◎月世界旅行(1902年 フランス 14分)
原題 Le Voyage dans la Lune
staff 原作/ジュール・ヴェルヌ『月世界旅行』&H・G・ウェルズ『月世界最初の人間』
製作・監督・脚本/ジョルジュ・メリエス
cast ジョルジュ・メリエス ジュアンヌ・ダルシー
◎世界初のSF映画
この『月世界旅行』はもちろんサイレント映画なんだけど、
モノクロ版と着色版の2種類がある。
どちらも観たんだけど、弁士付きのはモノクロ版で観た。
いや~凄い。
ただ、着色版の方は後に修復がされているせいか、
カットつなぎがみんなオーバーラップしてて、しかも、1秒16コマとはおもえない。
だって、人物たちの動きがものすごく滑らかで、とても1902年の作には見えないだもん。
それに、着色された色がこれまた綺麗なんだわ。
背景はほとんどセピア色に統一されてるんだけど、衣装がきらびやか。
ひとりひとりが原色の金、青、緑、黄、赤と実にカラフルで、絵画を見てるような気になる。
100年以上前とはおもえないくらい綺麗なおみ足のおねーさんたちのセーラー服も着色。
ちなみに、フランスって国はほんとに進んでて、セーラー服にホットパンツだよ、100年前に。
でも、驚くのはそれだけじゃない。
スタジオのセットがこれまた凝ってて、どれだけ裏方がいたんだろうってくらい、よく動く。
発想もびっくりだ。
巨大な大砲を造り、その砲弾に人間が乗り込んで月に行くっていうんだから。
ただ、やけにメルヘンチックなところもあって、
月も星も擬人化されてる。北斗七星の女神もいれば、土星の老人もいたりする。
『極地探検』ではいろんな星座をかいくぐって鳥型飛行機が飛んでいくんだけど、
こちらは宇宙旅行なだけに神話的な世界はさらに飛躍している。
なのに、どういうわけか、地球へ帰るときには単に崖から落ちるだけという強引さ。
地球の引力に月が引きつけられているのはわかるけど、落ちねーだろ、ふつう。
しかも、月の未開人類にいたっては縄にぶらさがったまま大気圏に突入してるし。
ちなみに、この月人、叩きのめすと爆裂して霧散しちゃうんだけど、
そのときのコマつなぎが絶妙ていうか、よく100年以上も前にこんな編集ができたなと。
あ、でも、海に砲弾ロケットが着水するところなんか、現代の宇宙ロケットだよね。
このあたりは、さすが、メリエス、ヴェルヌ、ウェルズ。
ともかくも、当時の月に対する憧れはなんとも少年っぽくて、
大気があって雪は降るわ、火は燃えるわ、月人類もどうやら酸素吸ってるみたいだわと、
なんだか、発想や画像からしても、
手塚治虫の初期の漫画を読んでるみたいで、
ぼくとしては、なんとも懐かしさの漂っている作品におもえたのです。