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だれもがクジラを愛してる。

2013年03月24日 13時44分11秒 | 洋画2012年

 ◎だれもがクジラを愛してる。(2012年 アメリカ 107分)

 原題 Big Miracle

 staff 原作/トム・ローズ『だれもがクジラを愛してる。』

      監督/ケン・クワピス 脚本/ジャック・アミエル、マイケル・ベグラー

     撮影/ジョン・ベイリー 美術/ネルソン・コーツ 音楽/クリフ・エデルマン

 cast ドリュー・バリモア ジョン・クラシンスキー クリステン・ベル ヴィネッサ・ショウ

 

 ◎1988年10月6日、アメリカ・アラスカ州バロー

 そういえば、こんなニュースあったな~とおもいだした。

 当時、日本において、クジラが氷に閉じ込められたという報道は、

 フロントページになるようなものでもなかったような気がする。

 テレビでも、

「このクジラを救出するために100万ドルが費やされたようです」

 とかいった、どちらかといえば、冷静なコメントがなされていたような気もする。

 だから、世界を巻き込んで、みんなが感動しちゃったとかいう現象じゃなかったような。

 だいたい、クジラどころじゃなかった。

 クジラが氷に閉じ込められた前月、ゴルバチョフはソ連の国家元首になり、

 いよいよペレストロイカが動き出し、アフガニスタンからも軍隊を撤退させ、

 中国でも民主化運動が盛り上がり、東西の雪解けが始まるってな状況だった。

 いいや、そんなことより、

 わが国は、激震していた。

 1988年9月19日、昭和天皇のご重篤が報ぜられたからだ。

 陛下のご快復を願う記帳は、最終的に900万人という数に上り、

 同時に、日本国では徹底した自粛が行われた。

 昭和天皇が崩御されたのは、翌年の1月7日だけれど、

 服喪となっても、企業はCMを自粛し、政治家は外遊はもとよりその活動を控えた。

 国民も同様で、祭りという祭りは自粛された。

 そういった状況にある中、クジラに対して、日本はほぼ沈黙していた。

 井上陽水の「お元気ですか~?」ていうCMが放送されなくなったとき、

 アラスカで氷に閉じ込められて死にそうになっているクジラの報道は、

 それがいかに「助けろ!」という呼びかけであるにせよ、難しかったろう。

 いや、実際のところ、捕鯨国であるぼくらの国では、

「クジラを救うとかって、それにそんなに沢山のお金を使うわけ?」

 みたいな感想をもった人たちだって、もしかしたら、少なくなかったかもしれない。

 ところが。

 その激動の1988年から四半世紀が経った今、

 この映画、けっこう感動しちゃうんだ。

 環境保護団体グリーンピースに所属しているちょいと気の強いおねーちゃんを、

 ドリュー・バリモアが演じてるんだけど、彼女がCNNの小さなニュースを見、

 クジラが大変なことになってんじゃない!ということが発端になる。

 それからは、徐々に報道が過熱し、

 クジラを生存してゆくための貴重な食糧にしているイヌイットも、

 伝統を理解してもらつつ、地元にお金が落ちるのを期待して協力し、

 アラスカ州知事が州兵を派遣したかとおもえば、石油開発会社までもが手を差し伸べ、

 ついには、

 レーガン大統領までもが差し迫った選挙戦を有利に展開するためにコメントを始め、

 さらに東西の雪解けが手伝ったものか、ソ連の砕氷船まで出動するという事態になる。

 ほんとに小さなニュースがとんでもなく大きなものになって世界を巻き込むという筋立ては、

 お祭り好きな僕の非常に好むところなんだけれど、まあ、それはおいといて、

 人間の醜い部分、つまり打算と欲望が一気に表舞台に噴き出しつつも、

 3頭の親子クジラを救おうという、見ようによっては偽善的なプロジェクトに発展するのは、

 滑稽をとおりこして、凄まじいエネルギーまで感じてしまう。

 もちろん、この映画に対して、

 グリーンピースのプロパガンダだと批判する人もいるだろうし、

 映画の内容とはまったく関係なく、

 クジラか~給食で「オーロラ煮」よく食べたな~と懐かしがる人もいるだろうし、

 日本人と鯨漁は切っても切れないんだよ、クジラベーコン食うだろっていう人もいるだろうし、

 ようやく映画の話に戻っても尚、

 ソ連だって年に200頭くらいクジラを捕ってんのに助けんの?とかいう人だっているだろう。

 でも、

 クジラを伝統的な食糧あるいは生態調査の対象として位置づけ、

 調査捕鯨という名目のもとで鯨漁が行われている一方で、

 たった3頭のクジラを助けるために、

 たとえ、いろんな思惑があるにせよ、

 ともかく世界が動き出したというアンバランスさは棚上げされ、

 なによりもまず命を救うことが大切なんだ、という主張が、

 やがては、紆余曲折を経て私利私欲のために動いていた人間どもの心に届き、

 最後には人力でもってぶあつい氷を打ち砕いてクジラを助けるという、

 感動の大団円に至る脚本は、実に巧みで、おもしろかった。

 それと、ドリュー・バリモアのことだけど、

 おもえば、スピルバークに見出されてから今日まで、ほんと、いろいろあったろう。

 私生活は別にして、ホラー、アクション、恋愛物へと出演をくりかえしたものの、

 どうも、これだよねっていうものが見られなかった。

 それがようやく、よく似合ってるじゃんっていう作品に恵まれたんだから、

 良かったね~と拍手していいのかも。

 あ、ちなみに、日本にグリーンピースが設立されたのは、

 クジラ救出の翌年(1989年)のことなんだって。

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