はね」
「いやいや、だけど、ねえママさん、オレに悪気は全くないよ。覚えちゃいないことだもの。だけどホントに黒かった。あの頃は、外で遊んで真っ黒け。子どもは、それが当たり前。だから、多分、見たまま言ったと思う。ロクコとクロコの駄洒落のつもり。そうだったかもしれないさ。あの頃の、オレは駄洒落に凝っていた」
「それでも。クロコは傷つくよ」
「そんなもんかね。ねえ、ママさん」
「それはそうだよ、ねえ、ユーさん。たとえ小さな子どもでも、やっぱり女は女だよ…」
「そんなもんかい、女ってやつは…。オレにとっては、その時は、そこまで深く考える、そんな歳ではなかったさ」
「それはそうかもしれないけれど、それはとんだ失言だったわね」
「それからあいつは、オレを避けては知らん顔。そんなことをされてるうちに、オレはあいつを意識しだした。もうその頃は、そんなに日にも焼けてない。よく見りゃ、なんだかいい女。気のせいか、あいつもオレをチラチラ見てる。そんな気がしていただけさ…」
ユーさんは、溜息ついてビールを飲んだ。アタシはすぐにビールを注いだ。
「あ~らそうかい、ねえユーさん。それで二人はお付き合いってことになったのかい?」
「いやいや、ママさん面目ない。何にもなくて卒業さ」
「なんだい、ユーさん。それで惚れた腫れたもないもんだ」
アタシは奥へ引っ込んで、キュウリの漬物持ってきた。
「これでもお食べよ、ねえ、ユーさん。いつになったら惚れた話のなるんだい」
「そんなに急に言われても、今順番に話すから、黙って聞いてくれないか…」
「ああそうだね。ゴメンなさい」
「高校出てから一年後、あいつがオレに電話をくれた。ねえ柚木君、今度の日曜空いている?」
「おや? 何かあったのかい?」
「もしも、空いているのなら、私と会ってと言うあいつ。どうかしたかと聞いたなら、何かなければいけないの? あいつがオレに聞き返す。いやいや、別にいいけれど…、ってことで会ったのさ。喫茶店で会ったのさ」
「いよいよ、恋の花が咲く」
アタシは手を止め、身を乗り出した。
「いやいや、そんな話じゃないよ。とりとめのない話。ただ何となく懐かしく、オレと話がしたかった。職場での、女同士のいざこざや、嫌な上司の話など…。あいつは一人で話をするさ。オレは黙って聞くばかり。それでもあいつは、上機嫌。また、会ってと言うあいつ。それから時々会うように…。オレは話を聞くばかり。恋の花など咲きゃしない」
「なんだいユーさん、じれったい」
「ある時あいつが、ポツリと言った。結婚するのと言うあいつ。叔母が紹介した相手。好きな人はいるのかと、聞かれていないと答えたら、いつの間にやらこうなった。なんでわざわざオレに言う。女心はわからない。結婚式に招待された。披露宴、白無垢姿を見たオレは、なんだか知らずに涙が出そう。ホントに綺麗な花嫁だった。宴が終わって、客たちを、ドレス姿で見送るあいつ。綺麗だったと言ったなら、あいつはオレの耳元で、小さな声で『バカ…』と言った」
アタシは聞いて溜息もらす。
「バカだねユーさん、それはさあ…」
「ああ、そうだよ、バカだった。分かっったんだよ、『バカ…』の意味。大事なバトンを落とした気分。気が付いたのが遅すぎた。あいつは既に西郷六子。気が付いたのが最後だなんて、洒落にもならんよ、バカだろう。その『バカ…』が、小魚の小骨のように刺さってる。ずっと胸に刺さってる…」
「ほんとだねえ。洒落にもならんね、バカだねえ。さあさ、お飲みよ、お飲みなさい」
アタシは、グラスにビールを注いだ。
「あいつの旦那は転勤族で、道内各地を転々と…。そして今では札幌に、家を構えて住んでいる。だけど、住所は知らないままさ」
