『カズワンは1985年2月に山口市の造船所で造られ、広島県の三原市と尾道市生口島 を約30分で結ぶ定期高速船として使われていた。』──
作業船に水深20㍍まで引き揚げられて曳航される途中で失敗し、沈没地点よりさらに深い海底へ再び“落下”したとの報を得る一方で、觀光船の“經歴”も明らかにされる。
もともとは波穏やかな瀬戸内海を高速運航するために造られ、
二年ほどで引退したのちは備州の船會社へ賣却され、さらに大阪市で個人所有を經て、平成十七年(2005年)十月、「知床の世界遺産登録を機に増大が見込まれる觀光需要に對應するため」北海道の杜撰な觀光船會社に購入され、つひには北の荒海に對應しきれず──
まるで人間の運命の「流転」を見るやうだ。
この船は世界遺産をただの觀光資源と勘違ひした人間たちの犠牲になったのだと、私は被害者のひとりにこの船も加へるべきだと思った。