Creator's Blog,record of the Designer's thinking

フィールドワークの映像、ドローイングとマーケティング手法を用いた小説、エッセイで、撮り、描き、書いてます。

ドローイング613. 小説:小樽の翆537. "寿さん"

2022年06月12日 | Sensual novel

 

 今日は夕方から、マサヒロ君のパパのアトリエで裸婦のクロッキー教室。

小樽駅でマサヒロ君と腹ごしらえをしてアトリエに向かった。

クロッキーは教室は、美大出身の人もいれば、そんな経験がない人もいて、描くデッサンが違うからすぐわかる。それでもフォルムとは何ぞや、という思いでみんな描いているんだろうな。

マサヒロ君「あの人、すごいクロッキーが旨いんだ」

そうおもって注視すると、確かに上手だ。

「あの人絶対東京芸大出身だよね」

マサヒロ「描き方が技巧的だし上手だよ。人体のフォルムの捉え方なんか的確だしさ。"寿さん"というんだ」

・・・

クロッキー教室が終わって、その寿さんと帰り道が一緒だった。

「どちらの美大ご出身ですか?」

アチキはなんなく尋ねた。

寿「いやー、実は工学系なんですよ・・。私は建設会社に勤めているもんで・・・」

「あら!、美大じゃないの??。どこでデッサンを勉強したんですかぁー???」

寿「実は、デッサンを勉強した経験がないのですよ!」

「はあ!、それで、どうしてそんなに的確に描けるのですか?」

寿「小さい頃から自然に描けるようになっていったんですよ」

えっ!、そんな事ってある?。みんなアトリエに通ってデッサンを沢山勉強して美大の受験を目指すんだけど、最初から勉強もしないでもデッサンが描けるなんて・・・。返事につまったな。紋切り型の質問でも・・・。

「どちらのご出身ですか?」

寿「鹿児島市です!」

「勉強しないでデッサンが自然にできてきた?」

寿「はい、空気鮮明だから、いつも物や風景が立体的に見えるんですよ」

なんとなく解ってきた。つまり湿度が低く物や風景が否が応でも立体的に見える環境で育ったんだ。それは地中海で暮らしきたのに近い。恵まれた環境に育った人がいるもんだ。

寿「風景も描きます。それがこれです」

そういってカルトンの下から着彩した風景画をみせてくれた。

陰をちゃんと色としてみているし、すごい奥行きがある空間感がいいじゃん。

「素晴らしい環境で育ったんですね」

寿「鹿児島はなんでも立体的に見えてしまうんですよ。それに小学校の先生が美大出身だったので、少し技法を教わったらツルツルと描けてしまったんですよ」

そういって寿さんは、苦笑いしながら帰っていった。

彼は、恵まれた環境で育ったというべきなんだろう。多くの日本人はデッサンを勉強しない限り立体的に描けないのだが、寿さんは例外だった。

そういえば、鹿児島県出身の画家というと、黒田清輝、藤島武二、東郷青児など日本人なら誰でも知っているそうそうたる作家達を数多く輩出している。それは風土だったのかぁー。あの地中海の否が応でも物や風景が立体的に見える風土からミケランジェロを輩出してきた事情と同じだ。少し、うらやましいな。

・・・

小樽は初夏の爽やかに夜空である。

コメント
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