「そうかい、会いに行ける仲じゃない。それじゃ彼女とは、随分会っていないのかい?」
「六十過ぎてオレたちは、毎年お盆にクラス会。あいつの父は亡くなって、今では母親一人住まい。だから、あいつはお盆に帰る。年に一度は会えるのさ。ある時、クラス会であいつが言った。柚木君はこう見えて、昔は結構カッコがよくて、色は白くて背が高い。頭が良くて運動できる。クラスの女子には人気があった。過去形なのかとツッコむと、過去形だから言えるじゃないの…と言うあいつ」
「それもなんだか切ないね」
「そして、今朝の新聞さ。ふと目についた全道版のお悔やみ欄。あいつの名前が載っていた。西郷六子と載っていた。落としたバトンは、もう拾えない。あいつは遠くで死んだのさ。それで朝から気分が滅入る。惚れた女が死んだのさ。今しみじみとそう思う」
「それはホントにその人なのかい?」
「西郷六子、そうある名前じゃないからさ」
アタシは、天井見上げて言葉を探す。ユーさんは、言葉を落として下を向く。
その時、バタンとドアが開く。
「オハヨー、ママちゃん。今日も暑いよ、ビールが売れる」
入ってきたのはマドカちゃん。茶髪でロン毛の可愛い子。アタシのお店の看板娘。
「あ~ら、ユーさん、もう来ていたの?」
色が白くて背が高い。大きな声で、よく笑う。おっちょこちょいが玉に瑕。
「どうしたのよ、二人とも。お通夜みたいな顔をして…。あっ! もしかして、ママとユーさん怪しい仲なの? そうなんだ」
高校時代はスケート選手のマドカちゃん。今じゃ、話が滑ってる。
「違う、違うよ、マドカちゃん。困っているよ、ユーさんが…」
「実は、そうだよ、マドカちゃん。今、ママさんにプロポーズ。ところが残念お断り」
「およしよ、ユーさん、よしとくれ。この子に冗談通じない。本気にしたらどうするの」
とか何とか言ってると、ブルルブルルと着信音。携帯持ったユーさんが、青い顔して画面を見てる。
「あれ? あいつから着信だ。なんで電話が来るんだよ。幽霊からの電話だよ」
ユーさんは、アタシを見つめて、困り顔。
「出てごらんなさいよ。ねえ、ユーさん。幽霊なんかいやしない。お盆にゃちょいと早すぎる。ご親戚かもしれないよ」
「幽霊って何よ? 一体何の話なの…」
マドカは意味が分からない。
「はい…、もしもし柚木です」
ユーさんは、恐る恐る小声で返事。
「…、え、何だよ! ロクちゃんなのか? 死んだんじゃなかったの? …。ああそうかい、オレはまた、てっきりロクちゃんが…。…。ああそうだったのか、良かったよ。それじゃあ今年も来るんだね。クラス会で会えるよね。待っているよ、楽しみに…」
「なんだい、ユーさん。どうなってるの?」
あっけにとられて、アタシは聞いた。
「イヤハヤ、とんだ大違い。同姓同名別人だった。自分も今朝は驚いた。どうして私が死んでるの? 住所を知らない柚木君。きっと私が死んだと思い、心配してると電話をくれた。やっぱりそうだったんだ、柚木君。私はあんなに歳ではないわ。亡くなったのは九十歳のお婆さん。オレたちだって決して若いと言えないが、あいつはゲラゲラ大笑い」
アタシは酒場の聞き女。どんな話も聞いてやる。聞いて笑って泣いてやる。
したっけ。
【かってにせんでん部】
minimarche
ハーブティーは下記のお店「雑貨(Tkuru&Nagomu)で取り扱っています
雑貨(Tukuru ・nagomu) 0155-67-5988
可愛い雑貨も、たくさんありますよ。
Cafe & Bsr Noix(ノワ) 0155-67-5955
落ち着いた雰囲気で、ゆっくり食事ができます.
