斧入れて 香におどろくや 冬木立 蕪村
言い得て妙。まさにこれからの季節を言いあてた見事な一句である。
「冬木立」。こんな季語が飛び交ういま時分は、まだ完全に寒さ慣れしていない体に容赦なく吹く風が冷たい。風邪引かないように気を付けなければ。
これから年の瀬を迎え、年が明けて暖かな春が来るまでの数ケ月間は、マラソンに始まって、陸上長距離レースが楽しみな季節である。
個人のレースもさることながら、全国高校駅伝、天皇杯・皇后杯の都道府県対抗駅伝のように、チーム一丸となって1区から最終区までタスキをつなぐ駅伝もまた興味深々である。
そんな先陣を切って、全日本実業団女子駅伝が、昨日東北宮城県を舞台に行われた。
駅伝の場合、マラソンと違って個人の走る距離も、テレビに映し出される時間も短い。しかも結構入れ替わりの激しい選手層などで、選手の顔も名前もなかな覚えられない。所詮その程度の駅伝ファンの一人である。でもそんな中にあって、今回優勝した日本郵政チームの第1区走者「広中璃梨佳」選手の顔だけはよーく覚えている。全国都道府県対抗女子駅伝でも、全国高校駅伝でも、常に見事な走りで優秀な成績を残している。大きな駅伝大会には必ずあの顔があった。男の子用野球帽をきちっとかぶり、精悍な顔つきは如何にもファンを注目させるに値するキャラである。
そして今一人。この駅伝を最後の舞台として頑張った38才の福士加代子選手に賞賛の拍手を贈りたい。2000年のワコール入社以来走り続け、数々のエピソードや話題を振りまいた、大笑いの豪快さが売りの彼女。そのキャラの通り、最後となる今回の舞台も、彼女の選手人生をある意味象徴する幕切れとなった。6位で受けたタスキを表彰台に上がれる3位にまで持ち上げた。ゴールまで残り20mガンバレッ!と思ったところで、4位の選手にとって代わられた。表彰台がするりと逃げた。
「ギアを上げたが、風のように抜かれてしまった」と例の豪快な大笑い。しかし身体は崩れ落ちた。
結果がどうであろうと、彼女の頑張りは紛れもなく賞賛物である。
馴染みの顔、新しい顔、それぞれに繰り広げられる女の熱い戦い。コロナの憂さを吹き飛ばす勢いで、年末年始のレースを楽しませてもらいたいと願っている。