ラジオ放送で觀世流の「通小町」と、「楊貴妃」の一部を聴く。
シテ(主役)は流派の重鎮らしいが、だいぶ年季の入った粗い聲で聴く者をギョッとさせる。
「通小町」における深草少将のやうな、未練と無念と執念に凝り固まって怒ってゐる男ならば丁度よく聴いてもゐられやうが、「楊貴妃」のやうな冥界で独り寂しがってゐる美女があまりに荒れた聲では、せっかく假死して會ひに行っても、「……人違ひでした」スミマセン、と現世へ帰りたくなると云ふものだ。
忘年忘月、映像と画像と遠くからでしか觀たことのない女性アーティストに初めて間近で會ったとき、疲勞による化粧崩れを上からパフをはたいて強引に誤魔化してゐるのを見て“百年の戀も云々”、すっかりがっかりで帰ったことを思ひ出した。