080-0018 帯広市西8条南6丁目7番地
http://www.d-kyoya.com/minimarche/
O9月13日(水) 11:00~ 『敬老の日BOXアレンジ』... 材料費:2500円程度~(選花材によって金額が変わってきます。) O9月15日(金) 11:00~ 『天然石ブレスレット』 材料費:1500円程度~(お選びになる石によって金額が変わってきます。) どちらも前日までのご予約となっています。
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080-0018 帯広市西8条南6丁目7 ☎0155-22-2151
↑:友人がオーナーの店です
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イヌサフランの花が咲きました。地面から直接花が咲く珍しい植物です。
毎年、春に葉が出て、夏に枯れます、そして、今頃花だけ咲きます。
「イヌサフラン咲きました」 MY GARDEN 2016.09.16撮影
花名:犬サフラン
開花時期:9~10月
花の色:白、ピンク、紫
名前の読み:イヌサフラン(コルチカム)
分布:ヨーロッパ中南部、北アフリカ
生育地:庭植え、鉢植え
植物のタイプ:多年草
大きさ・高さ:10~20㎝
分類:ユリ科 イヌサフラン属
花被片は6枚です。クロッカスやサフランに似ていますが、雄蕊の数や形状が異なります。イヌサフランの雄蕊は6本です。
花の咲くころには葉はなく、翌春になって線形の葉が出てきます。
机の上に置いておくだけでも花を咲かせます。
和名の由来は、サフランに似ているが食材として役に立たないことからきています(サフランはフランス料理の食材)。
いぬ【犬】 よく似てはいるが、実は違っているという意を表す。「―蓼(たで)」 デジタル大辞泉の解説 |
一般にはコルチカム(Colchicum)の名で流通しています。
コルヒチンという痛風治療薬の原料となります。
コルヒチンはアルカロイドで、誤食すると呼吸麻痺を起こすこともあります。
したっけ。
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土曜日の夜はクラス会でした。埼玉から毎年帰省する友人を囲み市内近郊から12人が集まり、総勢13人が集まりました。場所は、私が毎日宣伝しているNoix(ノア)です。
そこで、師匠から帯広に宮沢賢治の石碑があるという情報を仕入れました。
師匠が私に知っているかと尋ねました。師匠も知らないし、私もそんな情報は聞いたことがありませんでした。
そこで、昨日(10日)行ってきました。健康のために自転車で行きました。行きはよいよい帰りはこわい~でした。(北海道弁で疲れることを“こわい”といいます)
地図検索で自宅から5.17㎞のところです。
宮沢賢治
ああ ここは
すっかりもとの通りだ
木まで
すっかりもとの通りだ
木は 却って
小さくなったようだ
みんなも遊んでいる
ああ あの中に
私や私の昔の友達が
いないだらうか
虔十公園林より
北海道帯広市西3条南6丁目 帯広市中央公園
帯広は、空の大きな街です。そして、水が美味しい街です。駅で水道水をペットボトルで売っています。
駅を出ると、広くてまっすぐな道路と、遮るもののない空が見わたせます。
地図を広げて、壮大な碁盤の目になっている市街を見ても、この街がほんとうに広々とした平原に計画的に作られた街です。
この街のほぼ中心にある小ぢんまりとした公園が、「帯広市中央公園」です。
開拓初期からこの地にずっと建っていた帯広小学校が移転した跡地に造られた公園です.
