惨憺たる今年の玉ねぎ畑
選挙が近くなると必ず「おーい元気かー」と不意に訪れる同級生がいる。
市会議員から国政まで、選挙の話が出てくると間違いなくやって來る。
決して悪いヤツではないが、選挙の時しかやって来ない。「オー、あんたが来たらまた選挙か?」
などと冷やかそうと、「選挙以外では一切来ないねー」などと嫌みを言っても一切お構いなし。
今日もやって来た。「今回は比例代表の票が欲しいので、是非我が党へ頼むよ」とだけ言う。
大嫌いな政党ではなく、むしろ友党の応援だから聞く耳を持ってはいる。
「まあせいぜいがんばって」と冷たく追い帰そうとする私に、「これはオレが作ったんよ」と、ビニール袋を差し出す。
中には、これは間違いなくプロの手によると思われる大ぶりなジャガイモがズシリ。メイクイーンと男爵を。
お百姓の倅であることは知っていた。が、これほどの腕前とは思っていなかった。
「ほんとにあんたが作ったんか?」「オレはなんでも作るんよ」と、こともなげに言う。
そうなると選挙の話はそっちのけ、引き留めて畑づくりのノウハウを引き出そうと欲が出る。
あれこれ教えてくれた。最後に「今年はタマネギはどうじゃった?」と水を向けると「ゼンメツ!」という。
「やはりそうか、実はうちのも半分くらいしか採れんかった」というと、「そうじゃろう、今年はダメじゃった」
あっさりしたものである。「天候が災いして早めに葉っぱが倒されてしもうた」。
我が家も真っ青い成長盛りの葉っぱが、時季も来ないのにほとんど倒れてしまった。
「全部途中で腐ってしもうた、また来年よ」と。この思い切りが、如何にもプロらしさを物語る。
実は今年は張り込んでタマネギ600本を植えたのだった。
途中まで極めて順調。このままいくと野菜市に出せるかも、などと冗談を言っていたらこの始末。
ただ、安堵すべきは、今年の不作はアタシの腕のせいじゃないってこと。
彼のような腕前でさえ、お天道様には勝てなかったということ。我が家の不作など当たり前だと、妙に納得。
今度は選挙以外でもたまには遊びにおいでよと、追い帰そうとした自分をちょっと恥じた。