数を恃みとする官軍の攻撃に また一人 また一人死んで行く
人々の抵抗は押し込められてしまうのか
水滸伝は滅びの物語ではある
腐った国家権力へ抵抗する為に集まった人々が その大きさに取り込まれ消えていく
滅びっぱなしには したくなかったのだろう
数を恃みとする官軍の攻撃に また一人 また一人死んで行く
人々の抵抗は押し込められてしまうのか
水滸伝は滅びの物語ではある
腐った国家権力へ抵抗する為に集まった人々が その大きさに取り込まれ消えていく
滅びっぱなしには したくなかったのだろう
この巻では誰が死ぬのか 何人が死ぬのか
そう思いながら手にとっている
まるで死に様を描きたいから 書き始めた物語ではないか―と思うほど死ぬ
巻を追うごとに登場人物の戦死者が増えていく
梁山泊側には見苦しく死ぬ者はいないのだ
生きている間から紙一重の死を悟っているように
むしろ誰が生き残れるのか こちらが気になったりする
徐々に梁山泊は劣勢に回りつつある
次の巻では 誰が死ぬのだろうと案じつつ
父代わりにも思う捕らえられた盧俊義を救う為燕青は 王英達の力を借り 命を賭す
自分も命を落とすかという状態で 梁山泊へ
悩める楊春を連れて解珍は旅を続ける
大刀関勝は 遂に梁山泊を目指す
学生時代の悪癖が時々蘇る
水では物足りず ジュースの甘ったるさもごめんだ
そんな時 牛乳七分にコーラを三分
ミルクコーラ
何か妙なものを作ってしまう
ところが 氷とミルクコーラの温度が混ざり よい飲み加減になったそれを横取りする者がいる
「おお これぞ南蛮渡来 伴天連の味」
全身は木 よく分からないが 仏像だ
嬉しくもない二万人目に俺がなったのだと 迷惑仏像は言う
俺はこの仏像を返しに行こうと 本来の持ち主の寺を捜している
このひと月以内の自分の行動を 春に配られるご近所の地図を使い振り返っていたりする
そこで幾つか怪しい候補の寺を絞り 様子を探りに出掛けた
と例によって重たくなった背中から声がした
「兄ちゃん兄ちゃん散歩行くなら もっとオモロ~な場所に行こ 若いんやさかい
ほれ 寺なんかつまらへんやないかいな」
と五月蠅い
電車の駅からアパートまでに三つも寺がある
一番貧乏そうな寺の前を通りかかると いつもと雰囲気が違う
何やらほのぼの~としてるのだ
これはどうしたわけだろう
どんより~した感じも消えて
有難い雰囲気が
つられて門を潜ってしまった
と!歩いてきた坊さんは 俺を一目見て怯えて後退さった
坊さんは言った「つ・・・憑いておる!」
焦ったように 続けた「そうじゃ 青年じゃ ついておって当たり前じゃ ふむ ふむ」
もっともらしく続けた言葉が ひどくわざとらしい
俺はかつて営業で鍛えた鋼鉄のスマイルを浮かべた
「関西弁喋る仏像に心当たりがありますね」決めつけつつ笑顔で押していく
「う・・・」一瞬ひいた坊さんは 「喝っ!」
俺の背中に向かい叫んだ
「あ 阿弥陀如来が水浴」
途端に背中が軽くなった
坊さんは俺の手を掴み小さなお堂に向かって駆けた
建物の入り口を閉め 明かりをつけると「ここまで来れば安心じゃ」と坊さんは言った
建物の中には わりかし小さめだが何とも言えず上品で優しげな仏像がある
あの関西弁仏像とは大違いだ
「お前さんに憑いとるアレはな この阿弥陀如来様に惚れておる
フラれてもフラれても
で ぐれてしまい人間にあたりおる」
「あの お坊様は一体―」
「わしか わしはな この寺の不幸な住職慧凛(けいりん)じゃ」
「不幸な―と言いますと」
それから住職 慧凛(けいりん)の内容あるか無いか判らない長い話が始まった
ここは昔はな 大きくはないが立派な寺じゃった ところがいつのまにか化け物が出る寺という評判が立ち・・・
それは作られてから数百年経つ・・・・というある仏像が 勝手に歩くことを始めたことが原因だった
古くなった道具が つくもがみになるーというのはある
だが仏像もそうなるのか
並んでおかれた阿弥陀如来像への恋心が高まり 気がついたら歩いていたーと まだ初々しかった仏像は言った
どれだけ思いの丈を訴えようと 相手にされないことから その仏像はぐれていった
長年の間に役にも立たない妙な力ばかり身につけ ひたすら寺へ迷惑をかけ続けた
漸く何を思ったのか 本体が動かなくなり 寺の住職は「やっと成仏してくれたか」
これでまっとうな仏像に戻ってくれたーと喜んでいたのだと言う
阿弥陀如来像の傍では 嫌われまいと 問題の仏像はネコを被るのだそうだ
俺も被害に遭っていなけりゃ信じなかった・・・・アヤシイ話だ
住職さんは言った
「この際 他にオマケの仏像の三つや四つ つけますから どうぞアレを宜しくお願いします」
「俺は仏像が似合う男じゃありません どうか返品させてください
お願いします」
と礼儀正しく?譲り合ってしまった
「仏縁は大事にしたがよろしい」清澄な響きの声がした
見回すと・・・阿弥陀如来像が喋っている
「さすれば良い後生が得られよう」
住職は得たりとばかりにニタニタした「と言うことじゃ」
どうも体よく押し付けられた気がする・・・・・・
仕方なく諦めて帰ろうとすると タタタ・・・・と可愛らしい足音が追いかけてきた
「すみません父が非常識なお願いをして あのコ ご迷惑かけているのでしょう?ごめんなさい」
「父?」
「わたし慧凛の娘です」
これが!いまどき珍しい清純派 さらさらまっすぐ黒髪 色白 もろストライク・ゾーン
大当たり ーお父さんに似ないで本当によかったーって和風美人
でもアレを「コ」呼ばわりするあたり大物かも
きっと俺の背中を見据えると彼女は言った「ご迷惑かけるんじゃないのよ」
背中で仏像が小さくなった気がした
「いやちっとも迷惑なんてー」(おおいにかかっているが)と言うと 彼女は 「本当に本当にごめんなさい いい加減な父で」
かわいい! こうなったら仏像の一つや二つーと思ってしまったのだ
買い物して無事に帰宅すると・・・・背中が軽くなった
「わしも反省したわ あんさんに迷惑かけたらあかんてな おおきに 仏像の一つや二つ・・・なんて えらいお人や
これから背中に乗らんようにするわ アイス食べてもええか」
「仏像でも暑いのか」
「甘いもん好きやねん」
と・・・アイス持つ手が三つ?????
「どうぞごひいきに弥勒菩薩でえ~す ミロちゃんて呼んでね」
「千手観音のセンちゃん そこんとこよろしく」
仏像が増えていた
口は災いのもとだ 本当に 身をもって知る・・ぞ
「えっと最初の仏像さんは どう呼べばいいんだ」
開き直ってしまった
「自分でも何の仏像かわからへんのや ここは名無しのナナちゃんで」
ミロちゃん センちゃん ナナちゃん
実体は寺にある・・・と言う
古道具屋に叩き売ることもできない
実体もないのに・・・飲み食いするなよーと思う
救われない俺は・・・・ビールに喜ぶ仏像トリオを可愛いなんて思い始めてしまっている
でもできれば寺へ帰ってほしいーと切に祈る