明治29年(1896年)、帯広小学校誕生。
明治38年(1905年)、この地に移転。
昭和47年(1972年)、現校舎に移る。
昭和51年(1976年)、中央公園造成。
その入口近く、下写真の「中央公園」という標識の台座には、次のような文章が刻まれています。
この公園は帯広小学校跡地に市が昭和五十一年に造成した帯広圏都市計画公園である
帯広小学校は明治二十九年(一八九六)西一条南七丁目に 学童三十八名をもって誕生 明治三十八年西三条のこの地に移転して風雪に六十年を過した 昭和四十七年西九条の現校舎に移り 本年開校八十年を迎えた 第一回卒業生が巣立ってから二万名 各々青雲の志を抱いて大空に飛び立った
思い出つきない 母校の跡が市民憩いの中央公園に生れ代わったことは誠に今昔の感にたえない
よって同窓生一同相集い 柏の老樹のまわりに若柏を植え記念碑を建て永く愛惜の情をとどめることにした 公園よ市民に愛され若木よ茂れ
母校よ 永久に幸あれ
昭和五十一年九月十二日
帯広小学校同窓会
そしてこの公園のまん中あたりには、一つの大きな岩がありました。
その岩肌には、上写真のようにさりげなく賢治の「虔十公園林」の一節が彫られていたのです。
これは、この地に住んでいながら、まったく知らない情報でした。よく見ないと気づかないほどさりげなくありました。
その一節は童話の中で、かつて公園林で遊び、今は偉くなって母校の小学校に講演のために帰ってきた博士が、久々に公園林を見てひとりごとのようにつぶやく言葉なのですが、このテキストの選択にも、帯広小学校の卒業生の皆さんの思いが託されているのでしょう。
ちなみに「虔十公園林」は、彼らがこの地で4年生の時に学んだ教科書に載っていたのだそうです。
童話の中で虔十の住んでいた町も、虔十の死後、鉄道や工場が建設されてどんどん発展していきました。
この帯広も、依田勉三が開拓に入ったころからは大きく姿を変えてきたのですが、その昔小学校の校庭にあった木々は、今はすばらしい「公園林」となって、変わらず葉を茂らせているのです。
依田 勉三(よだ べんぞう、嘉永6年5月15日(1853年6月21日) - 大正14年(1925年)12月12日)は日本の北海道開拓者。北海道開墾を目的として結成された「晩成社」を率い帯広市を開拓した。 |
この「中央公園」が「虔十公園林」のようになることを願って石碑を置いたのだと思います。
宮沢賢治
虔十(けんじふ)はいつも繩(なは)の帯をしめてわらって杜(もり)の中や畑の間をゆっくりあるいてゐるのでした。
雨の中の青い藪(やぶ)を見てはよろこんで目をパチパチさせ青ぞらをどこまでも翔(か)けて行く鷹(たか)を見付けてははねあがって手をたゝいてみんなに知らせました。
けれどもあんまり子供らが虔十をばかにして笑ふものですから虔十はだんだん笑はないふりをするやうになりました。
風がどうと吹いてぶなの葉がチラチラ光るときなどは虔十はもううれしくてうれしくてひとりでに笑へて仕方ないのを、無理やり大きく口をあき、はあはあ息だけついてごまかしながらいつまでもいつまでもそのぶなの木を見上げて立ってゐるのでした。
時にはその大きくあいた口の横わきをさも痒(かゆ)いやうなふりをして指でこすりながらはあはあ息だけで笑ひました。
なるほど遠くから見ると虔十は口の横わきを掻(か)いてゐるか或(ある)いは欠伸(あくび)でもしてゐるかのやうに見えましたが近くではもちろん笑ってゐる息の音も聞えましたし唇(くちびる)がピクピク動いてゐるのもわかりましたから子供らはやっぱりそれもばかにして笑ひました。
