◎エル ELLE(2016年 フランス、ベルギー、ドイツ 130分)
原題 ELLE
監督 ポール・バーホーベン
出演 イザベル・ユペール、アンヌ・コンシニ、シャルル・ベルラン、クリスチャン・ベルケル
◎レイプ犯とのいびつな性愛
そもそも自分をレイプした男にまたレイプされたいかと問われれば、YESという女性は皆無だろう。そんなことは常識なんだけれども、それをあえて異常性愛にもにた感情をおさえきれなくなってしまいながらも、また同時に、その相手に対する復讐という殺意を失うことなく、さらにいうと、27人殺しという町内会をすべて惨殺してしまったような殺人鬼の父親の影を必死に払拭しようとかろうじて支えてきたプライドを守りたいという女性像を、イザベル・ユペールがおしころした表情と仕草で演じ切ってる。上手だね。
イザベル・ユペールは地味ながら年を取っても綺麗だし、なかなかどうしてしたたかな雰囲気もあるし、情欲をもてあましながらも上級な仕事をこなしているという自負を漂わせる演技もできる。だから、共同経営者の同棲相手を寝取ったばかりか就業中に社長室で尺八までもやってのけ、隣りに住んでる信仰心の強烈な若妻の夫を望遠鏡で覗きながら自慰するだけでなく、夫婦を晩餐会に招いてテーブルの下で足を絡めてちょっかいを出したりもするし、地下室で犯されるとわかっていながら隣人についていき、レイプされた後その場にひとりで寝そべりながら股間に手を這わせて凄まじいエクスタシーの悲鳴を上げてみせるけど、それがまったく厭らしくない。うん、たいしたもんだ。
そんなことで、途中から「もうこいつしかいないじゃん」と判ってしまう隣りのレイプ犯に、自分をみたびレイプさせ、させつつも息子に目撃させ、さらに母親を助けるための正当防衛で殺人を犯させるという凄まじい復讐劇は、いかにも異常な性愛と過激な情欲を主題にするのが上手なバーホーベンらしいというか、ようやく迷走してきた作品群に区切りをつけられたんじゃないかって気もするな。