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フライト

2013年03月30日 17時37分46秒 | 洋画2012年

 ◇フライト(2012年 アメリカ 139分)

 原題 Flight

 staff 監督/ロバート・ゼメキス 脚本/ジョン・ゲイティンズ

     撮影/ドン・バージェス 美術/ネルソン・コーツ 音楽/アラン・シルヴェストリ

 cast デンゼル・ワシントン ドン・チードル ケリー・ライリー メリッサ・レオ タマラ・チュニー

 

 ◇神よ、おちからを

 物語は、映画にかぎらず、実際に起きた事件や事実がもとになっていることがある。

 映画を観るまでは、この話も、そうした類いのものだっておもってた。

 ていうか、確信してた。

 USエアウェイズ1549便不時着水事故。

 2009年1月15日に起きた事故で、

 偶然、ぼくはこのニュースを見ていた。

 ニューヨークのラガーディア空港を飛び立ったばかりのエアバスが、

 いきなりエンジン停止という非常事態に見舞われたんだけど、

 機長の的確かつ冷静な判断によってハドソン川に不時着水し、

 150人をこえる乗員と乗客を全員、生還させたという凄い内容だった。

 この感動的なニュースは「ハドソン川の奇跡」と呼ばれて、

 ニュースを見ていたときから、

「ああ、これは映画になるだろうなあ」

 とおもってたら、案の定、ハリウッドが映画化するという話が聞こえてきた。

 けど、その後、なんの目新しい情報も入らずにいた。

 そしたら、この映画だ。

お、機長をデンゼル・ワシントンが演るのか。けど、定年間近な白人だったよね」

 てなことをおもったんだけど、あにはからんや、まるで違った。

 この映画が参考にしたのは、

 2000年1月31日に起こったアラスカ航空261便墜落事故らしくて、

 メキシコのプエルト・ヴァリャルタ国際空港を飛び立った航空機が、

 水平安定板が故障したせいで強制着陸しなくちゃならなくなったんだけど、

 完全に安定を失って裏返し飛行になったりしたまま、

 カリフォルニア州の沖合に墜落し、

 乗員5名と乗客83名の全員が死亡するという悲劇だった。

 なるほど、それで背面飛行だったのか、とか納得したものの、

 映画を観るかぎりでは、ふたつの事件を参考にしたようにおもえてならない。

 でも、この航空機事故は話の導入部で、

 実は、アルコールとコカインの中毒になってる男の魂の復活劇だった。

 だから、肩透かしを食らったような感じだったんだけど、

 でも、それなりにおもしろかった。

 さすがに、デンゼル・ワシントンは上手で、

 アルコールとコカインに溺れた、女にだらしないチェーン・スモーカーの役を、

 きちんとこなしてた。

 もちろん、ハリウッドの役者としては当たり前のことなんだろうけど、

 自堕落な生活をおくっている男らしく、顔も腹もでっぷりさせ、眼もよどませてた。

 こういうところは、ほんとうに、見事なものだ。

 話は、途中でアルコール中毒患者のセラピーを見学するハメになったとき、

「なるほど、最後は、公聴会で懺悔するのね」

 てなことが頭に浮かんできて、そのとおりに展開していった。

 でも、

 告白によって主人公の魂は救われ、人間として蘇生していくんだろうけど、

 それだけでいいんだろうかっていう疑問は残る。

 遺族の一部は機長の失態じゃないかとおもうだろうし、

 航空会社のオーナーとかは「会社のひとつくらい潰れてもかまわん」とかいってるけど、

 まじめな社員や関係している人達の人生はどうなるんだろうて。

 たしかに、ワシントンの操縦は神業で、フライトシュミレーションの結果からも、

 ほかの操縦士では乗客も乗員も救えなかったということはわかっている。

 つまり、いくらアル中だろうと、ワシントンが操縦していたおかげで救われたわけだ。

 だから、もしも、ワシントンがアルコールを飲んでいたのが発覚して交代させられていたら、

 もっと悲惨な結果になったであろうことはまちがいないっていう設定になってる。

 このあたり、ほんとに、この脚本はうまい。

 ワシントンは、犯罪者じゃないけど、あきらかにアルコール中毒の病人だ。

 くわえて、あきらかに堕落しきった人間だ。

 かれは、自分が交際していた女性に罪をおしかぶせてしまえば、

 堕落したまま卑怯な人生を送りながらも、英雄として名を残せた。

 けど、最後の最後に良心がとがめ、

「神よ、おちからを」

 と唱えて、堕落した人生に訣別し、初めて息子の尊敬を得ることができる。

 けど、どうなんだろう。

 航空会社は、ワシントンに操縦させたことにより、管理責任を問われるだろうし、

 さらに、事実を隠蔽するという犯罪行為を犯してしまったことで、

 ほぼまちがいなく倒産し、当然ながら弁護士も資格を剥奪されるだろうし、

 なんの罪もない従業員たちまで巻き込まれ、みんなが路頭に迷うことになる。

 ワシントンは、毅然として嘘をつきとおし、原罪の十字架を抱えたまま、

 すべての裁判が終了し、責任の所在が確定した後に、

 あらためて懺悔し、自分の人生をふりだしに戻すという方法もあったろう。

 けど、それじゃあ、留飲の下がる映画にならないし、

「のうのうと生きていくオーナーや重役や弁護士はどうなるんだよ」

 あいつら、悪い奴らじゃんっていう意見も生まれるだろう。

 そういう、いろんなことを映画を観終わった後で考えさせる脚本になってる。

 だから、うまいんだろね。

 

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