おっかさんに云(い)ひつけられると虔十は水を五百杯でも汲(く)みました。一日一杯畑の草もとりました。けれども虔十のおっかさんもおとうさんも仲々そんなことを虔十に云ひつけようとはしませんでした。
さて、虔十の家のうしろに丁度大きな運動場ぐらゐの野原がまだ畑にならないで残ってゐました。
ある年、山がまだ雪でまっ白く野原には新らしい草も芽を出さない時、虔十はいきなり田打ちをしてゐた家の人達の前に走って来て云ひました。
「お母(があ)、おらさ杉苗七百本、買って呉(け)ろ。」
虔十のおっかさんはきらきらの三本鍬(さんぼんぐは)を動かすのをやめてじっと虔十の顔を見て云ひました。
「杉苗七百ど、どごさ植ゑらぃ。」
「家のうしろの野原さ。」
そのとき虔十の兄さんが云ひました。
「虔十、あそごは杉植ゑでも成長(おが)らなぃ処(ところ)だ。それより少し田でも打って助(す)けろ。」
虔十はきまり悪さうにもぢもぢして下を向いてしまひました。
すると虔十のお父さんが向ふで汗を拭(ふ)きながらからだを延ばして
「買ってやれ、買ってやれ。虔十ぁ今まで何一つだて頼んだごとぁ無ぃがったもの。買ってやれ。」と云ひましたので虔十のお母さんも安心したやうに笑ひました。
虔十はまるでよろこんですぐにまっすぐに家の方へ走りました。
そして納屋から唐鍬(たうぐは)を持ち出してぽくりぽくりと芝を起して杉苗を植ゑる穴を掘りはじめました。
虔十の兄さんがあとを追って来てそれを見て云ひました。
「虔十(けんじふ)、杉ぁ植る時、掘らなぃばわがなぃんだぢゃ。明日まで待て。おれ、苗買って来てやるがら。」
虔十はきまり悪さうに鍬(くは)を置きました。
次の日、空はよく晴れて山の雪はまっ白に光りひばりは高く高くのぼってチーチクチーチクやりました。そして虔十はまるでこらへ切れないやうににこにこ笑って兄さんに教へられたやうに今度は北の方の堺(さかひ)ら杉苗の穴を掘りはじめました。実にまっすぐに実に間隔正しくそれを掘ったのでした。虔十の兄さんがそこへ一本づつ苗を植ゑて行きました。
その時野原の北側に畑を有(も)ってゐる平二がきせるをくはへてふところ手をして寒さうに肩をすぼめてやって来ました。平二は百姓も少しはしてゐましたが実はもっと別の、人にいやがられるやうなことも仕事にしてゐました。平二は虔十に云ひました。
「やぃ。虔十、此処(ここ)さ杉植るなんてやっぱり馬鹿(ばか)だな。第一おらの畑ぁ日影にならな。」
虔十は顔を赤くして何か云ひたさうにしましたが云へないでもぢもぢしました。
すると虔十の兄さんが、
「平二さん、お早うがす。」と云って向ふに立ちあがりましたので平二はぶつぶつ云ひながら又のっそりと向ふへ行ってしまひました。
その芝原へ杉を植ゑることを嘲笑(わら)ったものは決して平二だけではありませんでした。あんな処に杉など育つものでもない、底は硬い粘土なんだ、やっぱり馬鹿は馬鹿だとみんなが云って居(を)りました。
それは全くその通りでした。杉は五年までは緑いろの心(しん)がまっすぐに空の方へ延びて行きましたがもうそれからはだんだん頭が円く変って七年目も八年目もやっぱり丈が九尺ぐらゐでした。
ある朝虔十が林の前に立ってゐますとひとりの百姓が冗談に云ひました。
「おゝい、虔十。あの杉ぁ枝打ぢさなぃのか。」
「枝打ぢていふのは何だぃ。」
「枝打ぢつのは下の方の枝山刀で落すのさ。」
「おらも枝打ぢするべがな。」
虔十は走って行って山刀を持って来ました。
そして片っぱしからぱちぱち杉の下枝を払ひはじめました。ところがたゞ九尺の杉ですから虔十は少しからだをまげて杉の木の下にくぐらなければなりませんでした。
夕方になったときはどの木も上の方の枝をたゞ三四本ぐらゐづつ残してあとはすっかり払ひ落されてゐました。
濃い緑いろの枝はいちめんに下草を埋めその小さな林はあかるくがらんとなってしまひました。
