トマトでもミカンでも柿でもありません。「ナス」です。
久しぶりに同級生から電話をもらった。開口一番「生きとるか?いっそも電話も掛からんし、具合でも悪いか心配したぞ」と少しオカンムリ。
「オーッ、元気にしとるよ、アンタも生きとったか?」と応じる。
この会話の通り、今まではほとんどこちらからの呼びかけで、互いの消息を確かめ合って来た。この習慣は、近くにいる同級生の場合ほぼ同じで、皆さん「掛かってくるのが当たり前」みたいな感覚でモノを言う。
そう思いながらでも、いちばん短い付き合いで60年。長い奴は70年も付き合ってきたまさに竹馬の友。何を言っても言われても肯定的に受け止め合う。互いに声を聞くだけで、なんかしら気持ちが安らぐという、不思議なマグマが隠されている。
彼の電話の要件は「たまには顔を見せに来ないか」である。これは何を隠そう「冬野菜が採れたから取りにおいで」というそれとないお誘いなのだ。毎年この季節の優しい彼の心遣いである。
行ってみると、スーパーの野菜売り場ではないが、白菜・大根・蕪・ミズナ・ほうれん草・里芋・ジャガイモ・サツマイモ。生椎茸にキュウイに小豆5合、おまけに根っこ付きの高菜まで。すぐに持って帰れるように準備万端整えてある。おまけに「花瓶に飾ったらいいよ」と写真「花ナス」ももらった。
これほどの本格的な上出来野菜を見せられると「オレも少し畑を作っているんよ」などとは言えないまま、「いつもいつも気の毒だね~」と言いつつ、クルマのトランクいっぱいに積み込む。家庭菜園に毛が生えたような我が家の畑では、これほどの出来映えには遠く及ばない。第一畑作りに彼ほど熱心でない。腕も良くない根気も薄い。
そんな彼は、周りに数多くいる同級生の中で、元気さという点ではイチバンである。
玄関に鍵を掛ける必要もないほど隣近所気心の知れた山間の小さな集落。のんびりこの上ない穏やかな生活。空気もおいしい雰囲気もいい。住環境は理想的な場所である。
最近とみに耳が遠くなったせいか、頑固になって段々意見が合わなくなったんですよ、と奥さんの愚痴も聞かされた。しかし彼は彼で「嫁がおればこそ俺は好きなようにさせてもらっている。夫婦が揃って元気でいることが何よりの幸せっちゅうもんよ」。私にそうっと耳打ちする。
そうか、やはり野菜作りも上手だけあって家庭づくりも上手なのだ。野菜を積み込んだトランクの片隅に、彼の爪の垢も忍ばせて帰ろう。頂き物がもう一品増えた。