人間の体型は、美しくてもはかなく消えてゆく。
特に女のボディは、子供を生んだ時から永遠の愛が一瞬にして消えてしまいそうになるぐらい別体型に変わる場合もある。もちろん、前より細くなったという例外もある。女の体型は、男のように体脂肪が減少して痩せるわけではなく、ホルモンの関係から筋肉が締まって細くなる。
そんなことを考えながらアチキは、描きためた裸婦のクロッキーを眺めながら着彩していた。
俺が描かないと、誰にも気づかれずに女の美ボディは消滅するんだ。「若い頃は美しかったのよ」と言われても、証拠がなきゃ誰も信じない。まあ美というのは、大方は記録されずに消え去る物なのだろう。その中で偶然描きとめられ、そして表現された物だけが残っている。ギリシャ彫刻がそうだったな。
ルーブル美術館にあるホルゲーゼのマルスなんか男の理想型のように格好が良い。見事な筋肉質でありながら、顔がものすごく知性的なのだ。それは「バカみたいに身体を鍛えれば良いというものではないだろう。もう少し理性が働くように頭も鍛えろよ!」そう言われているようだ。
もちろん現代社会でも筋骨隆々はいるけど、それしかしてこなかったとばかりに知性を感じさせる頭脳は欠落して、つまり顔がアホだ。それじゃホルゲーゼのマルスにも及ばない。
・・・
そもそも現代人の多くは、栄養過多だ。特に高齢者になると標準体重を超えるのが加齢の一般傾向だと勘違いされている。そうではなく実は単なる食べ過ぎなのだ。それもBグルメに走り出すと脂肪分の多い料理ばかりだから、太る一方だ。だから身体は四角くなり細いという感じはなくなる。当然お腹も出てくる。
これは、やがて高血圧になり、薬を服用され、その薬は認知症を引き起こす。最後は阿呆で逝っちゃうわけだ。こういうのは、反面教師としておこう。
そんなことを考えていたら、スマホがなった。
翠「アチキー・・今日はエアロビクスの日だよーーん。ジムで待っているからねぇー」
翠からショートメールが来ていた。
そうかジムで鍛えなきゃ、ホルゲーゼのマルスには遠く及ばないが。といって鍛えなければ、二度と見たくない体型になってしまう。ここはやはり、ゆかなきゃ・・・。
マルス!、マルスっと!!・・・・
そんなわけで夕方ナンタルのジムで翠と待ち合わせてトレーニングに没頭していた。
まだ空が明るい小樽の夕方である。
マルス、マルス・・・