虔十は一ぺんにあんまりがらんとなったのでなんだか気持ちが悪くて胸が痛いやうに思ひました。
そこへ丁度虔十(けんじふ)の兄さんが畑から帰ってやって来ましたが林を見て思はず笑ひました。そしてぼんやり立ってゐる虔十にきげんよく云ひました。
「おう、枝集めべ、いゝ焚(た)ぎものうんと出来だ。林も立派になったな。」
そこで虔十もやっと安心して兄さんと一緒に杉の木の下にくぐって落した枝をすっかり集めました。
下草はみじかくて奇麗でまるで仙人たちが碁(ご)でもうつ処のやうに見えました。
ところが次の日虔十は納屋で虫喰ひ大豆(まめ)を拾ってゐましたら林の方でそれはそれは大さわぎが聞えました。
あっちでもこっちでも号令をかける声ラッパのまね、足ぶみの音それからまるでそこら中の鳥も飛びあがるやうなどっと起るわらひ声、虔十はびっくりしてそっちへ行って見ました。
すると愕(おど)ろいたことは学校帰りの子供らが五十人も集って一列になって歩調をそろへてその杉の木の間を行進してゐるのでした。
全く杉の列はどこを通っても並木道のやうでした。それに青い服を着たやうな杉の木の方も列を組んであるいてゐるやうに見えるのですから子供らのよろこび加減と云ったらとてもありません、みんな顔をまっ赤にしてもずのやうに叫んで杉の列の間を歩いてゐるのでした。
その杉の列には、東京街道ロシヤ街道それから西洋街道といふやうにずんずん名前がついて行きました。
虔十もよろこんで杉のこっちにかくれながら口を大きくあいてはあはあ笑ひました。
それからはもう毎日毎日子供らが集まりました。
たゞ子供らの来ないのは雨の日でした。
その日はまっ白なやはらかな空からあめのさらさらと降る中で虔十がたゞ一人からだ中ずぶぬれになって林の外に立ってゐました。
「虔十さん。今日も林の立番だなす。」
簑(みの)を着て通りかゝる人が笑って云ひました。その杉には鳶(とび)色の実がなり立派な緑の枝さきからはすきとほったつめたい雨のしづくがポタリポタリと垂れました。虔十は口を大きくあけてはあはあ息をつきからだからは雨の中に湯気を立てながらいつまでもいつまでもそこに立ってゐるのでした。
ところがある霧のふかい朝でした。
虔十は萱場(かやば)で平二といきなり行き会ひました。
平二はまはりをよく見まはしてからまるで狼(おほかみ)のやうないやな顔をしてどなりました。
「虔十、貴さんどごの杉伐(き)れ。」
「何(な)してな。」
「おらの畑ぁ日かげにならな。」
虔十(けんじふ)はだまって下を向きました。平二の畑が日かげになると云ったって杉の影がたかで五寸もはひってはゐなかったのです。おまけに杉はとにかく南から来る強い風を防いでゐるのでした。
「伐(き)れ、伐れ。伐らなぃが。」
「伐らなぃ。」虔十が顔をあげて少し怖さうに云ひました。その唇(くちびる)はいまにも泣き出しさうにひきつってゐました。実にこれが虔十の一生の間のたった一つの人に対する逆らひの言(ことば)だったのです。
ところが平二は人のいゝ虔十などにばかにされたと思ったので急に怒り出して肩を張ったと思ふといきなり虔十の頬(ほほ)をなぐりつけました。どしりどしりとなぐりつけました。
虔十は手を頬にあてながら黙ってなぐられてゐましたがたうとうまはりがみんなまっ青に見えてよろよろしてしまひました。すると平二も少し気味が悪くなったと見えて急いで腕を組んでのしりのしりと霧の中へ歩いて行ってしまひました。
さて虔十はその秋チブスにかかって死にました。平二も丁度その十日ばかり前にやっぱりその病気で死んでゐました。
ところがそんなことには一向構はず林にはやはり毎日毎日子供らが集まりました。
お話はずんずん急ぎます。
