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20世紀少年 第2章 最後の希望

2013年03月04日 00時36分59秒 | 邦画2009年

 ◇本格科学冒険映画 20世紀少年 第2章 最後の希望(2009年 日本 139分)

 英題 Twentieth Century Boys 2: The Last Hope

 staff 原作/浦沢直樹 監督/堤幸彦 脚本/長崎尚志、渡辺雄介 脚本監修/浦沢直樹

     撮影/唐沢悟 美術/相馬直樹 主題歌/T・レックス「20th Century Boy」

     音楽/白井良明、長谷部徹、Audio Highs、浦沢直樹

 cast 唐沢寿明 豊川悦司 常盤貴子 香川照之 宇梶剛士 小日向文世 木南晴夏 黒木瞳

 

 ◇秘密基地。

 なんて魅惑的な言葉なんだろう。

 幼稚園のとき、運河沿いの地蔵堂の床下は、ぼくらの秘密基地だった。

 土壁に囲まれて、多少のカビ臭さはあったけど、夏は涼しく、冬は暖かな秘密の場所だった。

 基地を作るという技術のなかったぼくらは、小学校になると薬師堂の堂内に集まった。

 夏、お盆の頃になると六双の地獄絵が架けられ、それはそれは不気味な空間だった。

 高学年になり、万博を経験した後、秘密基地はいよいよ本格的なものになった。

 白木の瓶箱を積み上げても、電話線のドラムで囲っても不満だったぼくらは、

 ついにトタン板を空き地に持ち込み、穴を掘って掘立小屋を作り、

 やがては土を背丈よりも深く掘り、その上にトタンを張って、秘密の地下基地を作った。

 アルコールランプはなかったから、蝋燭を持ち込んで灯かりにした。

 基地はできるまでが愉しく、完成するとその魅力は半減したけれども、

 やっぱり空き地が駐車場になってしまったときには、いうにいわれぬ悲しさに包まれた。

 基地を作るのは、駄菓子屋でお菓子を買うまでに似た高揚感がある。

 駄菓子も買うまでが愉しく、選んでいるときのどきどき感はたまらない。

 当時、壱文菓子屋は何軒かあったけど、いちばん通ったのは屋台の三島屋だった。

 6年生のあるとき、クラスで仲の良かったやつの家に遊びにいったとき、

 土間に「三島屋」と染められた暖簾の掛かった屋台が置かれていて、

「お、なんだ、こいつのばーちゃんだったのか」

 と、気がついたときにはちょっとびっくりしたもんだけど、ともかく、

 そのばーちゃんが門前まで屋台を引いてきて、幔幕で囲み、日がな一日、そこで商いしてた。

 いちばん安いのは一個一円の三角菓子で、高い籤引きになると30円はしたっけ。

 塾へ通う道すがらに買うのは揚げたてのコロッケで、それは小学生の貴重な活力源だった。

 コロッケを買って食べたのは道端か公園だったけど、駄菓子は薬師堂でよく食べた。

 その内にお小遣いの使い道はプラモデルに、旅行先では三角ペナントに移っていった。

 ラジコンカーとプラモデルもやがて興味が失せ、雑誌は買わずに漫画の単行本を買った。

 漫画好きに共通しているのは「折るな、汚すな」で、開くときは45度を厳守した。

 教科書はぐりぐり折り目をつけて開くのに、漫画だけはそうはしなかった。

 ぼくたち田舎の少年には、東京タワーも都電もなかったから、漫画だけが心の支えだった。

 おかげで、いまもぼくの帯付き初版単行本のあらかたは、ぴんぴんのまま保管されている。

 オタクという言葉はなかったし、マニアなんていう単語がかろうじて生まれる頃の話だ。

 ところで。

 第1章に比べると、第2章はかなり原作とは異なっている。

 理科室の件が上手にまとめられ、あらすじに変化は生じているものの、

 複雑な話が判り易く展開している。

 にしても、いったい、どんな科学技術を使うと、脳内にあんな過去が創出できるんだろう?

 ま、そんなことはいいとして、鮒の解剖の前日に突然死んじゃったカツマタ君、

 そろそろ謎解きに絡んでくるのかな~とおもっていたら、

 その象徴になってる忍者ハットリ君の首吊りと、首吊り坂のてるてる坊主の首括りだけだった。

 けど。

 ケンヂたちが自分たちを正義の味方と信じ、友民党が悪の教団と断定される「よげんの書」が、

 救世主の立ち上がりと暗殺にいたる「しんよげんの書」に移っていくに連れて、

 ケンヂたちがスケープゴートとして悪の教団にすり替えられてしまう筋立ての巧みさは、

 さすがに浦沢直樹の話運びの上手さというべきなんだろうか。

 いじめ、仲間はずれ、カツアゲ、ばい菌、無視、絶交、プライドの崩壊。

 少年特有の無邪気な残酷さと決して消えない心の傷、そして同時に、罪の意識。

 おそらく子供だった頃には、大小の差こそあれ、誰もが感じてきただろう辛い記憶の欠片。

 それが、浦沢直樹の筆によってまのあたりにされてきたし、またこのたびの映像化でも、

 少年の日々は決してきらきら輝いていただけじゃないと改めて自覚された。

 昔の日々を蘇らせてくれただけでも、ありがたいことだ。

 ちなみに。

 木南晴夏は、すごかった。

 小泉響子という女子高生を、まるで原作から抜け出したかのように演じてみせる技量は、

 これ、並大抵なものじゃないっす。

 たしかに子役のキャスティングも見事だったし、美術もまた好かったけど、彼女には及ばない。

 ただ、これから他の作品で演じてゆくのは苦労するだろうな~ともおもっちゃうんだけどね。

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