次の年その村に鉄道が通り虔十の家から三町ばかり東の方に停車場ができました。あちこちに大きな瀬戸物の工場や製糸場ができました。そこらの畑や田はずんずん潰(つぶ)れて家がたちました。いつかすっかり町になってしまったのです。その中に虔十の林だけはどう云ふわけかそのまゝ残って居りました。その杉もやっと一丈ぐらゐ、子供らは毎日毎日集まりました。学校がすぐ近くに建ってゐましたから子供らはその林と林の南の芝原とをいよいよ自分らの運動場の続きと思ってしまひました。
虔十のお父さんももうかみがまっ白でした。まっ白な筈(はず)です。虔十が死んでから二十年近くなるではありませんか。
ある日昔のその村から出て今アメリカのある大学の教授になってゐる若い博士が十五年ぶりで故郷へ帰って来ました。
どこに昔の畑や森のおもかげがあったでせう。町の人たちも大ていは新らしく外から来た人たちでした。
それでもある日博士は小学校から頼まれてその講堂でみんなに向ふの国の話をしました。
お話がすんでから博士は校長さんたちと運動場に出てそれからあの虔十の林の方へ行きました。
すると若い博士は愕(おど)ろいて何べんも眼鏡(めがね)を直してゐましたがたうとう半分ひとりごとのやうに云ひました。
「あゝ、こゝはすっかりもとの通りだ。木まですっかりもとの通りだ。木は却(かへ)って小さくなったやうだ。みんなも遊んでゐる。あゝ、あの中に私や私の昔の友達が居ないだらうか。」
博士は俄(には)かに気がついたやうに笑ひ顔になって校長さんに云ひました。
「こゝは今は学校の運動場ですか。」
「いゝえ。こゝはこの向ふの家の地面なのですが家の人たちが一向かまはないで子供らの集まるまゝにして置くものですから、まるで学校の附属の運動場のやうになってしまひましたが実はさうではありません。」
「それは不思議な方ですね、一体どう云ふわけでせう。」
「こゝが町になってからみんなで売れ売れと申したさうですが年よりの方がこゝは虔十(けんじふ)のたゞ一つのかたみだからいくら困っても、これをなくすることはどうしてもできないと答へるさうです。」
「ああさうさう、ありました、ありました。その虔十といふ人は少し足りないと私らは思ってゐたのです。いつでもはあはあ笑ってゐる人でした。毎日丁度この辺に立って私らの遊ぶのを見てゐたのです。この杉もみんなその人が植ゑたのださうです。あゝ全くたれがかしこくたれが賢くないかはわかりません。たゞどこまでも十力(じふりき)の作用は不思議です。こゝはもういつまでも子供たちの美しい公園地です。どうでせう。こゝに虔十公園林と名をつけていつまでもこの通り保存するやうにしては。」
「これは全くお考へつきです。さうなれば子供らもどんなにしあはせか知れません。」
さてみんなその通りになりました。
芝生のまん中、子供らの林の前に
「虔十公園林」と彫った青い橄欖岩(かんらんがん)の碑が建ちました。
昔のその学校の生徒、今はもう立派な検事になったり将校になったり海の向ふに小さいながら農園を有(も)ったりしてゐる人たちから沢山の手紙やお金が学校に集まって来ました。
虔十のうちの人たちはほんたうによろこんで泣きました。
全く全くこの公園林の杉の黒い立派な緑、さはやかな匂(ひほひ)、夏のすゞしい陰、月光色の芝生がこれから何千人の人たちに本当のさいはひが何だかを教へるか数へられませんでした。
そして林は虔十の居た時の通り雨が降ってはすき徹(とほ)る冷たい雫(しずく)をみじかい草にポタリポタリと落しお日さまが輝いては新らしい奇麗な空気をさはやかにはき出すのでした。
したっけ。
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